第153話 恋話続き
「私のことを詳しくお聞きになったのですから、もちろんイレーネ様もお答えしてくれますよね?」
「も、もちろんです……」
さっきとは立場が逆になった感じで、アリサ様が私に顔を寄せてきて、私が少し引き気味になっています……。
だけどやはりアリサ様もこういうお話が好きなようで、乗り気になっています。
「イレーネ様は前に、エリック様とお会いしたことがあるのですか?」
「はい、一度だけ」
三週間ほど前、ベゴニア王国が急襲を受けているという情報が入って、私がハルジオン王国にお忍びとして来ていらしたクリスト王子を探して、見つけた際に。
エリック・アウリン様と、初めてお会いしました。
「イレーネ様はお会いする前から、エリック様のことを知っていらしたのですよね?」
「はい、そうです。エリック様は、私達の国を救ったと言っても過言ではありません」
ハルジオン王国はお父様が建てて、魔族の国にしてほぼ唯一、友好的に他国と交流する国。
私はこの国がとても好きで、そんな国を建てて王として人々を守っているお父様をとても尊敬しています。
ですが……フェリクス・グラジオという男が、お父様を倒しました。
魔族の国の王は、その国にいる誰よりも強くないといけない。
フェリクスがお父様を倒したことにより、次期国王はすぐにフェリクスのものとなりました。
そしてあの男は、他国と交流するのではなく、他国と戦争をするという手段を選びました。
私はそれが嫌で、あの男の婚約者となっていましたが、逃げ出したいくらい嫌でした。
それを知ったお父様や使用人達が、命と引き換えに逃げるのを手伝おうとしていたと聞いて、すごく肝が冷えましたが……。
なのでフェリクスを倒した、いや、殺したエリック様は、私達の国、お父様や私の命の恩人なのです。
フェリクスを殺してくれたエリック様には、とても感謝しています。
感謝しています、が……。
『あたしはニーナ。フェリクス・グラジオの妹よ』
……フェリクスにも、家族がいたのですね。
そして、国を想う心も。
「……イレーネ様? 大丈夫ですか?」
「っ! は、はい、大丈夫です」
アリサ様に話しかけられ、ハッとしました。
過去のことを思い出していて、少しぼーっとしていたようです。
「それでイレーネ様、実際どうなのですか?」
「はい? 何がですか?」
「エリック様のこと、お慕いしているのですか?」
「えっ……!?」
私がエリック様のことを、お慕いに……!?
「い、いや、そんな! まだ一回しかお会いしてないのに、お慕いするのなんて……!」
「回数なんて関係ないですよ。それにエリック様はハルジオン王国を、イレーネ様達の命をお救いになったと聞いています。そんな方をお慕いになっても、恥ずかしいことじゃないと思います」
「そ、それはそうなのですが……!」
確かに全く誇張なしに、エリック様は命の恩人ですし……!
本当に、心の底から感謝しております!
「だけどそれとこれとは話が違うのでは……! いえ、あの、エリック様のことをお慕い出来ない人、という訳ではないです!」
お父様を簡単に倒したフェリクスよりも強い方が、まさか自分と同い歳だとは全く想像もつきませんでした。
お会いする前に年齢と名前を聞いていたのですが、年齢を聞いた時は本当にビックリしました。
そしてエリック様とお会いして……。
本当に少しの時間しかお会いしていませんが、とてもお優しそう顔で、それでいて力強い瞳をしていて……!
『イレーネ、必ずもう一度会いに来る』
あの言葉を私に言った時の表情や声が、今でも鮮明に思い出せてしまいます……!
「まだ一回しか会っていないですし、お話もまだ全然出来てませんし……!」
「それは今後、またお会いする機会があると思いますよ。ではイレーネ様からすると、エリック様は少なくとも『ナシ』ではないと?」
「な、『ナシ』というのは……?」
「恋仲になるにあたって、無理ではないということです」
「そ、それは決して……! 『ナシ』ではないです!」
「では『ナシ』ではないのだとすると、エリック様と恋仲になるのは『アリ』だと?」
「は、はい! 『アリ』です!」
後で思い出して顔から火が出るくらい恥ずかしいことを言っていると、私はまだ知りません。
「ふふっ、そうですか。それはよかったです」
「よ、よかったのですか……?」
「はい、私もイレーネ様と同じように、エリック様にはとても感謝していますので」
「そうなのですか?」
クリスト王子専属のメイドであるアリサ様が、エリック様に感謝していること……?
「クリストのことです。クリストはエリック様とお友達になられて、本当に嬉しそうにしているのです」
「お昼での馬車の中でも話しておりましたね。エリック様は唯一のお友達、いえ、親友だと」
「はい、王子としてではなく普通に接してくれるのが、とても嬉しいみたいです」
私も同じような悩みを抱えているので、なんとなくわかります。
王女という立場を恨んだことなど一度もないですが、気軽に話せるお友達が欲しいと思ったことは何度もあります。
「クリストは私と話すとき、ほとんどの話題がエリック様なんですよ。ここだけの話、少しだけ嫉妬してしまいます」
「ふふっ、そうなのですか……アリサ様」
「はい? なんでしょう?」
私が改まった雰囲気で名前を呼んだので、アリサ様は不思議そうにしています。
少し緊張しながら、私はあることを提案します。
「私達も、その……お友達になりませんか……?」
「っ! それは……!」
「いえ、その、無理でしたらいいのです! 自分で言うのもなんですが、違う国の王女とメイドの方が、お友達になるのなんて……!」
断られたらどうしようと考えて、自分が傷つかないように……立場が違うという言い訳を言ってしまいました。
ああ、こんなことを言いたくはなかったのに……!
お友達なんてどうやって作ればいいかわからないから、どうすれば……!
「イレーネ様」
「は、はい!」
「私はメイドとしてはベゴニア王国で何の不自由なく働いておりますが、少しだけ不満に思うことがあるのです」
「ふ、不満ですか?」
「仕事ばかりでお友達を作る機会がないのです。なので、クリストに私と同じ気持ちを味わせることが出来ないのです。自分とは違う仲が良い方との話を、ずっと聞かせるということが」
「っ! で、では……!」
アリサ様はとても綺麗な笑顔で、私に言ってくれました。
「クリストに友達のお話を言いたいのです。イレーネ様、協力してもらませんか? 友達として」
「は、はい! 任せてください! 友達ですから!」
そう言って私達は、遅くまで話し続けました。
私は生まれて初めて、同じ年頃の女性のお友達が出来ました!
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