第123話 パーティ侵入


 ユリーナさんとニーナは、なんとか立ち直ってくれたようだ。


 まあいきなりパーティに来てあんな出来事があれば驚くのは当然だと思う。

 ユリーナさんはそういう目で見られると覚悟していただろうが、ニーナはしていなかったせいでダメージが少し大きいかもしれない。


 だがそのせいで作戦ができなくなってしまったら、元も子もない。



 今回の作戦で俺が護衛として来たのには、何個か理由がある。


 まず一つ目は、護衛として女性を連れてくるのは目立ってしまうからだ。

 こういう場での護衛といえば普通は男性なのに、ユリーナさんたちだけ女性の護衛だと悪目立ちしてしまう。


 俺たちの任務を考えると、そこまで目立つのは効率が悪くなる。


 二つ目は、単純に護衛だったらティナと比べると、俺の方が優秀だからだ。

 ティナの魔法は優秀で万能に近いが、こういう護衛には少し向かない。


 攻撃や防御の規模がデカすぎるのだ。


 それだったら俺の方がクリストを護衛した経験もあるし、適役だろう。



 そして最後に三つ目。

 これが一番大きな理由で、ティナが護衛じゃない方がいいと判断した。


 それは……。


「――三人とも、聞こえる?」


 突如俺の耳に、いや、俺たちの耳に届いた声。

 周りの人たちには絶対に聞こえないであろう、小さな声はしっかりと俺たちには聞こえた。


「ああ、聞こえる」


 俺も限りなく小さく、ほとんど口を動かさずに言った。

 前にいる二人にもおそらく聞こえていない。


 そして前の二人も多分、俺と同じように呟いただろう。


「うん、みんな聞こえるみたいだね」


 全員と声が通じたというのを、このパーティのどこかに侵入しているティナが報告した。



 一番大きな理由は、ティナが一番侵入する役が適任だからだ。

 風魔法で自分の足音を全く立てずに移動できて、気配を殺すのも上手い。


 俺でも簡単に侵入はできるが、その後に仲間と連絡が取れない。

 ティナだったらこういう風に、風魔法で話せるのだ。


 しかし本当に便利だな、この魔法。

 ティナの魔法が上手いので、ビビアナさんぐらいの実力者じゃないとこの魔法は感知できない。

 そんな実力者がそういるわけないので、ほとんどバレる可能性はないのだ。


「三人のいるところから四時の方向に、リンドウ帝国の話をしている人たちがいるよ」


 ティナが会場のほぼ全部の会話を聞いて、俺たちにそう伝えてきた。


 ユリーナさんとニーナが俺の方をチラッと見てくる。

 俺が頷くと、二人はそちらの方向へ歩いていく。



 ティナが言った場所には、四人の男女がいた。

 女性が三人いて、男性が一人。

 男性を囲うように女性がいるという感じだ。


 女性陣はとても綺麗なのだが、男性は太っていてお世辞にもカッコよくない。

 他に魅力があるのか、金に物を言わせているのか……まあそこは今はいい。


 近づいていくと、男性がこちらに気づく。


「おお、とても見目麗しいご夫婦ですね。お初にお目にかかります、私はフェルモ・サディーノです」


 笑顔で好意的に接してきてくれる、フェルモと名乗った男性。

 他の女性陣も綺麗に会釈してくる。


 とても良い人に見えるが、俺たちは知っている。


「さっきその人、『次はどの女がいいかな』とか言ってた。気をつけてね」


 ティナから、そう伝えられているのだ。


 だからおそらく、この態度や表情は演技。

 言われてないと気づかなかったかもしれない。


「初めまして、フェルモ様。私はシュナ・ミルウッドです。こちらは妻のニーナです。後ろは護衛の者です」

「おお、お名前も美しいですね。それで、私に何か御用ですか?」


 人に好かれる笑顔の中に、若干鋭い雰囲気が現れる。

 少しこちらを警戒しているようだ。


 ユリーナさんも表向きの笑顔で慣れたように話す。


「いえ、特に大した用はありません。初めて招待されたので、挨拶回りをしているのです」

「そうですか。どなたから招待されたのですか?」

「ロヘリオ殿です」

「ああ……なるほど」


 どうやら納得したらしい。

 嫌な納得のされ方だが、警戒が解かれたのでそれは良かっただろう。


「このパーティは色んな方がいらしてますね。失礼ですが、フェルモ殿はどういったお仕事をなさっているのですか?」

「私は――奴隷売買を、やっております」

「――っ!」


 良い笑顔で、堂々と、はっきりと、フェルモは言った。



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