第129話 追加の賭け
まずいぞ……!
私とニーナは今、この極秘任務において一番の危機を感じている……!
奴隷商人のフェルモに賭け勝負を仕掛けるところまでは、私たちの思惑通りだった。
絶対に応じる、というか勝負を必ず受けさせる確信があったので、それはよかった。
しかしその後だ、私たちが予測していなかったことが起こったのは。
フェルモと少し世間話をしながら、始まった戦いを見ていた。
闘技者の戦いを見る限り、やはりエリックが負けるとは思えない。
私でも簡単に圧倒できるだろう。
そして、そいつらは来た。
「おお! シュナ殿、ニーナ殿! 探しましたぞ!」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこには私たちをこのパーティに招待してくれた、ロヘリオ・パレンシア、そしてその奥さんのパメラがいた。
嬉しそうに近づいてくる二人に、私とニーナは笑顔が引き攣らないようにするのに精一杯だった。
この二人は、お互いに同性が好きな夫妻だ。
そして不幸にも、私とニーナはこの夫妻に好かれてしまっている。
ロヘリオに好かれていなかったらこのパーティに呼ばれていなかったので、そこには感謝していた。
しかし、この夫妻の狙いが私たちというのが嫌なところだ。
「パレンシア夫妻、ご無沙汰しております」
「ん? おお、フェルモ殿か。経営は順調か?」
「はい、お陰様で」
顔見知りだったようで、フェルモとロヘリオは軽く話す。
おそらくフェルモは、ロヘリオに奴隷売買をしていることは話していない。
ロヘリオは特殊な性癖を持ってはいるが、この国の貴族だ。
奴隷売買が禁止されているの国の貴族に話すことではないだろう。
だからフェルモは普通の商人として、ロヘリオと話していた。
夫妻は私たちの隣に座った。
「シュナ殿、この催し楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい、もちろん。ご招待していただき、本当に感謝しております」
「いやいや、それならよかったですよ。誘った甲斐がありました」
……こうして話している限り、悪い人ではないのだがな。
しかしその目が下心満載で、私の男装姿を見てくるのが厳しいところだ。
「この催しは見るのもいいですが、何かを賭けるのもとても刺激的で楽しいですよ。どうですか? 私と賭けでもしませんか?」
「そ、そうですね……ちなみに、何を賭けるのですか?」
「私が負けたらお金を渡しましょう。望む額を、小切手に書いてくださって結構です」
ロヘリオは懐から小切手を出して、本気度を見せる。
「しかし私はこの催しに何十回も来ていて、強い闘技者を知っていたりよく見ているのでどう考えても有利です。なので私が勝ってもそこまでのものは要求しません。そうですね……一度、二人で飲みに行くぐらいで結構です」
長々と喋ったが、最後の「二人で」というのを一番要求したいところなのだろう。
何が「そこまでのもの」だ。
こちらはこの賭けに、貞操の危機を感じるぞ。
断固拒否したいが、さすがにこのパーティに招待してくれたロヘリオに拒否するのは、ここでは無理だろう。
「わかりました。しかし、そんな破格の条件でよろしいのですか? 私が負けたときに失うものが無さすぎるので、違うものを賭けても大丈夫なのですが」
暗に二人で飲みに行くことを断ろうとしたのだが……。
「いえいえ、大丈夫です! 私がシュナ殿とご一緒したいだけですから!」
案の定、上手くいかなかった。
というかこの男、もう欲求を隠す気がないのか?
「ニーナさん、私たちも賭けをしませんか?」
「え、えっと……」
「もちろん主人と同じ条件で構いませんわ。ニーナさんが勝ったら望む額のお金を、私が勝ったら一度二人で飲みに行くということで」
「は、はい……わかりました」
ニーナも奥さんに押し切られて、この賭けをしてしまっていた。
「どの戦いで賭けをしますか? 今の戦いはもう直ぐ決着がつくので、次にしましょうか」
「そ、そうですね。そういえば、私の護衛が飛び入りで闘技者になって戦うのですよ。その戦いで賭けませんか?」
「おお、そうなのですか! では――」
エリックだったら絶対に勝つと確信しているので、その戦いで賭けをしようと提案する。
ロヘリオも反応からしてその戦いで受け入れてくれる……と思ったのだが。
「シュナ殿、私との賭けをお忘れですかな? 貴方の護衛の戦いで賭けをしているのは私なのですから、同じ戦いで賭けをするのはちょっとつまらなくないですか?」
ここで奴隷商人のフェルモが、横槍を入れてくる。
「では違う戦いにしましょうか」
「そ、そうですね……では次の戦いにしましょうか」
「ではそれで。しかし護衛を信じていらっしゃるのです、素晴らしい主従関係です」
「ありがとうございます……」
その後、次の戦いが始まるまでロヘリオは私を褒めてきた。
というか、口説いてきている。
隣では奥さんのパメラさんも、ニーナのことを口説いていた。
次の戦いで賭けに負けてしまったら……!
考えるだけで恐ろしい。
こうして、私とニーナはこの任務で一番の恐怖を味わいながら、口説き文句を顔を引き攣らないようにしながら聞き流した。
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