第168話 手紙の差出人



『殺し屋エレナを探せ。生け捕りのみ、報酬を支払う』


 ヘリュに届いた手紙。

 それは前と同じように、どこかの貴族からの依頼だろう。


 その依頼内容が……イレーネの暗殺依頼以上に、衝撃的なものだった。


「っ! ティナ、今手紙を持ってきた奴を追えるか!?」

「や、やってみる!」

「私もやるわ」


 手紙を置いて去っていったのは、三分前くらいだ。

 まだそこらを歩いている可能性が高い。


 ティナ、それにニーナの魔法だったら、手紙を置いていった奴を追えるだろう。


 おそらく貴族の手下とかだから、追ってどういった貴族がこの以来を出したのかを確かめたい。


「しかし……なんで、エレナさんが?」


 殺し屋エレナっていうのは、エレナ・ミルウッドで間違いないよな?


 なぜあの人が指名手配みたいに、探されているんだ?

 しかも……報酬が、かなり高い。


 生け捕りというのが殺すよりも大変だから、というのもあると思うがそれでも報酬がすごい。

 貴族の家を一つ一括で買えるのではないか、というぐらい貰えるようだ。


 まあ、俺達にとっては報酬などどうでもいい。

 一番重要なのは、エレナさんがどこにいるか、という情報だ。


 この手紙には、「殺し屋エレナを探せ」しか書いていない。

 エレナさんがどこにいるのか、まずどこの国にいるのか、全くわからない。


 それを知らないといけないから、今ティナとニーナに先程のこの手紙を置きにきた人を追ってもらっている。


「二人とも、どうだ?」

「ここから東の方にはいない……ニーナは?」


 ティナはその場で目を瞑り集中して探していたようだが、見つからなかったようだ。


 手紙を開けるかどうか迷った時間があったから、その間に魔法の範囲外まで行ってしまったか?


 ニーナも目を瞑り集中して魔法を行使している。


 人を探す魔法というのは難しく、風魔法や土魔法の応用で、探している人が残した形跡を探すものだ。

 その人が吐いた息の熱を風魔法で感じ取り、その人が踏みしめた地面の強さを感じ取り、それと一致する人を探す。


 おそらくティナやニーナくらいの魔法の練度を持っていない限り、これは絶対に出来ない。

 ……もちろん、俺の魔法の練度じゃ到底出来ない芸当だ。


 ニーナはティナに習ったばかりだが、果たして……。


「……っ! 見つけた!」

「本当か!?」

「うん、おそらくこの人っていうのを見つけた。ティナ、一緒に確認して」

「わかったよ」


 ニーナが見つけることに成功し、ティナと一緒にその人物が本当に先程手紙を置いていった者なのか、確認している。


「……うん、この人だね。お手柄だね、ニーナ!」

「ありがとう。だけどこの人、結構な速度で遠ざかってる」

「そっからは俺が追おう。場所を言ってくれ」


 さすがに魔法の範囲外に行ってしまったら見失ってしまう。

 あとは俺、それにユリーナさんが追っていけばいいだろう。


「ティナ、まだヘリュと戦ってるユリーナさんに、このことを伝えてくれ。この手紙を見せて、置いていった奴を追うといえば、察してくれるはずだ」

「わかった」

「エリック、私をおぶって。場所を言うよりも、普通に案内する方が早い」

「ああ、そうだな」

「ちょっと待って!」


 俺がしゃがんでニーナを背負おうとした時、ティナが声を上げた。


「ど、どうした?」

「エリックにおんぶされるなら、私がエリックと行く!」

「はっ……?」


 よくわからない申し出に、俺は首を傾げた。


「ニーナじゃなくて、私をおんぶして! 私も場所を知ってるから、案内出来るし!」

「べ、別にどっちでも構わないが……」

「……私が残るわ。エリック、ティナと一緒に行ってあげて」

「わ、わかった」

「ありがとう、ニーナ!」

「……別に、構わないわ」


 ということで、よくわからないがニーナではなくティナを背負って、貴族の手下を追うことに。


 俺がしゃがむと、ティナはなんだか楽しそうに俺の背中に抱きついてくる。


「ニーナ、ユリーナさんに伝えておいてくれ」

「わかってる。そっちも任せたわ」


 ニーナにそう声をかけて、早速この部屋を出てティナの案内通りに進んでいく。


 地下街から出て、人混みの中をティナを背負って走ると絶対に目立つので、建物の屋根に登って移動する。

 そちらの方が直線距離に追えるから、早く追いつくことが出来るだろう。


「ふふっ、なんだかエリックにおんぶされてると、子供の頃を思い出すなぁ」

「ん? ああ、そうかもな」


 確かに子供の頃、俺がティナを背負って走ったりしていた。

 二歳年上のティナを子供の頃に背負うのは結構大変で、いい鍛錬になった覚えがある。


「覚えてる? 私がエリックにおんぶされている時に、落ちないように強く抱きついたら、エリックの首を絞めちゃって、危うくエリックが気絶しかけたこと」

「ああ……そんなこともあったな」

「ふふっ、なんだかその頃を思い出すなぁ」

「思い出に浸るのはいいが、しっかり案内はしてくれよ?」

「はーい。あっ、あっちが少し移動したから、二時方向に行ってね」

「わかった」


 ……今気づいたんだが、ティナならおんぶしなくても、この程度の移動ならついてこられるんじゃないか?


 まあ、ティナがなんだか楽しそうだから、このままでもいいか。

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