第122話 パーティ当日


 招待状を貰って三日後。

 パーティ当日となった。


 私とニーナ、それにエリックは貴族街を歩く。


 格好は私たちが出来うる限りの正装をしている。

 もちろん、私は男装をしているが……。


 エリックは護衛としてついてきているので、黒っぽい服を着て目立たないようになっているだけだ。

 正装ではないが、護衛の者がそこまで服に気を遣っているのも少しおかしい。


 招待状に記された場所へ行くと、とても大きな屋敷があった。


「あそこ?」


 私の腕を掴んでいるニーナが、そう問いかけてきた。


「ああ、そうみたいだ」


 そのまま屋敷に近づいていくと、門の前に受付のような人がいるのが見える。

 懐から招待状を出して、受付に見せる。


「パレンシア様の招待状ですね。お受けしました。そのまま中にお入りください」

「ああ、わかった」


 私たちが前に話した貴族は、ロヘリオ・パレンシアという名だった。

 金髪で小太りの、まさに富裕層にいるおじさんという感じだ。


 言われた通りに中に入っていくと、何組かの男女にすれ違う。

 軽く会釈しながら進んでいき、屋敷の中に入るととても大きな広間に出た。


 その部屋には何十人もいて、それぞれ豪華な服を着ていた。

 私たちが用意した服はやはり少し見劣りしてしまう。


 ほとんどが男女の二人で行動しているのだが、私たちのように後ろに護衛がいる組もいるようだ。


「すごい、なんかキラキラしてる……」


 ニーナの私の腕を掴む力が強くなった。

 少し気後れしているようだ。


 私はもともと貴族なので、こういう場は多少慣れていた。


 だが男装してリードするのは初めてなので、私もニーナほどではないが緊張はしている。

 後ろにいるエリックはいつもと態度は変わっていないようだが、どうなのだろうか。


 しばらく広間を歩いていると、後ろから声をかけられる。


「シュナ殿、ニーナ殿」


 偽名を呼ばれて振り向くと、招待してくれたロヘリオ・パレンシアがいた。

 その隣には彼の奥さんだろうか、女性もいる。


「ロヘリオ殿。先日はありがとうございました」


 私は少し低い声を意識して喋る。


「いえいえ、こちらこそ。いきなり招待状を渡してすみませんね、来てくださらないと思っていましたよ」

「いえ、こんな素晴らしいパーティに招待していただいて、とても感謝しています」


 作り笑いをしながら喋ると、ロヘリオの目が私の顔を嫌らしく捉えてくる。

 普段も男性にそういう目を見られるときはあるが、まさか男装しているときにそう見られるとは思っていなかった……。


 いや、いけない。

 今それを考えると、無駄に落ち込んでしまう。


「ロヘリオ殿、失礼ですがそちらの方は……」

「ああ、すみません。ご紹介が遅れました。妻のパメラです」


 紹介された女性が、軽く会釈した。

 綺麗なドレスを身に纏っているが、少しスタイルが悪いのかゆったりとした着て誤魔化している。


 しかし、男が好きというロヘリオが普通に女性と結婚しているとは……。

 どちらもいけるということか?

 ……少し無駄なことを考えてしまった。


「お初にお目にかかります、パメラ殿。私はシュナ・ミルウッド。こちらは妻のニーナです。どうぞお見知り置きを」

「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。ロヘリオの妻のパメラです。あなたがシュナさんですね、主人が気に入る理由もわかります」


 ……気にいるというのは、そういう意味なのか。

 あまり考えたくないな。


「こらこら、そういうことはここでは言わない約束だろう?」

「あら、うふふ、すみません」

「それにそれを言うなら、君も気に入るはずだろう? 私は君の好みもわかっているからね」

「ええ、そうですね」


 ん? どういう意味だろうか。

 奥さんの方も気に入る、というのは……もしかして、奥さんも旦那ではなく他の男を狙っているのか!?


「あとでゆっくりお話ししたいわ……ねぇ、ニーナさん?」

「へ……? わ、私……ですか?」


 奥さんは私ではなく、隣にいるニーナに向けて、ロヘリオと同じように嫌らしい目を向ける。


 ……まさかこの夫妻。

 お互いに、同性好きなのか……!?


 その後、ニーナが奥さんにとても話しかけられて、あたふたしながら対応しているところをただ見ていた。


 私たちについている護衛のエリックの紹介をして、とりあえず一回この夫妻とは離れることになった。

 紹介したとき、エリックのことも嫌らしい目で見ていたのを私は見逃さなかった……見逃したかった。


「……ごめん、ユリーナ」

「何がだ? それに今、私はシュナだぞ」

「男装して男に好かれた、っていうのをからかって」


 確かにこの三日間、何回かそれについてからかわれた。


「あんな気持ちになるんだね……ゾッとした」

「あれは……そうだな、気持ち悪い種類の好かれ方だ」


 前に同性に好かれたときは、真摯に向き合うべき綺麗な恋愛感情のものだった。

 しかし今回のものは、あちら側が下心しかないような感情なので、ただ気色が悪い。


「二人とも……任務に支障がないようにな」


 後ろから護衛役のエリックにそう言われ、気持ちを切り替える私たちだった。



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