第156話 影ながらの護衛


 ――エリックside――



 王宮から、二台の馬車が出てきた。

 とても煌びやかで豪華な、いかにも王族のような偉い人が乗っている馬車だ。

 それを囲むハルジオン王国の兵士達と、ベゴニア王国の兵士達。


 馬車はとってもゆっくり動いており、周りの兵士達がついていくのに普通に歩く程度の速さだ。


 守りやすいように、兵士達が周りを警戒をしやすいようにゆっくりと動いているのだろう。


「こちらは特に問題ない。そっちは?」

『こっちも変わったところはないかな』


 俺達は二手に分かれて、影から護衛をしていた。


 俺と一緒に行動しているのは、ニーナだ。

 つまりティナとユリーナさんは別行動ということである。


 先程呟いた言葉は、ニーナの魔法で遠くにいる二人の元に声が届いた。

 そしてティナの魔法であちらの声も届く。


「情報では何組か、殺し屋が来るみたいだからな。油断しないように」

『……えっ、私が言うのか? わ、わかった、お互い頑張ろう』


 今のはユリーナさんの声か。

 どうやらティナが、ユリーナさんの声をこちらに届けたようだ。


 目で合図をし、ニーナが頷いて自ら声を出して届ける。


「じゃあ、何かあったら連絡して」

『了解!』


 最後はティナの声で、俺達は連絡を切った。



 数十分ほど経って、クリスト達を乗せた馬車がまず一つ目の目的地に着く。


 そこはハルジオン王国でも有数の大きな建物で、中には貴族御用達の服屋や雑貨屋、料理屋もあるようだ。

 まず……そこが一番初めの、殺し屋がいるという情報は入っていた。


 ただ確実な情報でもないし、どこで狙うのかもわからない。

 その建物の中に入ってからなのか、それとも馬車を降りてすぐに狙うのか。


 俺達は馬車の周りにいる兵士達がわからない、見つけられないであろう場所をくまなく探していく。


 まだ馬車からクリストやレオ陛下、それにイレーネは降りてこない。


 俺がここで狙われる可能性があると伝えているので、慎重にならざるを得ない。


 だが、本当に殺し屋がいるかどうかも、まだわかっていない……。


「エリック。多分あそこに、いる」

「っ! ……どこだ?」

「あっちの路地裏。一瞬だけ人影が見えたし、挙動がそれっぽかった」


 ニーナが言う路地裏の方を見るが、今は特にそれらしい人影は見えない。

 人がギリギリ入るくらいの狭い路地裏なので、見逃していた。


「……よし、そこに向かうか」

「わかったわ」


 そこの狭い路地裏に、俺達は急ぎながらも気配を殺して向かう。


 その路地裏を見渡せる建物の上に行き、暗い路地裏で怪しい人影を探す。


「……っ! いた、あれか」

「多分そうだね」


 黒いマントを被っており、顔を見られないようにしていて、いかにも怪しい奴である。

 まだレオ陛下やクリストが出てこないからか、路地裏から何度か顔を出して馬車の方を伺っていた。


 俺達のことは、気づいていない。

 今が絶好の好機である。


「……よし、じゃあ俺が行く。ニーナは逃した時のためにここに残っていてくれ」

「了解」


 そう言って俺は気配を殺しながら、その殺し屋に近づいていく。


 建物の屋上をつたっていき、なんとかバレずにそいつの頭上の建物辺りまで来れた。

 あとは……簡単だ。


 屋上から音を出さないように飛び降り、男の背中側に回るように落ちる。

 着地する音は最小限にするが、さすがに真後ろに人が落ちてきて気付かない奴はいない。


「っ……!?」


 相手が振り向いて声を上げる……寸前に、鞘に入れたままの剣を思い切り相手の後頭部に振り切る。


 骨に当たるような鈍い音が響き、殺し屋は一言も発せずに気絶して倒れた。


「……よし。ニーナ、聞こえるか?」

『聞こえてるよ』


 遠くにいるニーナだが、すでに俺の声が拾えるように魔法を行使してくれていた。


「殺し屋を一人捕まえたのを、ティナ達に教えておいてくれ」

『わかったわ。お疲れ様』

「ああ、まだ油断は出来ないが」


 懐から荒縄を出して、殺し屋の身体の自由を奪うために巻きつけていく。

 キツくキツく縛り、目が覚めても何も出来ないように。


 とりあえず一人倒したが、まだいるかもしれない。


 一応俺の方でも、クリストとイレーネの馬車の中にいるはずのアンネ団長に、殺し屋を一人捕らえたということを伝えておくか。



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