第125話 パーティの催し


 俺たちは適当にパーティ会場にいる人たちと会話をしていく。

 いや、俺は全く話さないで後ろに仕えているだけだが。


 あの奴隷商売をしているフェルモ以外は、結構まともな貴族が多い。

 今の戦争をしない平和なハルジオン王国を支えている貴族がこのパーティに多く呼ばれているようだ。


 しかし中には王を打倒したいという気持ちを隠して参加している貴族もいる。


 俺たちがパーティに初参加ということがわかって近づいてきた貴族が、そういうことを話してきた。


「貴方達は、この国に不満はないかね?」

「不満、とは?」 

「この国の国王、ハルジオン陛下には向上心がない。今ある資源や土地で満足しているのだ。他国に戦闘を仕掛けないと、この国は成長しない」

「ほう、そういうことですか」

「ああ、ハルジオン陛下を倒して、この国をもっと大きくさせたいと私は考えているのだ。君達も協力しないか?」


 という感じで、話を持ちかけてきた。


 確かに表向きは立派な志だ。

 これで騙される者もいるかもしれない。


 しかしまず、この国が戦争を仕掛けないと成長しないというのは間違いだ。


 戦争をしないで和平的な交渉で、他国と協力している。

 俺たちの国、ベゴニア王国やいろんな国と。


 戦争を仕掛けるよりも安全に、そして確実に成長していると言える。

 戦争は勝てば一気に物資や土地が入るが、それまでに大きな犠牲が確実に生まれてしまう。

 それをしっかりと把握して無くしているという時点で、セレドニア・ハルジオン陛下は優秀なのだ。


 国王を打倒したいという話を持ちかけてきた貴族は綺麗事を並べているが、ただ自分の地位を上げたいか、それかセレドニア陛下に恨みがあるかのどちらかだろう。


 その話を持ちかけてきた貴族には適当にごまかして断り、名前や容貌を覚えておく。

 俺たちはベゴニア王国のスパイだが、ハルジオン王国とはさっきも言ったが友好的だ。


 ハルジオン王国がより一層発展し、安全になればこちらの国としても利益が出る。

 だからこの情報は持ち帰り、セレドニア陛下にお伝えするように言っておこう。



 その後も適当に貴族の方との挨拶回りをしていくと、ティナから連絡が入る。


「三人とも聞こえる? さっきこのパーティの主催者とかが話してたことなんだけど――」


 その報告を聞いて、俺たちは驚愕した。


 まさかそんなことをする予定があるとは……。


「どうする? 今からここを出れば巻き込まれないと思うけど」


 ティナの声が耳元に聞こえてくる。

 少し心配そうにしているが、これは逆にチャンスだ。


 これを利用すれば、一気に手に入れたい情報が入ってくるかもしれない。


「このままここに居て、何も知らないフリをして参加する」


 俺がそう小さく呟くと、前にいる二人にも魔法の効果で聞こえたようで、チラッと俺の方を見て「了解」というように頷いた。


「わかった、エリックなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」


 その言葉を最後に、ティナの魔法は消えた。



 それからパーティ会場にいること、数十分。


 突如会場が暗くなる。

 普通だったらいきなりのことでビックリするが、何回も参加している人たちは歓声をあげる。


 この後何が起こるか、わかっているからだ。


 暗闇の中、会場の一番目立つ階段の上に一筋の光が灯される。

 その光の中に、主催者の一人が立っていた。


「皆様、お待たせしました! 準備が整いましたので、これから『闘技場』へと移動します!」


 その言葉に、会場中から先程以上の歓声があがる。


 そう、先程ティナが手に入れた情報とはこのこと。


 どうやらこの屋敷の地下に、少し狭いが闘技場のようなところがあるらしい。

 そこでパーティをするときは、毎回最後の見世物として戦いを見るようだ。


 やはり魔族は戦いが好きらしく、こういう催しが一番盛り上がるのかもしれない。


 参加者はこの話を聞いて自ら名乗り出て、勝ったときの報酬を求める者。

 ただ力を試したい者。

 貴族の用心棒など。


 様々な人が参加する。

 そしてこの戦いは、飛び入り参加は全く問題ないようだ。


 会場にいる人たちが、順番に地下の闘技場に続く通路へと案内されていく。


「あなた方はどうしますか? 初参加ですよね?」


 今まで隣で話していた人が、ユリーナさんに参加の有無を聞いてくる。


「ええ、そうですね。こんな催しがあるとは知りませんでした」

「やはりそうですか。もちろん見に行きますよね? とても面白いですよ」

「はい、ぜひ見たいですね」


 本当はユリーナさんは別に見たくないだろうが、魔族ならもちろん見に行く、と答えるだろう。

 だからここは断るわけにはいかない。


「闘技場の戦いの参加は、飛び入りはいいのですか?」

「ええ、大丈夫だと聞いてますよ。おっ、まさかシュナ殿!」


 その人はユリーナさんの後ろにいる俺のことを見て、興奮したように笑う。


「ええ、私の護衛も参加させようと思いまして」

「おお! そうですか! ご自信があるようで!」

「はい、私は彼が負けるところが想像できませんよ」


 ユリーナさんは興奮したその人と話しながら移動する。


「いいですね! これも何かのご縁だ! あなたの護衛が戦うときは、信じて賭けさせてもらいますよ!」


 この戦いは貴族たちが賭けを行う。

 主に金のやり取りだが……違うものを賭けることもできる。


 そこを、狙う。


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