第173話 人体実験



 書類が散乱している怪しい部屋に来て、俺は一人で調べ始める。


 いろんな書類があるが、一つ一つ調べていったらキリがない。

 おそらくここには本当に多くの書類があり、種類も様々だろう。


 この貴族がやっている仕事、金の書類などもあるだろうし、財政状況が書いてある書類もある。

 本棚にある書類などは、だいたいそういうものだ。


 とても大事で管理するべきものだけど、特に必死になって隠すようなものじゃないものだ。


 だが俺が今探しているのは、ここの貴族が必死になって隠したがっている情報。

 殺し屋であるエレナさんを捕らえろ、という指示を出すほど、ここの貴族の主人は闇に繋がっているということだ。


 その表に出せない情報が書いてある書類、それが本棚などにあるとは思えない。


 この部屋ですらあれほどの罠を仕掛け、隠している部屋なのだ。

 部屋の中でも、隠したい書類は必死になって隠しているに違いない。


 部屋を見渡すが、この部屋には本棚と机しかない。

 おそらくそのどちらかに仕掛けがあるはずだ。


「ニーナ、ティナ、この部屋の本棚に仕掛けはあるか?」


 外でこの部屋のことを見てくれている二人に、そう話しかける。


『今から調べるわ……本棚にはなさそうね』

『うん、私も調べたけど、なさそうだよ』

「そうか、ありがとう」


 本棚には仕掛けはない、ということは、この机だな。


『……エリック、その机に仕掛けがあるかどうかはちょっとわからないわ。小さいし、細かい引き出しとかがいっぱいあって』

『エリック、私もちょっとわからないかも』

「わかった、俺が調べる」


 本棚に今までのような仕掛けがない、とわかっただけでも十分すぎる。

 壁一面に本棚があるので、それを一つ一つ見て仕掛けがあるか調べるのも、結構な時間がかかるからな。


 この机は先程通ってきた部屋にあった机よりも、少しだけ小さい。

 仕掛けがあるとしたら、簡単に見つけられるはずだ。


 そう思って俺は机の上から、引き出しの中、机の底など、色々と調べてみた。

 すると引き出しの一つだけ、何か違和感を感じた。


 三つほどある引き出しのうち、一番下の引き出しだけ引く時の感触が違うのだ。


 何度かそこを確かめてみると、他の二つの引き出しと比べて、少しだけ引き切れないことがわかった。

 他二つよりも浅いところで止まるのだ。


 ここだ、何か仕掛けがあるとしたら。

 だがどうやって調べればいいか……。


 そう思いながら何度も一番下の引き出しを引いたり戻したりをしていたら……ガコッと外れてしまった。


「あっ!?」


 思わずこの屋敷に入ってから一番大きな声が出てしまった。


 やべ、壊れたか……!?

 こんなところで物を壊して証拠なんて残したら、一番最悪だ。

 明らかに入っちゃいけない部屋でこんな証拠を残してしまったら……。


 そう思って焦りながら確認すると、どうやら一番下の引き出しは、下の方に引っ張りながら引くと、外れるようになっていたようだ。

 その仕組みに気づくと、簡単に直せることがわかった。


 よかった……マジで焦ったからな。


 とりあえず直せることがわかった。

 ということはつまりここが外れるということは、ここに何かを隠しているわけだ。


 外れた引き出しのところをまたよく見ると、上の部分、つまり真ん中の引き出しの下底がまた外れることがわかった。

 それを外すと……書類が何枚か出てきた。


 これは真ん中の引き出しを開けて出てきた書類ではないようだ。


 とても隠したがっている書類、つまりこれが……この屋敷の主人が一番隠したがっている、書類ということだ。


 何枚かあり、それを一枚一枚軽く見ていく。


 書類の内容は……研究結果のようだ。

 その研究というのが――。



「人体、実験……!」



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