第2話 俺もヒーローになりたいです。

 前回のお話:リンネ婆さんが光に包まれて美少女になった。


「リンネ……お嬢様……?」


 大変だこれは本当に大変なことになった。村で一番元気だったとはいえ、まさかこんな意味不明な超展開が待ち受けているなんて……。


 やはり異世界、おそるべし。


「……あの、あなたは?」


「へえあぃっ!?私ですか!?自分は佐竹草薙三等兵でありませんですっ!!」


「え……あ、あの……三等兵さん?」


 しまったあああああ昔やってたサバゲーでの呼び名がああああああああ!!


「いやあの!すいませんあのですね!決して女の人とあんまり喋ったことが無いからどう接していいのかわからないとかではなくてですね!!それでですね!あの、えっと、本日はお日柄もよくですね!!」


「え、いやあの……凄く曇っていますよ?」


「いやいやいや!もうほんと!十年に一度ぐらいの最高の天気ですから!!こんなに外が明るいなんて、今日はなんてさわやかな一日なんだぁー!あははははは!」


「は、はぁ……。」


 ちぃぃぃっくしょおおおおおおおおお何アタマおかしい発言連発しちゃってんだ俺エエエエエエエ!!


「ふえあああああああああありぃぃふしゃああああああああん。」


「はっ!その声は……。」


 馴染みのあるふにゃふにゃ声、俺は咄嗟に振り返った。


 そこには、右腕を精一杯伸ばしながら今にも土に埋もれそうな顔面を打ち上げてパクパクしているリンネ婆さんの姿があった。


「リンネばあああああああさああああああああああンン!!」


 よかった無事だったのか!いや無事じゃない!これ全然無事じゃない!なんか「早すぎた埋葬」みたいになってる!800ポイントライフ払えばいいの!!?


「ってかアレ!?じゃああんたリンネ婆さんじゃない!?曲者か!?その天使のような美貌で俺を惑わす曲者なのか!!?」


「なっ!?わ、私は決して怪しいものでは!!」


「ふええええああああああありぃぃぃぃふしゃあああああああん。」


 このたった3人しかいないはずの世界の片隅で、俺は今までの人生で感じたことの無いカオスを体験していた。


ーーーーーーーーー幕間(まくあい)---------


「申し遅れました。私、ガロンと申し上げます。「イースタン王国」の第三王女で、齢は今年で17になります。」


「めっちゃ強そうなお名前ですね。」


「気にしてるので言わないでください……。」


 空から降ってきたガロンちゃん。見た目は攫われる方だけど、どっちかというとお姫様を攫っちゃう感じだよね。名前だけは。


「で、なんで空から降って来たんですか?」


「そうなんです!お願いですリーフ様!どうか私をお守りください!」


「ちょっと待ってね!オイラ女性とのお付き合いは過程を大事にするんでごわすよ!?」


 いきなり話ぶっ飛ばして前のめりに俺の両手をぎゅっ、ってしないで!ホント耐性ないから!!


「す、すみません……何しろ事態は深刻で……こうしている間にも追っ手が……。」


「あ、何それフラグ?」


「え、フラグ……とはなんですか?」


「あ、知らなくていいです。」


 こっちの話です、すいません。


「私は、王都での内乱から逃げてきたのです。今、「イースタン王国」では、病の床に伏したお父様にとって代わろうと、母や兄弟たちが王座を争っているのです。非力な私は早々に身を引いたのですが、何故だか私を手に入れることが玉座に座る条件になってしまって……。」


「なるほど、わからん。」


「ちゃ、ちゃんとお話を聞いてください!!」


 いやだって……二年間ずっと土と野菜ぐらいしか会話してなかったから……。(なお老人たちの与太話は、会話には含まないものとする。)


