第150話 二対一


 俺はアンネ団長との通信を終え、ティナ達がいる場所へと向かう。


 そこへ行くと、ちょうど一試合終えたところなのか、ユリーナさんとヘリュが座り込んでいるのが見えた。

 隣にティナとニーナが立って、四人で話している。


「あっ、エリック。アンネ団長への連絡は終わった?」

「ああ、とりあえずな」


 俺が近づいたのをティナが最初に気づき話すが、すぐにヘリュが割って入ってくる。


「ねえエリック君、戦おうよー。ユリーナちゃんと戦うのも楽しいけど、やっぱりエリック君が一番強いからさ」

「……そうはっきり言われると傷つくぞ。いや、エリックの方が強いってわかってはいるのだが」


 俺がいない間、二人は戦っていたようだ。

 何回戦ったのかはわからないが、仲良くなったようでよかった。


「俺はいいが、ヘリュはすぐに戦えるのか? さっきまで戦っていたんじゃないのか?」

「休憩ついでに戦い方を話し合ってたから、すぐにでも戦えるよ。ユリーナちゃんと話してた戦い方も試してみたいし」

「私も試したいな。エリック、ヘリュの後は私とも戦ってくれ」


 ……本当に仲良くなったようで何よりだ。


 女性二人に同時に誘われるなんて、俺も男冥利に尽きる。

 ……それが戦いの誘いでなければよかったのだが。


 二人は休憩したと言っていたが、やはり顔や身体の動きを見る限り消耗している。

 対して俺はほとんど動いておらず、万全の状態だ。


「じゃあ、一対二で戦うか」

「……エリック君、どういうことかな?」

「言葉通りだぞ。ヘリュとユリーナさんの二人を、同時に相手するということだ」

「エリック、さすがにそれは舐めすぎじゃないか?」


 二人は軽く笑っているが、目つきが凄いことになっていた。

 睨んだだけで一般人なら失神させられそうだ。


「動きが遅くなってる二人の相手だったら、丁度いいくらいだ」

「ふーん、いいよ。エリック君、怪我しないようにね」

「エリック、全力でいくかな」


 ……ちょっと失敗したか?

 二人が思った以上にやる気、殺気を出しているのを見て俺は少し後悔し始めた。



 数メートルほど俺たちは離れ、その間にティナとニーナが審判として立っている。


「三人とも、怪我しないようにね」

「じゃあ……始め」


 ニーナの合図と同時に、ヘリュが一気に接近してくる。


 ヘリュの性格から速攻を仕掛けてくると思っていたので、俺は木剣をそれに合わせて横薙ぎに振るう。


「ふふっ!」


 胴に当たるよう振るったので避けにくいはずだが、ヘリュは速度をそのままでさらにしゃがんで避ける。


 この身のこなし、本当に異常だな……!


 滑り込むようにして俺の足元まで来たヘリュは、その勢いを殺さずにジャンプして俺に膝蹴りを放ってくる。

 直撃するのはさすがにキツいので木剣の側面でガードしながら、ヘリュの体勢を崩すように横に押しのけた。


「おっとっと……!」


 勢いもあったので少し体勢が崩れたらすぐには立ち直れない。

 そこを狙う……のが出来ればよかったが。


「私を忘れては困るぞ」


 ユリーナさんがそれを許すはずもなく、すぐさま俺に接近して木剣を振るってくる。

 それを正面から受け止め、流す。


 そして俺が攻撃を仕掛け……っ!


「うおっ……!」


 いきなりユリーナさんの顔が近づいてきた、と思ったら、頭突きだった。

 端正な顔立ちが近くにあったのでドキッとしたが、それ以上に今は心臓が激しく動いている。


 ま、まさかユリーナさんが頭突きをしてくるとは……。

 ギリギリで顔を横にずらして避けたが、本当に危なかった。

 今のがモロに当たったら、最悪鼻の骨が折れてた。


「くっ、意表をつけたと思ったが……!」

「めっちゃつかれましたよ、本当にビックリです」


 今ので驚いた俺は体勢を立て直すために、後ろへと下がった。


 一息つく間もなく、横からヘリュが攻撃しにきた。

 さらにヘリュと同時に、ユリーナさんもところどころで攻撃を仕掛けにくる。


「どうエリック君!? 二対一にしたの、後悔してきたんじゃない!?」


 ヘリュが激しい攻防の中で、笑いながらそう言ってくる。


 だが、そうだな……。


「後悔したかもしれないな、一人ずつやればよかったって」

「今更遅いぞ、エリック!」

「はい、だからすいません――勝たせてもらいます」


 同時に攻撃してきたのを、俺は低くしゃがんで避ける。


 しゃがんだ状態でユリーナさんの足に、先程のお返しとばかりに足払いをした。

 転びはしなかったようだが、よろけたところに腹に木剣を一閃。


「くっ……!」

「まず一人」


 強く打ち込んだわけじゃないが、腹を斬られれば模擬戦的には勝負ありだ。


 ヘリュが一対一となったことで、ずっと攻撃を仕掛けてくる。

 しかしやはり疲れているのか、動きも単調になり遅くなってきていた。


 その隙をついて、喉元に木剣を添える。


「はい、終わりだ」

「……ふふっ、やっぱりエリック君強いね!」


 ヘリュは降参、とでも言うように両手を上げて座り込んだ。


「二対一でも勝てないんだー、エリック君凄いねー」

「まあ二対一っていうのは数の有利がありそうだが、息が合わないと戦うのが難しいからな」


 二人いる方が強くなると思いがちだが、自分のタイミングで攻撃を仕掛けられない、得意な戦い方が出来ないという点から見ると、息が合わないと逆に弱くなる可能性が高い。


 特に今回はヘリュが何も考えずに攻撃を仕掛けてくるので、ユリーナさんは戦いにくかっただろう。


「だけどユリーナさんの頭突きは本当にビックリしました」

「ああ、ヘリュと戦って得た戦略だな。上手くいったと思ったが、まだまだだな」


 今回はむしろ、ユリーナさんと一対一だったら危なかったかもしれなかったな。

 それほど俺はあれに驚かされた。



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