第120話 確認の連絡
ティナとユリーナの戦いを止めたあと、俺は一人でその場を離れる。
周りに誰もいないことを確認し、懐に入っている魔道具を起動させる。
こんな朝早くすることは今までなかったが、通じるだろうか。
しばらく待っていると、魔道具から反応があった。
『はい、イェレです。緊急事態でしょうか?』
騎士団団長の、イェレさんの声が魔道具から響いてくる。
この魔道具は遠くの人と連絡を取ることができるものだ。
声をしっかりと届けることができて、スパイ活動には必須のものである。
前のクリストの護衛の旅のときも、副団長のリベルトさんが持っていた。
あのときはその魔道具が通じないことで、王都が襲われていることがわかったのだ。
「エリックです。いえ、緊急事態というほどではないですが、少々判断に迷う事態になりまして……」
俺はこの村に着いてからニーナに会い、エレナさんのことを知ったということを簡潔に話す。
「それでエレナさんを探す、という目的が一致したことにより、ニーナが同行したいと言っているのですが……」
『……エリック君、一つ君にお伝えしたいことが』
「はい、なんでしょうか?」
『君たちは極秘任務として旅をしているわけで、ニーナさんを探すのは本来ならこちらにバレないようにする、という前提のもと動いているということを、お忘れですか?』
「あ……」
そ、そうだった……。
イェレさんとリベルトさんにはもう知られているから話してしまったが、本当ならエレナさんを探すということ自体、公私混同だからしてはいけないことだ。
それなのにそのことを相談してしまった。
魔道具から、イェレさんのため息が聞こえてくる。
「あの、すいません……」
『いえ、こちらもわかっているので、任務に支障が出なければいいです。くれぐれも、そのことはお忘れなく』
「はい、わかりました!」
念押しされたところで、イェレさんは俺が伝えたことを考えてくれる。
『ニーナ・グラジオ……あのフェリクス・グラジオの、義理の妹でしたね』
「はい、そうです」
『信頼に足る人物ですか? 同行をするのであればこちらの任務も伝え、手伝って頂かないといけません。実力もしっかりしていないと、任務の足手まといになる可能性が高いですよ』
疑うのは当然のことだろう。
ベゴニア王国を滅ぼそうとしていた、いや、実際に前世では滅ぼした男の、義理の妹なのだ。
だが……。
「俺は信頼できると思います」
ニーナは少し毒を吐くところはあるが、素直で正直者だ。
裏をかくような性格ではない。
まあ……前に一回闇討ちされたが。
それでも、馬鹿正直に寝ているところを攻撃しにきたというのは、裏をかくのが苦手という証拠だ。
なによりエレナさんのために、あれだけ必死に動いている。
地下街にいたときの親友を探すために。
何年も前の友達なのだから、放っておくこともできるのだ。
だけどニーナは、親友のエレナさんを探している。
――俺が、前世での親友のクリストを探していたかのように。
「実力は攻撃能力は低いですが、防御はおそらくビビアナ服団長を上回るかと」
ニーナは守護魔法を使える。
攻撃魔法などは使えないみたいだが、その魔法は難しく普通の魔法使いは下級魔法すら習得できない。
上級まで扱えるニーナは、防御だったらビビアナさんやティナより上だろう。
『そうですか。エリック君は、ニーナ・グラジオを同行してもいいとお考えですか?』
「……はい、任務の効率も上がると思われます」
そうは言っても、イェレさんとしては信じきれないだろう。
とても大事な任務の最中、怪しい同行者を連れていくなんて、許してはくれない――。
『了解しました。ニーナ・グラジオの同行を許します』
「えっ……いいんですか?」
『はい』
案外あっさり許してくれた。
なぜこんな簡単に?
『ニーナ・グラジオのことは、こちらでも元々調べておりました』
「えっ、そうなんですか?」
『はい。ハルジオン王国の地下街出身で、フェリクスの義理の妹。エレナ・ミルウッドと友人、とは知りませんでしたが、だいたいのことは』
まさかニーナのことを調べていたなんて。
だけど前の旅のときにニーナとは知り合ったから、そこから調べることもできるか。
いや、もっと前から本当は知っていたのか?
『なのでエリック君がそこまで大丈夫だというなら、こちらも異論はありません』
「ありがとうございます」
どれだけ知っていたのかわからないが、なんとかニーナの同行を許してもらった。
「こちらからの連絡は以上です」
『そうですか、それでは……』
『あっ? 何してんだ?』
もう連絡を切る、という感じになったのだが、なんだかあっちの様子がおかしい。
イェレさん以外の声が聞こえてきた。
聞き取れないが、あっちでイェレさんがだれかと話している。
そしてまたこっちに声が聞こえたと思ったら、イェレさんではなかった。
『おいおいエリック、ニーナ・グラジオも連れていくのか?』
「えっ……あ、リベルトさん?」
『ああ、そうだ。久しぶりだな』
どうやら副団長のリベルトさんと代わったようだ。
なぜいきなり代わったのか。
『リベルト、勝手に話さないでください』
『いいじゃねえかよ、ちょっとくらい』
……リベルトさんが魔道具を奪って、話しているようだ。
『しかしエリック、ニーナ・グラジオを連れていくのか……』
「は、はい、そうですが……」
リベルトさんは反対なのだろうか?
『なにお前、ハーレムでも狙ってるのか?』
「……はっ?」
なにを言ってるんだ、この人は。
『男一人に女三人の旅だろ? 楽しそうじゃねえか』
「いや、そんなのじゃないですが……」
『程々にしとけよ。浮気なんてしてもいいことねえからな』
「……」
『おっ、なんだよ黙って? まさか本当にしてるんじゃ……』
「ではまた定時連絡のときに」
俺はそう言って魔道具のスイッチを切った。
なんか切る前にリベルトさんが何か言っていたのが聞こえたが、無視した。
……あの人多分、酔ってたな、こんな朝早くから。
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