第169話 差出人の屋敷
手紙を置いていった奴を追っていくと、ある屋敷に辿りついた。
どうやらあの手紙の差出人は、その屋敷を所有している貴族のようだ。
もしかしたらこの貴族が……エレナさんを奴隷として扱っている貴族なのかもしれない。
そう考えると、手に力が入ってきてしまう。
落ち着け、冷静にならないと……。
一度深呼吸をし、屋敷の周りを見て罠や怪しいところがないかをティナと一緒に探る。
「どうやら、特にないようだな」
「うん、そうみたい。潜入する?」
ティナにそう問いかけられ、どうするべきか考える。
イェレさんに命令された、俺達が本来すべきのスパイの任務だけを考えるなら、侵入すべきではないだろう。
リンドウ帝国との戦争に備えて、スパイをするという任務なのだから。
ただ……俺達は暗黙で認められている、エレナさんを探すという私情での調査もしている。
今は、そのエレナさんの情報がわかりそうな、貴族の屋敷まで来ているのだ。
エレナさんを探す俺達としては、やはりこの貴族の家の中から情報を探すのがいいだろう。
「どうにかしてエレナさんの情報は確保したい。だが中がどうなっているのかわからないから、潜入するというのは難しそうだが……」
「私がエリックに姿が見えなくなる魔法をかけたら?」
「それが一番だと思うが、中にはそういうのを見破る魔法があったら最悪だ」
潜入するにしても、屋敷の中に罠があるかどうかを調べたい。
一か八かで潜入して、バレて姿を見られたりしたらまずい。
エレナさんを探すという俺達の私情は、スパイ任務に支障が出ない範囲内でやるのが決まりだ。
任務と関係ないところで失敗して、スパイ任務に支障を出したくはない。
「だったら、私がやる」
「っ! ニーナか」
後ろから話しかけられて身構えてしまったが、ユリーナさんとニーナが追いついてきたようだ。
「エリック、あの手紙の内容はどういうことだ? なんでエレナさんが狙われているんだ?」
「わからない。それを探るために、差出人の屋敷に来ました」
ユリーナさんも手紙は読んだようで、少し落ち着きがない。
確かにあれを読んでしまったら、動揺するのは仕方がない。
なぜエレナさんが追われることになっているのか、全く想像がつかないからだ。
それを知るために、この屋敷に潜入したい。
「ニーナ、やるっていうのはどういうことだ?」
「私だったら、魔法でこの屋敷の中を調べられる。魔法の罠があっても掻い潜られる」
「本当か?」
ニーナは強く頷いた。
彼女もエレナさんを本気で探しているから、今回の手掛かりは逃したくないはずだ。
今までの任務、貴族のパーティに侵入したのはエレナさんの手掛かりを探すためだったが、王族の護衛とかは、本来ニーナは全く関係ない。
だがエレナさんを探すために、ニーナは協力してくれていた。
その護衛とかを経験し、ティナからも魔法を教わり、そういう魔法の類がとても上達している。
「ティナ、ニーナならいけるのか?」
「うん、ニーナは私よりも繊細さが必要な魔法は上手くなってるから、多分いけるんじゃないかな」
ニーナに魔法を教えたティナが言うなら、間違いないだろう。
「よし、じゃあニーナ、任せたぞ。屋敷の構造と、物理と魔法の罠がないかを調べてくれ」
「わかったわ」
最悪、今ここで屋敷内を探ったことがバレても、すぐに逃げれば姿も見られずに済むだろう。
ぶっつけ本番で屋敷内に入ってバレて見つかるよりは、はるかにマシだ。
ニーナが目を瞑り、集中して屋敷内の構造、罠を調べてくれている。
俺とティナ、ユリーナさんはそれを静かに見守る。
「……終わったわ。物理の罠はそこまでないけど、魔法の罠が結構あるみたい」
「そうか、バレなかったか?」
「ええ、罠は一つも作動させてないし、中にいる人にも悟らせてないわ」
「上出来だ。だが……やはり怪しいな」
貴族の屋敷で多少の罠というか、自分の身を守るものは屋敷内にたくさんあるのは不思議ではない。
だが多数の罠は、誰にも教えられない秘密があるから、仕掛けているとしか考えられないだろう。
「構造と、罠の位置とかはわかったか?」
「ええ、だけど紙とかがないし、ここでは説明出来ない」
「いや、俺が潜入するから、指示を出してくれ」
「エリック、大丈夫なのか?」
ユリーナさんが心配そうにそう言ってくれたが、俺は「大丈夫です」と頷いた。
「建物の構造と罠がわかれば、いけると思います。ニーナ、罠が多数仕掛けられてて、侵入者が入るのに苦労しそうな部屋はあるか?」
「ちょうど一つだけある。むしろそこの周りにしか、罠がないくらいには」
「じゃあそこに、大事な情報が隠しているだろうな。ティナ、俺に姿が見えなくなる魔法をかけてくれ」
「わかった。だけどエリック、絶対に無理しないでね」
「ああ、わかってる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます