第146話 ユリーナVSヘリュ



 ――ユリーナside――



 私は目の前で無防備に構えている……ように見える、ヘリュと対峙していた。


 腕はダランと下げられ、棒立ちで立っているヘリュ。


 しかし一度だけ戦った私は、知っている。

 あれが、ヘリュの本気の構えなのだと。


 腕に力が入ってないのは、余計な力みは最高速を出すのに邪魔だから。

 棒立ちに見えるが少しだけ膝は曲がっていて、いつでも動けるようになっている。


 私は鞘に入れたままの剣を中段に構える。

 彼女の自由な構えとは真逆で、型にはまった構えである。


 近くで見ているティナが審判として、合図をくれる。


「じゃあ……始めっ!」


 最後の一息が聞こえるか聞こえないかの瞬間に――ヘリュが爆発的な踏み込みで、間合いに入ってきた。


 私でも二歩は踏み込まないと届かない距離を、ヘリュは楽々と一歩で踏み込んで攻撃を仕掛けてこれる。


 前はそれに動揺して負けてしまった。

 しかし今回は前の反省を生かして対処する。


 彼女が来るであろう場所に、すでに剣を置いていた。

 少しズラすだけで、そのまま彼女の心臓辺りに突き刺さるように。


「ふふっ!」


 しかしヘリュは剣の側面を拳で弾いて、私の胴に蹴りを入れてきた。


「くっ……!」


 右腕で蹴りが腹部に入るのを防ぐが、それでも重い。


 ヘリュは私より身長が低く、体重も軽いはず。

 速度は私以上なのに、なぜこうも攻撃が響くのか。


 剣と拳だったら、普通は剣の方が有利に決まっている。


 拳は一回当たっても、今のように防げば問題ない。

 しかし剣は腕で防いだところで、致命傷になる可能性が高いのだ。


 それなのに、なぜこうもヘリュは強いのか。


 ヘリュの攻撃は速く、手数が多い。

 ギリギリで避け、私もカウンターとして剣を振るう。


「あはっ! いいよ、ユリーナちゃん!」


 しかしヘリュは私の攻撃を躱すと同時に、攻撃を仕掛けて来る。

 私のように防いで流してから攻撃ではなく、避けると同時にだ。


 これが一番意味がわからない。

 いや、本来ならこれが理想なのかもしれない。


 防ぐと同時に攻撃をするのがカウンターの理想、だがそれが出来るのかが問題だ。


 今まで私が見てきた中で一番上手くカウンターを仕掛けるのは、エリックだ。

 綺麗に相手の攻撃を捌き、体勢を崩したところで反撃。


 その次にリベルト副団長。

 リベルト副団長は、ヘリュに少し似ているかもしれない。

 超人的な身体の扱い方で、予測出来ない反撃を仕掛ける。


 ヘリュも身体の扱い方が上手いが、リベルト副団長のように意識して動かしているのではなく、反射的に動かしている。

 だから動きを予測しづらいし、攻撃を当てずらく、攻撃が捌きにくい。


 そして……。


「がっ……!」


 足払いされ転がされたところで、ヘリュの足が私の喉元に突き刺さり、吹き飛ばされた。

 壁に身体が強く当たり、一瞬息が出来なくなる。


「あはっ、うちの勝ちだね」


 私に蹴りを入れた体勢で止まって、ヘリュは笑いながらそう言った。

 何も反論が出来ない、完敗だ。


「ごめんねー、結構強く蹴り入れちゃった。大丈夫?」

「ごほっ……だ、大丈夫だ。問題ない」


 ヘリュが本気で喉元に蹴りを入れていれば、私は死んでいるだろう。

 手加減しても、この威力か。


「いやー、てかあれだね。ユリーナちゃんって戦い方下手だよね」

「へ、下手……!?」


 はっきりとそう言われると、さすがに私も傷つくが……。


 だがヘリュに完敗しているのだから、私は弱いのだろう。


「うちが見た感じ、ユリーナちゃんってもっと強いと思ってたけど」

「そ、それは、期待外れだと言いたいのか……」

「まあそれもあるけど」

「くっ……!」


 ヘリュは嘘をつかないような、まっすぐな性格なのだろう。

 だからこそ……胸に刺さる。


「身体能力とか技術を含めて、うちとユリーナちゃんって多分あんまり強さ変わらないよ」

「だが、私はヘリュに一太刀も当てられずに負けたぞ」

「うん、だから下手だなぁ、って」

「そ、そう何度も言わないでくれ……」


 さらに気分が落ち込んでくる。


「ユリーナちゃん、戦い方が綺麗すぎるんだよ」

「綺麗すぎる……?」

「うん、だから躱しやすいの。もっと適当でいいんだよ、戦いなんて。その場その場で身体を動かすの」

「いや、それは難しいが」


 しかし、そうか……綺麗すぎる、というのは的を得ている。


 ヘリュと戦うとき、私は正中線に剣を中段に構えた。

 それが私に合っていると、思っていたから。


 だが、違うのかもしれない。

 合っているのではなく、私はそれしか知らないのだ。


 型にはまった構えでずっとやってきたが、それだけじゃダメのかもしれない。


 私はもっと強くならないとダメなんだ。

 エレナさんを奴隷から解放するためには、まだまだ私は弱すぎる。


「もう一戦してくれ、ヘリュ。試してみたいことがある」

「もちろん、戦うの楽しいから」


 私は今思いついたことを、ヘリュに試してみることにした。




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