第172話 隠し部屋へ



 注意しながら進んでいた俺だが、特に何事もなく怪しい部屋のドアの前に辿り着いた。


 やはり先程のスイッチは全ての罠を作動させなくするものだったようだ。

 ここまで来れたのは全てティナとニーナのお陰だな。


「本当に助かった。二人がいなかったらここまで来れなかった」

『お礼を言うなら後。その部屋に入って情報が手に入ったらよ』

「それもそうだな」


 目的地に着いたことによって少し気が緩んでしまったが、今一度気を引き締める。

 俺はこの部屋にエレナさんの情報があると思って来たのだ。


 ここまで来て何もなかったら最悪だが……可能性としてはない話ではない。

 そうなったらしょうがないから、バレないように帰るだけだ。


 俺は怪しい部屋のドアを開けて、中に入る。

 そして壁にあるスイッチを押し、部屋の中は明るくなった。


 中は至って普通の部屋、執務室のようだ。

 入って正面に大きな机と椅子があり、その上にはいろんな書類が散らばっている。

 壁の方には本棚がいくつかあり、本がビッシリと詰まっている。


 一つおかしな点としては、この部屋には窓がないこと。

 なぜないのかはわからないが、見られたくない何かがある……はずだ。


「とりあえずこの部屋を探っていくか」


 ここまで来たものの、情報を集めるというのは難しい。

 部屋のどこに情報を隠しているかをまず探らないといけない。


 ここからは俺が一つ一つ書類を見て情報を探していく。

 さすがにティナやニーナの魔法じゃ、一枚一枚の書類に何が書いてあるか調べられない。


 そう思って俺はまず机の上にある書類から探っていこうとしたが……。


『エリック、違う。その部屋じゃない』

「はっ? どういうことだ?」


 この部屋じゃない?

 じゃあなぜこの部屋に俺を連れてきたのか。

 ここが怪しい部屋だからじゃないのか?


『さっき、この屋敷の構造を説明する時、四階建てって説明したわよね』

「ああ、そう聞いた」

『だけど三階の廊下には、四階へ続く階段がないの』

「そうなのか?」

『四階へ続く階段は、その部屋にある』

「はっ?」


 俺はそう言われて、部屋を見渡してみる。

 しかしもちろん階段なんて目立つものがあれば、入ってきた瞬間にわかるはずだ。


 だがニーナがこんなところで変な嘘をつくはずがないので、確実のこの部屋に階段はあるのだろう。


 つまり……。


「隠し階段か」

『そう』

「この屋敷は隠しているものが多いな。まあ俺達にとってはその方がありがたいかもしれないが」


 それだけひた隠しをしている理由は、誰にも知られたくない情報が多いということだ。


 まあそれがこの貴族がやっている事業とかで、他の貴族とかに知られたくないもので、別にやましいことを隠しているわけじゃない可能性もある。


 だが……ここの屋敷の主人が、エレナさんの暗殺依頼の手紙を出したのだ。

 それらの情報があるという可能性も大いにあるだろう。


「それで、どこに隠し階段があるんだ?」

『机の右側の壁にある本棚、五個ある内の真ん中の本棚の後ろよ』

「この後ろか……どうやって開ければいい?」

『ちょっと待って、もう少し詳しくティナと一緒に調べるわ』


 またニーナとティナが魔法で調べるようだ。

 本当に便利というか、すげえな。


 俺もちょっと挑戦してみるか?

 ニーナやティナと比べたら全然だが、魔法は普通に出来る方だ。


 ……やめておくか。

 下手に俺がここで魔法を使って、バレたら最悪だ。


 あの二人は魔法の反応を隠すのも上手いからやってもらっている。

 俺はそれが出来ないから、バレてしまうかもしれない。


 はぁ、最近は魔法の練習をしてないから、練度が落ちる一方だ。

 どっかしらで練習しないとなぁ……。


 そう思いながら本棚に身体を少し預けるように手を置こうとした瞬間……そこが沈んだ。


「うおっ!?」


 思わず少し大きな声が出てしまった。

 自分が手を置いた本棚のところを見ると、そこの部分の本だけが奥に差し込められるようだ。


「ティナ、ニーナ、ここが何か押し込めたんだが」

『……どうやらそれを押したら、そこの本棚だけがさらに奥に押し込めて、引き戸のように動かせるようね』

「そ、そうか……」

『さすがエリック! お手柄だよ!』


 ティナがそう褒めてくれたが、めちゃくちゃ偶然だ。


 ニーナが言ったように本棚を軽く押すと、何の抵抗もなく本棚と壁が奥に動いた。

 そして本棚を横にずらし、隠し階段が現れた。


 すげえな、この屋敷作った人が誰か知らんが、こんな構造作れるなんて。


「この上だな」

『そうよ』


 最後にニーナに確認をして、俺は階段を上り四階の隠し部屋へと入った。


 そこは先程の執務室のように、一つの机と椅子、そして壁に所狭しと本棚が置いてある。

 違うのは本棚があるのだが、そのほとんどが本ではなく書類が挟まっているという点だ。


『その部屋には特に仕掛けはないわ』

「つまりここからは、俺が一人で調べるしかないのか」

『そういうことになるわ。私とティナが魔法で屋敷の中を見てるから、動きがあったらすぐに連絡する』

「わかった、出来るだけ早く調べる」

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