第157話 魔道具での連絡
――クリストside――
俺たちはまず始めの目的地に着いたようだ。
だがまだ降りてはいけない。
今は外で兵士達が、怪しい人物がいないか確認している。
本来ならここまで慎重に確認などしないのだが、今回は別である。
なぜならここで俺たちを狙ってくる奴がいる、という情報が入っているからだ。
先にスパイとしてこの国に入ったエリック達からの情報なので、その情報の信用度は高い。
命を狙われているとわかっているから、兵士達も全力で対応してくれている。
馬車の中にいる俺達も、もちろん緊張感を持って……。
「イレーネ、ジャンケンしましょう」
「はい、アリサさん! 最初はグー、ジャンケン、ぽん!」
「あっ、私の勝ちです。じゃあ何か罰ゲームでもやりますか?」
「ば、罰ゲーム、ですか? そんな、聞いてないです……!」
……兵士達、ごめん。
なんか俺の目の前で女子二人が、楽しそうにジャンケンしてたわ。
俺のメイドであるアリサが、まさかハルジオン王国のイレーネ王女とここまで仲良くなるとは……。
しかもアリサの方がイレーネ王女を呼び捨てして、イレーネ王女は敬称付けたままだし。
最初はイレーネ王女も「アリサ様」って呼んでたから、「アリサさん」でもだいぶ仲良くなった証拠だとは思うが。
年齢だけ考えるとアリサの方が年上だから合ってはいるんだが、立場がな……。
まあ俺が言うことではないか。
俺だってただの兵士であるエリックと親友なんだから。
それに、イレーネ王女はすごく楽しそうだ。
もちろんアリサも。
イレーネ王女も俺のように、同性の友達がいないってのが寂しかったとアリサから聞いている。
アリサも同性で年齢が近い友達はいなかったから、お互いに良かったのだろう。
そんなことをしていたら、俺の隣に座っているアンネの懐が小刻みに揺れ始めた。
小さくだが音も鳴っている。
「失礼します」
アンネはそう一言言ってから、懐に入っていた何かを取り出す。
カチッと何かを押す音がして、その道具……おそらく魔道具の振動が止まった。
「はい、こちらアンネ」
アンネが口元にその魔道具を近づけてそう言った。
あれは、通信が出来る魔道具なのか?
アンネが今連絡取る相手なんか、限られている。
つまりあの魔道具の話し相手は……。
『エリック・アウリンです』
「えっ……!?」
魔道具から聞こえてきた言葉に一番反応したのは、イレーネ王女であった。
イレーネ王女はすぐに「あっ……」と言って口に両手を当て、顔を真っ赤に染めた。
恥ずかしそうに頬を染める姿は微笑ましくて可愛い。
『……アンネ団長? 応答をお願いします』
「ああ、はい、こちらは平気よ」
アンネもイレーネ王女に一瞬気を取られたのか、返事が遅くなったようだ。
しかしやはり連絡の相手はエリックだったか。
今この頃合いで連絡をする相手なんて、潜入して俺達のことを影ながら守っているエリックしかいないよな。
『先程、こちらで殺し屋と見られる人物を発見し、捕らえました』
「了解、よくやったわ。他にもまだいるかもしれないから、引き続き任務に励みなさい」
『わかりました。そちらの兵士達が対処出来ない範囲のところを重点的に見ていきたいと思います』
やはりエリックは優秀なようで、殺し屋をすでに捕らえたらしい。
さすが俺の親友だ。
そしてこのまま事務的に話が終わってしまうようだったので、アンネに俺は話しかける。
「アンネ、俺にそれ渡してくれ。俺もエリックと話したい」
「……クリストファー王子、これは仕事用なのです。私用で使うのは控えていただきたいのですが」
「いいだろ、少しくらい」
アンネは呆れたようにため息をついてから、渋々俺に魔道具を渡してくれる。
「エリック、俺だ。クリストだ」
『はっ? クリスト?』
「ああ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
『あ、ああ、元気だぞ。というか、なんでクリストが?』
「アンネに替わってもらったんだ」
『お前、それ無理やりだろ……』
なんで無理やりってわかるんだよ。
……まあアンネが自分から渡すわけないし、普通に考えればわかるか。
ちょっと雑談をしてすぐにアンネに返す……つもりだったんだが、目の前でアリサがとんでもないことを言ったのが聞こえた。
「あっ、そうです。イレーネ、エリック様とお話ししてみては?」
「えぇ!?」
アリサの提案に、イレーネ王女は顔を真っ赤にしながら声を上げた。
「そ、そんな、いきなりすぎて、心の準備が……!」
「さっきの罰ゲーム実行です。クリスト……王子。その魔道具を渡してもらえませんか?」
アリサはイレーネ王女のことを無視して、俺に笑顔を向けて「それを渡せ」と言うように手の平を差し出した。
いや、罰ゲームって……罰ゲームでイレーネ王女と話すことになるエリックも可哀想だろ。
だがエリックもイレーネ王女のこと気になってる、むしろ好きそうだからな……いいか。
「エリック、ちょっと替わる」
『ん? ああ、わかった』
おそらくエリックはアンネ団長に替わる、と思っていることだろう。
だが俺が魔道具を渡すのはアリサであり、そのアリサが渡すのはイレーネ王女である。
「ほら、イレーネ」
「え、ほ、本当に……!?」
アリサはイレーネ王女の手の平に、無理やり渡すようにして魔道具を置いた。
イレーネ王女は顔を真っ赤にしながら、おそるおそる口元に魔道具を持っていく。
「……あ、あの、エリック様……」
『はい……ん? あれ、アンネ団長じゃない……?』
「そ、その、イレーネ・ハルジオンです……」
『はっ!? イレーネ!?』
……俺とアリサは、笑い声が出ないように口を押さえるのに必死だった。
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