「まず、ガロン様は第三王女なんですよね?」


「えぇ、はい。」


 ガロン様ははっきりと頷いた。


「という事は第一、第二王女がいて、更に兄や、弟もいるってことですか?」


「その通りです。と言っても、王城で育った身では私が末っ子です。私の弟たちは皆、城下に下ろされた恨みを反乱の糧にしているようなのです。」


「ほえー、子だくさん。」


 いったいどんなハーレム野郎ですかねぇ……。


「お姉さま二人は既に他国へ嫁に行ってしまったため、実害はありませんが……どうやらその姉二人も、外から手回しをしてこの内乱に加担しているようなのです。」


「まぁ、理由はなんとなくわかりそうなもんですけど。」


 実家から出たとはいえ王国の娘。自分の出身国と今暮らしている国が強力なつながりを持てれば……って感じだろう。


「それで……どうやらお父様は、「私の婿となった者に、玉座を譲る」とおっしゃったそうです。それも、兄弟たちの醜い争いを見かねての事でしょう。」


「おっとお?」


 完全にとばっちりじゃないですかぁ……。


「しかしそれに困ったのは母でした。それでは自分の息のかかった者に、玉座に座らせることができないと。それで母は、私を殺そうと躍起になっているのです。」


「権力争いって怖いっすね。」


 実母でさえ殺しに来るのか。そりゃ逃げ出したくもなるわな。


「父のお触れで、私は国中の玉座を狙うものからその身を追われ、王城に気の休まる場所もあらず、こうして命からがら吹き飛ばされてきたのです。」


「随分破天荒な人生を送ってますね。」


 よ○もとならヒストリーだけで食っていけそうだな……。


「お願いですリーフ様!どうか私をお助けください!お礼ならなんでも致します!」


「いや、わかりますけど、というか本当に何でもしてくれるんですか?言っときますけど、俺ゲスですよ?」


 欲望には忠実に生きていたい。


 一国の王女にナニさせるつもりしかないゲス男だが、それでも涙をこらえて必死の形相で懇願するガロン姫。


「……わかりました。俺がなんとかします!」


「ッ!!リーフ様ならそう言っていただけると思っておりました!!」


「おわっ!!わかった!わかったから抱き着かないで!!あっ……凄く白桃のかほり……。」


 紳士的な怪物がトレビアアアアアアアン!!と言ってしまいそうな芳醇なテイスト!!ウサギみたいな着ぐるみになって踊りだしそう!


「でも、俺にできるかなぁ……。」


 意気込んだはいいものの、ガチムチ♂戦士とか出てきたらまず無理だ。俺は転生者だけど、10000ヘクタールの農地を一人で管理するぐらいしか能がない。


「それで、俺はどうすればいいんですか?」


「まずはここを拠点にして身を隠しましょう!内乱が大人しくなったら王都へ……。」


 そうしてガロン姫が俺の手を引いたその時、麓の方から人影が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「誰だ、あれ?」


「っ!!あれは!!……。」


「えっ、まさかの知り合い?」


 回収早すぎませんか?運命さん仕事しすぎですよ今回。


 ゆっくりと、しかし迷うことなくこちらに向かってくる巨体。真っ黒に日焼けして、つるつるでバキバキの肉体美を余すことなく見せつけるトランクス一丁のマルハゲリータ。


「あの、すいませんどなたですか?」


「ミツケタヨガロン。ハヤクオニイチャントカエロウ。」


「お、お兄様……。」


 お兄ちゃんキターーーーー!!っていうか全然似てねぇ!!


「ワタシノナハ「ギブソン」。ガロン、ムカエニキマシタ、カエロウ。」


「あ、あのガロンさん?おひとつお伺いしてもよかですか?」


「な、何でしょう?」


「あの……お二人って、どっちに似てます?」


「?、私はお父様似です。」


「ワタシモオトウサマデース。」


 隔世遺伝が残酷すぎる!!お兄様絶対おかしいよ!メジャーのマウンドで100マイル投げる人だよあんた!!


「ジャマヲスルナラ、シンデモライマース。」


「リ、リーフ様……。」


「ガロン様下がって……このまままっすぐ走れば俺の家がある。そこに隠れて。」


「でも、お兄様は武術の達人で、もしリーフ様の身に何かあったら!」


「いいから!早く逃げるんだ!心配しなくても大丈夫、俺にはとっておきがあるから。」


「リーフ様……わかりました。ご武運を。」


 俺は懐に手を忍ばせたまま、わざと安心するような嘘を吐いてガロン様を逃がした。


 正直、農作業で多少筋肉ついてるだけの俺が、ガチムチ♂兄貴に勝てる気なんて毛頭ない。


「オワカレハ、スミマシタカ?デハ、シンデモライマース。」


 でも、俺は仮にも転生者だ。転生者には転生特典でもらった「最強の武器」がある。


 お前なんて、これでイチコロだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


 掛け声とともに突進していく。そして間合いに入ったところで、懐に忍ばせたそれを勢いよく振り抜いた。


「くらええええええええええええええええええっっ!!」


 ガチムチ♂兄貴に真紅の一撃が撃ち込まれたその時。


 ぴこん!、と小気味よい音が天を穿った。

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