第147話 尋問後



 ――エリックside――



「……だいたい聞けたか」


 当初予定していた質問内容を全部聞いて、聞いている最中に思い浮かんだ疑問もほとんど聞けた。


 暗殺屋の男に最後の質問を答えさせてから、とりあえず気絶させた。

 こいつを人質に取ってもあまり意味はないだろう。


 リンドウ帝国の貴族に雇われたらしいが、暗殺屋を人質に取ったところで「知らない」と言って見捨てればいいだけだろう。


 情報を聞き出せたから殺しはしないが、どうしようか。


「エリック、地下街のゴミ溜めに捨てておけば? 身包み全部剥がされると思うけど、死なないと思う」

「……それが一番良いか」


 尋問をされ最後に気絶させられ、目が覚めたらおそらく裸になってゴミ溜めにいることになった暗殺屋。

 少し可哀想だが、俺の親友の命を狙ってこれくらいで済むなら安いものだろう。


「……エレナの情報は、なかったわ」

「そうだな……」


 こいつに同業者のことを聞いたが、エレナさんらしき暗殺屋の情報は持っていなかった。


 ニーナの話ではエレナさんは、おそらくまだ奴隷のままということだ。


「いろいろと聞けたから、とりあえず報告しないといけない。ニーナはティナ達のところに行っててくれ」

「ん、わかった、こいつもゴミ溜めに持っていく」

「ああ、ありがとう」


 ニーナは気絶している暗殺屋の首根っこを掴み、引きずっていく。


 俺は一人になって他に誰もいないことを確認して、懐から魔道具を出して起動する。

 しばらく待ち、あちらも魔道具を起動したようで反応があった。


『はい、こちらアンネ』


 魔法騎士団のアンネ団長と魔道具が繋がり、女性にしては低く綺麗な声が響いてくる。


「エリック・アウリンです。アンネ団長、今そちらは大丈夫でしょうか?」

『ええ、大丈夫よ。さっきは貴方がこっちを狙ってた輩を潰したのかしら?』

「はい、そうです。そいつから情報を聞けたので、共有しようと思い連絡しました」

『そう、礼を言うわ。私は少し気づくのが遅かったから、防御は出来たけど捕まえることは出来なかったわ』


 数百メートルは離れたところにいる者の殺気を感じて事前に気づけるのであれば、十分すぎるだろう。



 その後、俺は得た情報をアンネ団長に話した。

 特に今後、レオ陛下やクリストを狙ってくるような暗殺屋、貴族について。


 尋問して聞いたところ、やはりリンドウ帝国の貴族が雇ってる暗殺屋が来る確率が高い。


 前の急襲の後、すぐに国の王と王子がこんなところに来ているのだ、狙わない訳がないだろう。

 リンドウ帝国の帝王に気に入られようとする貴族が、二人の命を狙っているようだ。


『情報共有、感謝するわ。やっぱり狙ってる貴族は結構いるみたいね』

「ええ、今日は初日ということで一人しかいませんでしたが、明日から格段に増えるかと」

『わかってるわ。こちらは陛下と王子の護衛をしているから、やられる前にやるのは貴方達の仕事よ』

「心得ています」


 アンネ団長や他の騎士達は護衛をしないといけないので、守ることを徹底する。

 俺たちはそれに比べて自由なので、暗殺屋を見つけたら捕らえ、出来れば今回みたいに攻撃前に捕獲する。


『そちらの三人……いえ、ニーナ・グラジオがいるんだったわね。四人の仕事は多いと思うけど、無理せず頑張りなさい』

「はい、ありがとうございます」


 アンネ団長とはあまり話したことはないが、厳しくも優しい人のようだ。


 なんとなくだが、イェレ団長に似ている気がする。

 あまり感情が表に出ないが、人の上に立つ資質を持っている。


 だが副団長のリベルトさんやビビアナさんに怒っているのを時々見るので、イェレ団長よりは感情が表に出るのだろう。


『……そういえば貴方、ハルジオン王国の王女、イレーネ様とご知り合いなのかしら?』

「えっ……!? い、いきなり、なぜですか?」


 もう情報共有が終わったので通信を切るのかと思ったが、イレーネのことを聞かれて焦る。


『馬車の中でのクリストファー王子とイレーネ王女との会話が、貴方の名前が多く出ていたようだから』

「えっ、ほ、本当ですか!?」

『ええ、イレーネ王女が貴方のことを、クリストファー王子に聞いてたみたいよ』


 マジか……!?

 えっ、だがそれはどういった意図があって聞いてたんだ……?


 前に俺はこの世界では初めてイレーネに会ったときに、「もう一度会いに来る」と約束した。


 も、もしかして、「会いに来てもらってないのですが、どういうことでしょうか?」とクリストに聞いていたのか……!?


 いや、待ってくれ、俺も本当は今すぐ会いに行きたいんだ。


 今日のクリストの護衛をするときも、遠目からイレーネを見て我慢が大変だった。

 すぐにでも飛び出して、イレーネと話したかった。


 だがやはり任務があるので、それは出来ない。


「ク、クリストとイレーネは、何を話していたのですか?」


 動揺を表に出さないようにと思ったのだが、勝手に声が震えてしまっていた。


『……イレーネ王女が貴方のことを気にしていたようで、クリストファー王子が質問に答える形だったわ』

「いや、その……その質問の内容とかは……」

『ごめんなさい、あまり覚えてないわ』


 絶対嘘だ。

 声の抑揚がわざとらしく、覚えている雰囲気が出ている。


『今度お会いしたら、直接聞いてみなさい』

「……わかりました」


 それが出来れば苦労しないのだが。


『それと親交がある隣国の王女を呼び捨てするのは、あまり感心しないわ』

「えっ、あっ……す、すいません……」


 動揺していたから、気づかなかった。

 クリストのことはいつも呼び捨てにしているし、それはアンネ団長もわかっている。


 だがイレーネを呼び捨てにしたのはいけなかった。


『では明日の定時連絡に』

「は、はい、ではまた。お疲れ様です」


 そう言って通信を切って、俺はため息をついた。


 おそらくアンネ団長には、俺がイレーネと何かがあるということが気づかれてしまった。

 実際は俺が一方的に想っているだけなのだが。


 ……自分で言ってて悲しくなる。



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