第121話 貴族のパーティ
ハルジオン王国に着く前、俺たちはこうしてニーナを協力者として迎えた。
俺たちの極秘任務も話し、エレナさんを探すなら任務をしながらということを伝えた。
「それでもいい。無闇に一人で探すより、探しやすいと思うから」
ニーナはそう言って了承したので、リンドウ帝国の情報を探りながら、エレナさんを探すことになった。
そしてハルジオン王国に到着していろんな情報を集め、有力な情報が手に入った。
「貴族がパーティを開く?」
俺はユリーナさんが言ったのを、繰り返し問いかけた。
四人で宿屋の部屋に集まり、テーブルを囲んで今日得た情報交換をする。
「ああ、どうやらそのようだ」
男装で短かった髪を元に戻し、長くなった髪を束ねながらユリーナさんは答えた。
やはり女性だからか、髪が無造作に散らかっているのが嫌なのだろう。
「三日後、ある貴族の屋敷でパーティが開かれる。そのパーティは結構大きなものらしく、他国の貴族なども来るようだ」
「そんな大きなのがあるんですね」
「ああ、そして他国の貴族の中に、リンドウ帝国もいるようだ」
「っ! それは本当ですか?」
俺たちの本来の任務、それはリンドウ帝国の情報を盗むことだ。
そのパーティにリンドウ帝国の上層部である貴族が来るということは、内部の情報を聞ける可能性がある。
「パーティに毎回招待されている貴族に聞いたから、間違いないだろう」
「そ、そんな貴族と話せたんですか?」
ユリーナさんとニーナが今日行ったところは、貴族街の料理店だ。
俺たちが行った居酒屋のようにお酒を提供しているようだが、店の内装は全然違う。
ユリーナさんから話を聞くと、内装はとても綺麗で客はあまり多くない。
少し暗めの照明で、人の顔は近くで見ないと認識できないぐらい。
二人が座ったのはカウンター席で、その隣にパーティのことを教えてくれた貴族が偶然居合わせたようだ。
「ユリーナが気に入られて、色々と話してたわ。私は隣で見てただけ」
ニーナがそう付け加えてくる。
旅をしている間、ニーナはユリーナさんとティナを呼び捨てにするぐらい仲良くなった。
いや……最初からニーナは呼び捨てだったか?
他の二人もニーナのことを呼び捨てで話している。
というか、俺以外同い年なんだよなぁ……。
女性三人は十八歳で、俺だけ十六歳。
なんか男一人っていうだけでも疎外感を感じるのに、年齢も一人だけ違うとなおさら感じてしまう。
「そうなんですね。じゃあ貴族は、女性だったんですか?」
ユリーナさんは男装をしていたから、気に入られるとしたら女性の人だろう。
結構イケメンだしな。
「いや……男性の貴族だった」
「えっ、じゃあ女性ってバレたんですか?」
「いや、バレてなかった……」
「はっ? じゃあどうして気に入られて……?」
「……察してくれ」
嫌そうな顔をしながらユリーナさんはそう言った。
いや、察してくれって言われても。
本当によくわからないんだけど。
「その貴族の男が、男好きってことよ」
「はっ? あっ……」
ニーナの言葉で、ようやく理解した。
そういうことだったのか。
男装してその姿を男に好かれるのは、確かに良い思いはしないだろう。
「なぜ、私はいつも……貴族の学校に通っていた頃は、女性にしか告白されなかった。別に女性に好かれて悪い気はしなかったが、少し困っていた。そして今回は、男装して……男性に好かれるとは……」
ユリーナさんが落ち込んでしまった。
確かにユリーナさんは女性に好かれそうな、カッコいい女性という感じだ。
しかし今回の男装の件は少し、いや、かなり変わった出来事なので、そんなに気にしないほうがいいと思うが……。
「わ、私はユリーナのこと好きだよ!」
「いや、ティナ、今ここで女のお前がユリーナさんにそれを言っても逆効果な気がするけど」
前に同性に告白されたから、今回の男装でも男に好かれて、「なぜ私は同性に好かれてばっかり……」みたいな感じなんだろう。
「いや、すまない……無意味なことを思い出して気を落としてしまった。もう大丈夫だ、続きを話そう」
「お願いします」
自分で立ち直ってくれたようで、今回得た情報をまた話し始める。
「まずそのパーティ、普通は貴族以外の者は入れない。貴族からの招待状でもない限り」
「ですよね、それだけのパーティだと……」
正面から入れはしないが、どうにか中に入って情報を得たいとは思う。
これだけのチャンスはなかなか無いだろう。
難しいが、ティナとニーナの魔法があれば、どうにか……。
「で、これがその招待状だ」
「はっ!?」
ユリーナさんが懐から出した白い封筒を見て、俺は思わず声を上げてしまった。
「今日会った貴族が、一組の夫婦ぐらいなら招待できるぐらいの大物だったみたいだ」
「そ、そうですか……」
それはすごい運だな……。
貴族の男性がパーティの話をしてくれて、しかもその招待状まで貰って……どれだけ気に入ってもらえれば、それだけのことをしてくれるのだろうか。
ユリーナさんの男装姿が、その貴族には余程好意的だったと思える。
「私とニーナ以外に、護衛として一人連れて行くことも可能のようだ」
「そうですか……」
俺かティナが護衛として正面から中に入ることができる、ということか。
しっかり作戦を考えて、どうするか決めないとだな。
「貴族が集まるパーティ、ということは……!」
ティナが思いついたかのように、ハッとする。
その様子を見て、ユリーナさんが頷く。
「エレナさんを奴隷にしている、もしくはしていた貴族も来るかもしれない」
「うん。エレナを探すためにも、このパーティはしっかり情報を探らないと」
そうだ、俺たちにとっては一石二鳥だ。
リンドウ帝国の情報も、エレナさんの情報も同時に手に入れることができるかもしれない。
「作戦をしっかり立てて、パーティに臨もう」
俺の言葉に、三人一様に頷いた。
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