第167話 ユリーナの戦い方の変化



 ――エリックside――


 殺し屋を捕まえて尋問をし、情報を聞き出して、その身柄をアンネ団長のもとに送って、俺達はヘリュがいる地下街のところまで戻ってきた。


 ここ最近、仕事の内容的に、真正面から戦うことがない。

 静かに移動し、殺し屋を見つけて不意打ちで気絶させる。


 これはこれで難しく、技術が必要になるが、正面からの戦闘には役に立たないことが多い。


 だから対人戦で腕を衰えさせないために、戦う必要がある。


「エリック、いくぞ」

「はい、ユリーナさん。いつでもどうぞ」


 ヘリュの家の前のところで、俺とユリーナさんが対峙する。

 ユリーナさんとは久しぶりに戦うので、油断せずにいかないと。


 最近、ヘリュと戦っているユリーナさんは、彼女の影響を受けて強くなった。

 もともと強かったのだが、さらに戦うのが厄介になったのだ。


 まず、俺と初めて戦った時と違うのは、構え。


 前までは柄を両手で持ち、身体の真正面に剣を構え、良くも悪くもとても綺麗な構えだった。

 だけど今、ユリーナさんは剣を片手で持ち、ダランと横に下げている。


 付け焼き刃の構えではあるが……妙に、様になっていた。


 一瞬だけ睨み合ってから……ユリーナさんが先に動く。


 一気に近寄ってきて、下段から上段に向かって斬り上げる。

 俺はそれを身体を後ろに逸らして避け、反撃で首元を狙って剣を振るう。


 ユリーナさんはそれをしゃがんで避けると、俺の足に蹴りを入れてくる。

 膝辺りを狙ってくるので、俺は大きくジャンプしてそれを避けた。


 蹴りを放ったユリーナさんは、そのままその場で一周するように勢いをつけてから、俺の胴体へ横払いをしてくる。

 さすがにジャンプしている最中、しかも胴体への攻撃。

 俺はそれを剣で防ぐが、勢いが強いので少しだけ吹っ飛ばされる。


「くっ……!」


 吹っ飛ばされながらも着地をした俺に対して、すぐさま追撃を仕掛けてくるユリーナさん。


 やはりヘリュの影響を受けて、戦い方に幅が出てきた。

 今までは剣でしか攻撃をしてこなかったが、今は体術で蹴りなどを使ってくる。


 剣の振り方も変わり、悪く言えば汚くなったが、どういう攻撃をしてくるのかが見えづらくなった。

 今までは綺麗な振り方だったからこそ、軌道が見えやすかったのだ。


「はあぁぁぁぁ!!」


 その後も、剣を振るいながらも蹴りなどを入れて、いろんな攻撃をしてくるユリーナさん。


 前よりもだいぶ強くなったが、まだこれでも試行錯誤の状態だ。

 さらに強くなっていくだろう。


 俺も、負けてられないな。


「ふっ……!」

「っ、くっ……!」


 ユリーナさんからの攻撃を紙一重で避け、防ぎ、今度は俺から攻撃を仕掛ける。


 今のユリーナさんの戦い方は、とても攻撃的で強い。

 だけど一度攻められると、防御がおろそかになっているのがわかってしまう。


 まだ慣れていない構えや戦い方だから、自分が受けに回ると難しいのだろう。


 俺が先に攻撃を仕掛け始めると、途端に動きが悪くなる。


 そして先程の仕返しとばかりに、俺が足を払うと引っかかって転んでしまう。

 転んだところに俺が剣を突きつけ……戦いは終わった。


「はぁ、さすがに強いな、エリックは」

「ユリーナさんも、強くなりましたよ。最初のジャンプした時に胴を狙われた時はヒヤッとしました」

「それでも防がれてしまったからな。あの後に追撃で仕留められたらよかったんだが……それに、この戦い方は防御が難しいな」

「ヘリュの戦い方は、参考になるけど真似は出来ませんからね」


 防御が弱いのは、やはりヘリュの戦い方を真似しすぎているからだろう。


 ヘリュは、防御をしない。

 攻めて攻めて攻めて、相手が攻撃をしてきたら避けながら同時に攻撃をする。


 特に避け方なんて、まるで参考にならない。

 あれは天賦の才能だ。

 リベルト副団長でも、あんな避け方や動きは出来ないだろう。


「防御や避けるのが上手く出来れば、今の形でもいいのだろうが……やはり難しいな」

「今までの戦い方を変えるんですから、すでにここまでの強さになっているのがすごいですよ。頑張ってください」

「ああ、ありがとう」


 俺がそう言うと同時に、ユリーナさんが参考にしたヘリュが来た。


「ユリーナ、次は私と戦ろうよ。今のユリーナ、とっても戦りがいがありそうだね」

「ふっ、それは光栄だな。もちろんいいぞ」


 ということで、俺は一度下がることに。

 ヘリュの家に戻ると、ティナとニーナが魔法の練習をしている。


 ニーナは攻撃魔法を覚えたいようだが、なかなか出来ないようだ。


「むぅ……難しい。風を刃のようにしたいんだけど」

「うーん、私もあまり人に教えたことないからなぁ。エリックに教えてもらったんだけど……あっ、エリック」

「んっ、お疲れ二人とも」

「エリック、刃風ウィンドソード教えて。難しい」

「俺も教えるのが別に上手いわけじゃないけどな」


 魔法の才能が俺よりもあるニーナに、魔法を教えることに。

 なんだかティナに教えていた頃のことを思い出すなぁ。

 まあ今では、比べものにならないくらいティナの方が魔法は上手いけど。


 俺が教えてもニーナは出来なかった。

 やはり攻撃魔法がなぜか苦手のようだ。



 そうこうしていると……家の前に人の気配がした。

 ヘリュとユリーナさんが戦っている方とは、逆の方からだ。


 ここは地下街の一角なので、家の前に人が通るのは不思議なことではない。

 だが今家の前にいる奴は、一回家の前で止まったのだ。


 ヘリュに来客か?

 そう思ったのだが、すぐにその人物は家から遠ざかっていった。


 不思議に思い、ドアを開けて外を確認するが、もう人の姿はない。

 代わりにあったのは、手紙だ。


 地面に落ちていて、明らかにさっきの奴が置いていったやつだろう。


 前にもヘリュ宛に手紙が来ていたな。

 その時は貴族がヘリュに、イレーネの暗殺を依頼していた奴だった。


 まさか今回も、そういう依頼か?

 前と同様、この手紙も差出人の名はないようだ。


「エリック、何かあったの? 手紙?」

「ああ、どうやらこれを置いて去っていったみたいだ」


 家の中に戻り、ティナとニーナにそれを渡して見せる。


「ヘリュは……まだユリーナさんと戦ってるよな」

「うん、そうだね」

「……開けちゃおうか」

「いや、ニーナ、それは……ってもう開けてるし」


 まあヘリュなら気にしないと思うが、人の手紙を勝手に開けるのはどうかと……。


「っ!? えっ、ど、どういうこと……!?」


 そう思ったのだが、その手紙を読んだニーナが異常に反応した。

 目を見開き、もう一度手紙の内容を読み直している。


「エ、エリック、これ……!」


 ニーナがそう言って俺に手紙を渡してくる。

 少しヘリュに悪い気がしたが、ニーナの反応が気になって読んでしまう。


「なっ!?」


 俺もニーナと同様、そこに書いてあったことに声を上げて驚いてしまった。



『殺し屋エレナを探せ。生け捕りのみ、報酬を支払う』



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