ピコピコハンマーで異世界ヒロインは救えますか!?

喘息患者

第1話 俺もヒーローになりたい

「突然ですが、あなたは不慮の事故で死んでしまいました。ですが落ち込まないでください。特別な力と共に、新たな世界へ」


はいはい異世界転生ですね。拒否権ないんでしょ?行ってきまーす。




ーーーーーーー二年後ーーーーーーーー



「驚くほど何も起こらないっ!?……。」


俺は一人、畑を耕すための鍬を手に打ちひしがれていた。楽しくて俺TUEEEEEな異世界転生ライフが始まるはずだったのに、どうして俺は農民なんてやってるんだ……。


俺、佐竹草薙は不慮の事故(転んだ拍子に大きな岩に頭を打ち付ける)によって、顔も名前も知らない誰かさんにこの異世界へと飛ばされた。見ず知らずの俺を拾ってくれた農夫のじいさん(作業中に熱中症で他界他界)に拾われ、今は農業をしながら七転八倒の毎日を送っている。


というか、いきなり爺さん死んで見様見真似で始めた農業が、いつの間にか村の爺さん婆さんも集まってきて大規模集合体になりつつあるんだけど。しかも年々爺さん婆さん他界他界してその度に俺の管理する農場が増えてるんだけど。何これ?俺の異世界転生ライフはスローライフで幕を閉じるの?バカなの?過労死するの?


「ぅええあああリーフしゃあああん、きうもせぇいがでますのぉぉぉ。」


「あっはっは、リンネ婆さん、もう足腰弱いんだからあんまり無理しないでよ。」


ほらもうなんか滑舌っていう概念がぶっ飛んでる100過ぎの婆さんぐらいしか見かけないんだけど。ねぇこの村大丈夫?若者居る?俺過疎エリアで過労&孤独死しない?


「まぁぁりぃぃふしゃん来てくぁら、みぅらが元気ぃになってまぁぁぁ、若いってええええんねぇぇえっ。」


え?誰?三浦?これつまり若い子俺一人ってこと?俺は婆さんハーレム構築してスローライフな異世界転生で終幕なの?


なんだこれ……まだ無理ゲーな強さの敵とか、孤独な世界を一人旅する方が楽しい人生だぞ。爺さん婆さんの亡骸を土に巻いて野菜育てながら朽ちていく人生って何?新手のホラゲーですか?製作者の求道が一周回っちゃった感じですか?


(お願いだ……なんでもいい!なんでもいいから俺の人生を変えるようなとてつもない出来事起きてくれえええええ!!)


悲しみと孤独の汗が農地に栄養をもたらした、その時だった。


「おぅぇえあっ?流れ星とぁ縁起がええんねぇぇぇえ。」


「リンネ婆さん、まだ昼だよ?流れ星にはまだ早いよ。」


「へぇぇしょぉうかぁい?あっこだぇ、ぬぁんか光っとるやぉぉ?」


「……へ?」


リンネ婆さんがブルッブルで指差した先には、太陽の光に照らされながらちらちらとふらつく謎の光。確かに星みたいで綺麗だけど……。


っていうかアレ、こっちに向かって来てない?


「「ぁぁぁぁぁあああああああ″あ″あ″あ″あ″っ″っ″!!?」」


真っ直ぐこっちに猛進して来た光が一直線

にブレもせず迷わず美しい直線を描いデェ″ェ″ェ″ェ″ェ″ッ″!!


ズドーン!!と豪快な埋没音を繰り出して、口ぽっかーん開いてるリンネ婆さんの直上に墜落した。


「リンネばあああああああああああああああさああああああああああああああんん!!」


俺じゃねぇのかよ!?いや俺じゃなくてよかったけど!?いやよくねぇよリンネ婆さんは!?


もくもくと立ち込める土煙。強い日差しも意味をなさない密度の中に、うっすらと浮かぶシルエット。


「けほっ、けほっ……これは……酷い目に遭いましたね……。」


土煙が晴れて現れたその姿に、俺は愕然と目を奪われる。


色艶が素晴らしいブロンドのショートカットに、清純さを連想させる白いカチューシャとワンピース、そのスカート部分に幾重にも重ねられたフリルが女性らしさを前面出しながら、上品なレースの模様が凛とした美しさを忘れさせない。


何よりも、これから大人になろうとしているようなつぶらな瞳の童顔が、とんでもなくどストライクです。おっと、尊すぎて丁寧語が……。


だがしかし、いや確かになんかそんなようなことが起きることは期待したけども、でもだからと言って、これはあまりにも超展開すぎない?


でも、というかはもう、もはや婆さんと言うよりは……。


「リンネ……お嬢様……?」


俺は今、謎の光に包まれ老いた細胞が全て蒸発した100歳前後の婆さんに、猛烈に恋をしてしまった。


あ、ちなみにリーフってのは、俺のこの世界での呼び名です。(今更)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る