第171話 怪しい部屋へ
危ないところはあったが、俺は無事に二階を通り抜けて三階まで辿りついた。
階段も絨毯があったから足跡を消しやすいから助かった。
やはり貴族の家は至るところに金がかかっているな。
三階の奥の部屋が怪しいということなので、とりあえずその奥の部屋に近づいていくが……。
「いるな、警備兵が」
俺が小さくそう呟く。
男の警備兵が、奥の通路に繋がるところを塞ぐように立っている。
俺は角からその様子を伺ってすぐに顔を引っ込める。
もちろん、俺の存在はその警備兵にはバレていない。
『そいつが塞いでる通路から、奥の部屋に行ける。だからそいつをどうにかしないといけないわ』
俺の耳元にニーナの声が届いた。
やはりあそこが奥の部屋に繋がる通路なのか。
「そうか……何かで気を逸らして、その隙に行きたいな」
今、俺と警備兵がいるところは丁字路のようになっていて、一本道に繋がるところに警備兵が立っている。
俺は警備兵から見て右側の通路の角で、警備兵の様子を伺っていた。
警備兵は軽い鎧を着ているが、あまり強そうではない。
俺だったら一瞬で気絶させられるかもしれないが、証拠を残してはいけない。
いつから警備をしているのかは知らんがとても暇そうで、特に周りを警戒しているわけじゃなく、欠伸をしながらただ突っ立っている。
距離は結構あるが、一秒でもあれば俺だったら距離は詰められる。
だから二秒ほど、警備兵を左の通路側に注意を向けさせれば、奥の通路に行くことができるはずだ。
「どうにか俺がいない側の通路に注意を逸らして欲しい。なんとか出来ないか?」
『私に任せて、エリック』
その言葉はティナの声だった。
どうやらティナには作戦があるらしい。
「最低でも二秒欲しい。任せたぞ」
『うん、やってみる』
ティナの了承の声が届いてから、数秒後……。
俺がいない方向の通路から、激しい物音がした。
この階には何室か部屋があるので、おそらくそのどこかの部屋から響いてきた音だ。
暇そうにしていた警備兵だが、今の激しい物音にビクッと身体を震わせた。
「な、なんだ?」
警備兵が左側の通路の曲がり角の方を注意して見ている。
すると何やらその曲がり角の奥から声が聞こえてきた。
「誰かー、手伝ってくれ! 本棚を倒してしまったのだ!」
この声……男っぽいが、まさかユリーナさんの声か?
男装をしていた時にこれに近い声で話していたから、おそらくそうだろう。
「はーい、今行きまーす!」
警備兵はその声に何の疑いもなく、持ち場を離れて左側の通路、つまり俺がいない方の通路へと小走りで行ってしまった。
『エリック、今の内に!』
「もちろん」
これで俺はとても簡単に奥の通路に行くことが出来た。
しかし、とても上手い作戦だ。
おそらくティナがどこかの部屋の本棚を風魔法か何かで倒したのだろう。
そしてその部屋から廊下に聞こえるように、これまた風魔法でユリーナさんの声を流した。
一瞬の隙どころか、完全に警備兵をその場から離れさせた。
「さすがだ、ティナ」
『えへへ、いい作戦でしょ』
おそらく警備兵は本棚が倒れた部屋に行き、誰もいないことに戸惑っているとは思うが。
まあそこは俺達がいた、という証拠には全くならないから、大丈夫だろう。
「ニーナ、この先の通路に罠があるのか?」
『ええ、そうね。結構あるわ』
この罠がある通路の先に、俺が入ろうとしている怪しい部屋がある。
おそらくその部屋に、何かしら秘密にしたい情報があるのだろう。
俺達が求めている、エレナさんの情報が少しでもあれば嬉しいが。
「出来うる限り、罠は作動させたくない。罠を一つずつ解除しながら行くしかないか」
『多分だけど、どこかに全部の罠を切るスイッチみたいのがあるはず。そうでないと誰もその部屋に近づけないもの』
「それがこの通路にあれば話は早いが……」
その怪しい部屋に出入りする奴が罠を切るスイッチを持っているのが、一番最悪だな。
俺がもう少し奥の通路を進むと、ニーナが声をかけてくる。
『エリック、止まって。そこから先に罠があるわ。多分罠を切るスイッチがあるとしたら、その辺りよ』
そう言われて俺は周りを見渡してみて、どこかスイッチのようなものがないかを探す。
だが床にも壁にも天井にも、そのようなものは見当たらなかった。
「ダメだ、ない」
『ちょっと待って。あたしとティナでそこの辺りを魔法で探ってみるわ』
「魔法感知の罠とかに引っかからないようにな」
『わかってる』
そして俺はその場で誰かが来ないか気配を探りながら待機する。
数十秒後、俺の耳元にティナの声が響く。
『エリック、今立っている場所の右の床、多分絨毯の下に何かあると思う』
「絨毯の下?」
ティナにそう言われて右側の床を注意深く見てみる。
赤い色で均等に四角い綺麗な模様が描かれている絨毯なのだが、一つだけ模様が少しだけズレていた。
俺はしゃがんでそこを触ってみると、ズレている四角い模様の部分だけ絨毯が剥がせることがわかった。
絨毯を剥がすと綺麗な廊下の床が見えるのだが、これもまた床の一部を滑らせるようにズラせるところがあり……それをズラすと、まさにスイッチがあった。
「あった、これだな」
『それ!』
「これは罠じゃないんだな?」
『多分大丈夫よ。それにそこまで隠していたスイッチが罠として作動するわけないから、罠ではないはずよ』
「それもそうだな」
俺は意を決してそのスイッチを押す。
……特に何も起こらない。
「解除出来たのか?」
『……っ、出来たわ、完璧よ。どの罠も魔力の反応がなくなってるから、作動しない』
「よし」
どうやら罠は解除出来たようだ。
だがここで油断して何か作動してしまい見つかったら本末転倒だ。
その怪しい部屋に着くまで、油断せずに警戒しながら通路を歩いた。
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