第119話 苦笑い


「そうか……教えてくれてありがとな」

「ううん、私こそありがとう。エレナのことを教えてくれて」


 俺とニーナはエレナさんについての情報を交換し終え、お互いに礼を言った。


 ここでニーナに会えたのは幸運だったな。

 ハルジオン王国に行くにあたって、どういう感じでエレナさんの情報を聞くのか予定が立てられる。


「ニーナはハルジオン王国のどこを探したんだ?」

「さすがに貴族街は探せないから、裏の情報を探ってたわ」

「裏?」

「エレナが暗殺屋ということは聞いたから、そういった情報を調べようとしたの」

「なるほど」


 良い手だと思う。

 その筋を探っていけば、いずれエレナさんの情報に辿り着くかもしれない。


 だがいくら探しても、出てこない可能性もある。


 暗殺屋を個人的にやっている者なら、裏の情報にそういうのがないと仕事が来ないので絶対に探し出すことはできる。

 しかしエレナさんは貴族の奴隷で、無理に暗殺屋を強いられているのならば、貴族抱えの暗殺屋の名は出てこないかもしれない。


 ただでさえ暗殺屋の情報を見つけ出すのは難しいのに、貴族抱えだったとしたらなおさらだ。


「エリックたちもエレナを探すんでしょ?」

「ああ、任務のついでだが」


 ニーナには極秘任務の内容はさすがに話していない。


「私も一緒に探させて」

「いや、俺たちは任務をしないといけないから……」

「その任務を私も一緒にやってもいいから。エリックたちと一緒に探したほうが早く見つかりそう」

「うーん……」


 確かに一人で探すより、俺たちと一緒に探したほうが効率は良いだろう。

 俺たちにとっても、ハルジオン王国の裏側を知っているニーナが一緒に探してくれるのは助かる。


 だが極秘任務については、俺一人では判断できないな……。


「わかった、確認するからその返事はあとでな」

「うん、お願い」



 そろそろユリーナさんの方がどうなったか確認しようと、二人で外に出る。


「……何であの二人戦ってるんだ?」

「さあ?」


 なぜかユリーナさんとティナが戦っていた。


 ユリーナさんは家から出るときに剣を持って行ったから、外で素振りでもして発散するのかと思ったが、まさかティナも一緒にやっているとは。


 しかも結構本気で戦っている。

 ユリーナさんは鞘から出してないし、ティナも致命傷を与えるほどの魔法を使ってないが、それ以外は本気の戦いだ。


 優勢なのはティナだ。

 ユリーナさんはさっきの話で動揺しているのか、動きが鈍い。

 ああ、二日酔いもあるかもな。


「二人とも強いね」

「ああ、まあそうだな」


 騎士団の中では三番目……いや、団長を入れれば四番目に強いであろうユリーナさん。

 そして魔王騎士団で団長と副団長の次におそらく強い、ティナ。


 世界中と見渡してみても、勝てるのはほんの僅かだろう。


「だけど、エリックの方が強いんでしょ?」

「……どうだろうな」


 ユリーナさんには負けないだろうが、ティナは本当にわからない。


 確かに接近戦になれば、一太刀で倒せる自信はある。

 だが間合いが一歩では詰められず、魔法の発動を許せば……結果はわからない。


「ううん、エリックが一番強いと思う」

「なんでだ?」

「だって、フェリクス兄さんを倒したから」


 そう断言するニーナ。


「一対一だったら多分負けてたぞ。ティナの魔法の援護があったから勝ったんだ」

「そうなんだ。じゃあ、エリックとティナが組んだら最強だね」

「……まあ、否定はしない」



 そんなことを話していたら、二人の戦いも決着が近づいてきた。


 ユリーナさんが一気に接近し剣を振るい、それを避けたティナが体勢を崩して倒れる。

 そこへ剣を大きく振りかぶり……て!?


「――っ!」


 全く止める気がないユリーナさんの攻撃を見て、俺は飛び出す。


 ティナの後ろに立ち、俺の剣で攻撃を受け止める。


 ぐっ、重いっ!

 ユリーナさんの全力で振るった剣を受け止めるにはキツいが、なんとかギリギリ防いだ。


「はぁ、はぁ……わ、私は、今……」

「落ち着きましたか、ユリーナさん」

「あ、ああ、すまないエリック。止められてなければ、私は……」

「冷静になったようで良かったです」


 俺は倒れているティナの手を掴み、立ち上がるのを手伝う。


「ティナ、すまない。危うく怪我をさせてしまうところだった」

「ううん、大丈夫だよ」


 いや、うん、ティナは大丈夫そうだ。


 あのままユリーナさんが攻撃していたら、ティナが本気で攻撃してた。


「……今のは、やばかったわね」


 近づいてきたニーナが、そう呟いたのが聞こえた。


 ユリーナさんは魔力を感じ取れないから気づかないのは仕方ないと思うが、多分ニーナも気づいているだろう。

 倒れていたティナの魔力が、凄まじい勢いで膨れ上がったのが。


 怪我をする可能性が高かったのは、多分ユリーナさんだろう。


「エリックも止めてくれてありがとう!」

「ああ……うん」


 とても良い笑顔でそう言うティナに、俺は苦笑いで返す。


 俺も止められて良かったよ……。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る