第151話 ヘリュの手紙



 ユリーナさんとヘリュとの戦いを終え、軽い反省会も終えて一息つく。


 俺たちが戦ってたりしている間、ティナとニーナも二人で魔法のことを話している。


「攻撃魔法は難しい、守護魔法は使えるのに……ティナはすごいね」

「私的には守護魔法の方がすごいと思うけどね。いくらやっても、私一人分を囲うぐらいしか出来ないよ」

「それは才能かな。あたしは魔法を習ってすぐに出来たから」

「すごいね! 私は習ってすぐに出来たのなんて、水を手の平から出すくらいだよ」


 お互いに攻撃魔法と、守護魔法を教え合っているようだ。

 ティナもニーナも元々強いが、足りない部分が補たらもっと強くなる。


 特にニーナなんて、守護魔法に攻撃魔法を覚えたら完璧だろう。


 あとティナ、習ってすぐ出来たのは水を手の平から出すくらい、と言っていたが……。

 俺はそれが出来るようになるまで、一年以上はかかったからな。


 その数年後にはもうティナに魔法で抜かされてたし……。

 ……俺ももっと魔法を頑張ろう。



 地下にいるので元から少し暗かったが、日が沈んできてさらに暗くなってきた。


「うちが住んでるところ、一応灯り点くよ。もう少し話したいからそこ行こっか」


 というヘリュの誘いを受けて、全員でその部屋に戻った。


 ヘリュが灯りを点けてくれて、狭い室内の中でそれぞれ床や椅子に座る。


「あれ、ヘリュ、なんか手紙があるよ」


 ティナがそう言って、座ろうとした場所にあった手紙を拾う。


「ん? あっ、ありがと」

「はい。だけどこれ、差出人とか書いてないけど、大丈夫?」


 確かに、浅いとはいえ地下街に住んでいるヘリュ宛に来る手紙なんて、どんなものなのか。

 ヘリュには普通に友達とかがいるのか?


「んー、なんて言うんだろう、ほら、あれだよ」

「いや、わかんないけど」


 手紙の封を開けながら、ヘリュは言葉を探し出すように「えーっと」と呟いている。


「あっ、そうそう、依頼人? とかそういうの」

「依頼人? なんの?」

「さあ、うちもわからない」

「どういうこと?」


 ティナがそう問いかけると、ヘリュは口元に指を当てて答える。


「えっとね、前にエリック君と会った大会みたいのあったでしょ? あれ終わった後、うちも色んな人に声かけられたんだよね」

「それはヘリュを雇いたい、っていうことで?」

「そうそう」


 俺もあの催しの後、色んな人に声をかけられたが、ヘリュもあったのか。


 まあヘリュも結構印象的な勝ち方してたもんな。


 鎧を着た大男を、一発で仕留めた。

 しかもそれをやったのはヘリュみたいな、華奢で可愛い女の子だ。


 そりゃ声をかけられるだろう。


「なんか『ぜひあなたを嫁に!』みたいな奴もいたけど、とりあえずぶん殴ったよ」

「……それは正解だと思うよ、ヘリュ」


 ……いきなりそんなこと言う奴には、ティナの言う通りそれが正しいだろう。


「で、雇いたいって言われたけど、うち誰かの下になる、みたいのって嫌なんだよねー。なんか性に合わないっていうか、それだったら一人で気ままに生きていきたいからさ」

「そうなんだ、まあヘリュっぽいかも」

「でしょ? だから全部断ったんだけど、こういう対等な立場で依頼を受け取るみたいのはやる、って言ったの。だから多分この手紙も、その依頼だと思うよ」


 ヘリュは手紙を開け、中身を読む。


 しかし読んでいる最中、ヘリュは眉を顰め始める。

 まるでその手紙に書かれていることが、不快な内容であるかのように。


「ヘリュ、どうしたの?」

「んー、なんか面倒な依頼が書いてあって、受けるか迷う……いや、面倒だなぁ」

「どんなの?」

「王族を殺せって」

「……えっ?」


 ティナの疑問の言葉と共に、ヘリュ以外の全員が目を見開いて反応した。


 その様子をヘリュは不思議そうに見てきた。


「ん? どうしたの?」

「い、いや、その……王族を、殺すっていう依頼が来たの……?」

「うん、そうだよ。面倒でしょ?」

「いや、面倒の一言じゃ済まされないと思うけど……」


 ヘリュは、俺達の目的を知らない。


 つまり俺達がスパイとしてこのハルジオン王国に来て、今この国に訪れているベゴニア王国の王族を守る仕事をしているということを知らないのだ。


 だから俺達がここまで反応している理由は、ただ王族を殺すという依頼が来たということに驚いていると認識しているのだろう。


「ヘリュ、その依頼を見せてくれないか?」

「んっ? 別にいいよ、はい」


 ユリーナさんがその依頼が書いてある手紙を受け取って読む。


 それをティナとニーナが両隣から覗くように読んでいる。

 俺は三人が読み終わるまで待つしかない。


「……どこの誰がこの手紙を出したのか、わからないな」

「うん、名前は書いてないみたい」

「用心深い貴族なのかもしれない」


 三人は読み終わってそう言った。


 俺もユリーナさんから渡されて、読む。


「っ! そっちか……!」


 手紙を読んで、俺は思わずそう言ってしまった。


 王族と聞いて、俺は囮として来ているベゴニア王国の二人、レオ陛下とクリスとのことかと思った。


 しかし……書かれている依頼は、違った。


『イレーネ・ハルジオン王女を、殺害せよ』



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