第160話 トドメ?
イレーネとの魔道具での会話が終わって、数時間経った。
「……はぁ」
俺はいまだに、落ち込んでいた。
すでにイレーネやクリスト達は一つ目の目的地の視察は終えて、二つ目のところへ向かっている。
二つ目の場所はこの国の兵士が揃っている軍基地や、訓練場だ。
さすがにそこには殺し屋は来ない……と言い切れないが、俺達が出る幕はないだろう。
そこにはハルジオン王国の兵士達がほぼ全員集まっているので、殺し屋が出てもそちらで対処してくれる。
だから俺達はクリスト達が三つ目に行く目的地に先回りをして、殺し屋がいないか見て回ることになっていた。
三つ目の目的地は、完全な飲食店。
とても高級な、それはもうまさに王族が行きそうな飲食店だ。
建物は大きく、中に隠れる所はいっぱいあると思われる。
中に入るにはやはり魔法で隠れるのが一番なので、ティナとニーナに侵入してもらっていた。
そして俺とユリーナさんは外で殺し屋がいないか見て回っている。
殺し屋がいないか、油断せずに探しているのだが……やはり先程の、イレーネとの会話のことを思い出してしまう。
一番の反省点は、とにかく馴れ馴れしくしすぎた。
もうなんか、ほとんど恋人みたいな距離感で喋ってしまった。
いきなり会話をしたこともあって、本当に気が動転していたんだ。
つい前世でイレーネと会話してるみたいな感じで、喋ってしまった。
今の立場を考えると、絶対に敬語じゃないといけなかった。
一国の王女と、ただの他国の兵士なのだから。
前世と今世では、立場がまるっきり違う。
……そう思うと、俺とイレーネが出会って恋人になるなんて、不可能じゃないのか?
あと今世のイレーネと結婚をすると、この国の王になるってことなのだろうか?
いや、だけどこの国は現国王、つまりイレーネの父親を倒さないと、王になれないんだよな。
……もしかして、イレーネの父親を倒さないと、イレーネと結婚できないのか?
イレーネの父親、セレドニア国王は、どれくらい強いのだろうか。
フェリクスに負けたと聞いているので、フェリクスより強いことはないだろう。
だけど俺はフェリクスに勝ったと言っても、ティナの力がなかったら勝てなかった。
セレドニア国王がフェリクスとほぼ同等ぐらいの力を持っていたら、俺も勝てるかどうかわからないかもしれない。
……もっと強くなろう、うん。
いや、待て、話が逸れた。
イレーネと魔道具で話したときに、ものすごく失礼なことをしたという話だ。
しかも最後には、
『も、もう無理です、すいません、替わります……!』
と言われてしまった。
言葉や声の抑揚から、「もう本当に無理、喋れない」という感じが伝わってきた。
つまり……俺と喋るのが、それほど嫌になったということなのだろうか……。
「あぁ……やばい、切り替えないと……」
ここ数時間、殺し屋を探して捕らえないといけないのに、そのことばっかり考えてしまう。
幸いにも今は俺とユリーナさんは飲食店の外の見回りを終え、殺し屋がいないことを確認済みだ。
また時間が経ち、クリストやイレーネ達が来る頃にもう一度見回りはしないといけないが。
だから全く油断してはいけない、という状況ではないが……早く切り替えないといけない。
「どうしたんだエリック。さっきからため息が多いぞ」
飲食店近くの建物の屋上でティナとニーナの帰りを待っていると、隣にいるユリーナさんがそう問いかけてきた。
「いや、少し……失敗したことがありまして」
「なに? それはこの任務のことか?」
「いえ、違います。ただ俺が個人的に失敗したことで……」
「……要領を得ないな。何があったんだ?」
俺とこの国の王女が前世で恋人だったのだが、今世では違うことを忘れて、前世の感じで喋ってしまい嫌われてしまったかもしれない……。
なんてことを、全部馬鹿正直に話すことは出来ない。
さすがに頭がおかしいと思われてしまう。
「さっき、アンネ団長に連絡を入れたときに……この国の王女様に、無礼なことをしてしまった可能性が高くて……」
「はっ? どういうことだ? なぜアンネ団長に連絡しただけなのに、この国の王女が関わってくるのだ?」
「わかりませんが、いきなりアンネ団長からクリストに代わって」
「クリスト……ああ、クリストファー王子のことか」
俺とクリストが親友ということは、ベゴニア騎士団の中では有名なようだ。
ユリーナさんも知っているので、俺が王子を敬称無しに呼んでも驚かない。
「そしたらクリストがいきなりイレーネ……王女に代わったようで」
「なぜだ?」
至極まともな疑問だと思う。
俺もいきなり代わった理由は、よくわからない。
いや、確かクリストのメイドのアリサさんに言われて、無理やり代わったという感じだったな。
友達になったと言っていたが、どうして無理やり代わるように言われたのかは謎だ。
「さすがに国際問題になる程の無礼はしていないよな?」
「おそらく、そこまででは……個人的に、イレーネ王女に俺が嫌われただけかもしれない、というだけで……」
ああ……言葉にするとさらに心の傷口を抉るようだ……。
「そうか、それならいいのではないか? 別にエリックとそのイレーネ王女が今後関わることはないだろう」
「……ソウデスネ」
何も悪意なき言葉なのだろうが、ユリーナさんにトドメを刺されて、俺は死んだ……。
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