第152話 恋話?



 ――イレーネside――



 私は今、とても心が踊っています。


 ベゴニア王国のクリスト王子のメイドをしていらっしゃるアリサ様。

 アリサ様と私で、ベッドの縁に座って話しています。


 ここは私の部屋。

 つまりハルジオン王国の王宮の一室。


 私の部屋にはメイドか、お父様くらいしか入ったことはありません。

 それがなぜ他国のメイドの方が入っているかと言うと……。


「アリサ様、実際どうなのですか?」

「な、何がですか、イレーネ様?」


 私はニヤニヤするのが耐えられず、頬を緩めながら問いかける。


「だから、お付き合いしているのかですよ!」


 そう、私はアリサ様と『恋話コイバナ』がしたいから、この部屋に入ってもらったのです。



 時刻はすでに夜遅く。

 ベゴニア王国のレオナルド国王とクリスと王子との会食なども終わって、お風呂などもすでに入り終わり寝間着にも着替えています。


 いつもなら瞼も重くなり、ベッドに入って眠りにつく時間ぐらいです。


 しかし今は興奮しているのか、全く眠くありません。


 付き合ってくださっているアリサ様も、眠そうには見えません。

 目はぱっちりしていて、頬を恥ずかしそうに赤く染めているのが、女性の私から見ても可愛らしいと思えます。


「お、お付き合いはしていません……私みたいなメイドと、王子のクリストが……!」

「ベゴニア王国では、王族の結婚は身分と関係あるのですか?」

「け、結婚ですか!? い、いえ、レオナルド陛下とご結婚なさった王妃様は、確か平民出身だったと思いますが……」

「なら大丈夫じゃないですか!」

「い、いえ、なぜお付き合いもしてないのに、結婚という話が出ているのですか?」


 ああ、そうでした。

 まだおつきあいしていらっしゃらないとのことでした。


 ですが……。


「アリサ様はクリスト様のことをお慕いしてらっしゃるのでしょう?」

「うっ……は、はい……」


 目線を逸らすように、斜め下を向いてそうおっしゃるアリサ様。

 いつの間にか私のお気に入りのぬいぐるみを抱えて、それで口元を隠しております。


 な、なんとも可愛らしい……!


 私のぬいぐるみを抱えていることに気づいて、「あっ、すいません……!」と言って離してしまったが、むしろそのままの方が良かった気がします。


「告白はしないのですか?」

「こ、告白ですか!? 私みたいな者が、そんなこと……!」

「アリサ様はご自身のことを卑下しすぎです! もっと自信を持ってください!」


 私が強くそう言うと、アリサ様は驚いたように目を見開いた。


「だってクリスト王子も、アリサ様のことを絶対に慕っています!」

「そ、そうでしょうか……?」

「もちろんです! 嘘はつきません!」


 今日のお昼程に、馬車の中で私達が二人で話していたのを、クリスト王子はすごく気にしてらっしゃいました。


 窓の外を見るフリをしながらも、チラチラとこちらを何度も何度も窺っていました。

 あれで隠そうとしていたのか疑問なほどです。


 アリサ様がクリスト王子のことをどう思っているか私が聞いたときなど、こちらをすごく気にしながら興味なさそうなフリをしてました。


 むしろアリサ様は、気づいていなかったのですか……?

 あんなにわかりやすかったのに、それに驚きです。


「逆にクリスト様から、何か告白などされてないのですか?」

「ク、クリストからですか? そういうのは、全くないです……」

「全く、ですか?」

「はい、残念ながら……」


 そう言いながらアリサ様は落ち込んでしまった。


 なぜクリスト様はこんな可愛らしいアリサ様に告白せず、ほったらかしにしているのでしょう?


 私と同い年のはずなので、クリスト様は十六歳。

 そろそろご結婚を考えてもいい頃だと思うのですが。


「アリサ様、頑張ってください! 私応援してます! アリサ様なら絶対に大丈夫です!」

「あ、ありがとうございます、イレーネ様」


 アリサ様の手を強く両手で握ってそう言うと、少したじろぎながらも嬉しそうに微笑んでくれました。



「その、聞いていいのかわかりませんが……イレーネ様は、そういうお相手はいるのでしょうか?」

「はい? 私ですか?」


 アリサ様とクリスト王子のお話が終わり、もう話が終わると思いきや次は私のことを聞かれた。


 しかし、私ですか……。


「アリサ様のことを根掘り葉掘り聞いた後に申し訳ないですが、私は恋をしたことがないんですよね……」

「そうなのですか?」

「はい、私の周りに男性がいない環境というのが大きいかもしれません」


 まずあまり男性と接する機会がほとんどない。

 私の周りにいる男性はお父様と、お父様に仕えている執事の方ぐらいですね。

 執事の方も年配の方が多いですし。


 時々歳が近い兵士の方と接しますが、それもほとんど護衛なのでお話する機会はありません。


 なので歳が近い男性といえば……。


『イレーネ、必ずもう一度会いに来る』


 ――っ!?


 い、いえ、あの方は全然違います!

 聞いた話だと年齢は同じなようですが、ほとんど全く話していないですし……!


「イレーネ様、顔が赤くなってますが……?」

「っ! い、いえ! なんでもっ! エリック様のことを、考えていたわけじゃ……!」

「……なぜいきなりエリック様の名前が出てきたのでしょうか?」

「あっ……! い、いや、それは……!」

「ふふっ、イレーネ様。もう少しこの部屋に居座ることをお許しください」


 いい笑顔をしたアリサ様がそう言ったのですが、なんだか少し怖くなりました……。



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