第114話 ニーナとの再会


 俺たちがハルジオン王国の王都に到着する前。


 領土に入ってから、だだっ広い草原を馬車で進んでいた。


 入国したからといって、すぐに王都に着くわけではない。

 あと一日ほど馬車を走らせないと王都には辿りつかないのだ。


 だからどこかで野宿する必要があると思っていたのだが……。


「いやー、こんなに早く再会できると思っていませんでした! ささ、もう一杯どうぞ!」

「あ、ありがとうございます……」


 ある村で大歓迎を受けていた。


 ここは前に襲われているところを助けた村だった。

 前とは違うルートで王都に向かっていたのだが、魔族の国の村は結構引越しをする。


 偶然にして、今回もこの村と遭遇したのだ。


 最初は警戒しながら俺らも、村の人も会話を試みたが、村の人たちのほとんどが俺の顔を覚えていて、一瞬にして熱烈の歓迎に変わった。


 そして今は夜になって、宴のようなものを開かれているところだ。

 ユリーナさんとティナも、俺の連れということで一緒に歓迎を受けているが、少し戸惑っている様子だ。


 というか、スパイ任務なのにこんなに早く顔バレしてよかったのだろうか……。


 幸いにして、この人たちは俺の名前は知っているが、俺たちが魔族ではないということに気づいていない。

 人族と魔族は姿格好は似ているからな。

 違うのは感情が高ぶったときに、目の色が変わるか変わらないかぐらいだ。


 そういえば、この村には……。


「あの、ニーナ・グラジオはいないんですか?」


 フェリクスの妹の、ニーナがいたはずだ。

 本来ならニーナがこの村に守護魔法をかけるから、この村の人は安全に暮らせるはず。


 だが今回は俺たちがこの村に接近したとき、とても警戒していた。

 おそらく守護魔法がかかっていたら、そんな警戒しなくてもいいはずだ。


「ああ……あいつなら、またどこか行きましたよ」


 俺のグラスに調子良くお酒を注いでいた村長が、不機嫌さを隠しながら答えてくれる。


「今回はフェリクスじゃなくて、友達を探しに行くって言って」

「友達、ですか?」

「ええ。私たちには誰かわかりませんが……」


 ニーナにも友達がいたのか。

 いや、馬鹿にしてるわけじゃなく、前に話したときはそんな人物はいないみたいなことを言っていた気がする。


 ニーナは王都の地下街出身だ。

 そこで倒れて死にそうになってたときに、フェリクスに助けられ、それからずっとフェリクスについていったと話していた。


 だから友達というのならば、もしかしたら地下街のときの友達なのかもしれないな。

 地下街にいるときは友達がいたと言っていたが、行方不明になる子が多かったらしい。


 その行方不明の人たちを探しているのか?


 ただ行方不明になる子は、大体は人攫いに攫われて奴隷として売られると言っていた。

 その人たちを探すというのは、ちょっと難しいと思うが……。



 その後もちょっとした宴は続いて、ようやく俺たちは解放された。

 俺はそこまで酔わないで終わってよかったけど……。


「エリックゥゥ……天地が、回っているぞぉぉ……!」

「大丈夫ですか、ユリーナさん」


 飲み慣れていないユリーナさんが、完璧に酔っ払ってしまった。


「天変地異だぁ、みんな死んでしまうぅぅ……!」

「あなただけですよ、天変地異が起きてるのは」


 ユリーナさんの目には地面と空が回っているのか。

 千鳥足で転びそうになっているユリーナさんを、俺が肩を回して支える。


 胸の部分が俺の身体に当たっているが、サラシを巻いているのかとても硬い。

 苦しくないのかな。


「ほら、もう寝ますよ」

「私はもっと飲めるぞぉぉ……」

「無理ですよ」

「あはは、ユリーナって貴族だったからあまりお酒を飲んだことないんだろうね」


 ティナはユリーナさんを見て笑っている。

 意外と酒に強いティナは、俺たちの中で一番飲んでいたがまだまだ余裕のようだ。


 前に来たときと同じように、村長は俺たちに家を貸してくれた。

 野宿の道具を持ってきていたが、今日は使わないで良さそうだ。


 そして俺たちは、借りた家で夜を過ごした。


 翌日、俺は朝早くに起きて出発の準備をしていた。

 ティナも起きて手伝ってくれたのだが、ユリーナさんはまだ寝ている。


 お酒に酔って寝たので、まだ起きないだろう。

 そして起きたときは……二日酔いに苦しむことになるだろうなぁ。

 頑張れ、ユリーナさん。


 そう思いながら馬車の準備をしていたら、誰かが近づいてきた。


 顔を上げてそちらを見ると、そこにはニーナがいた。


「エリック……? 来てたの?」

「ああ、ニーナ。昨日ここに来たんだ」


 俺を見て目を丸くしているニーナ。

 ここに俺がいるなんて思わなかっただろう。


「エリック、その人は?」


 ティナが俺にそう問いかけてきた。


 そういえば説明していなかった。

 だがフェリクスの妹だから、少し話しづらい。

 俺たちの村を襲った奴の妹、と紹介するのもなぁ……。


 どう言えばいいか迷っていたら、ニーナが俺の目の前まで近づいてきた。


 そして俺の肩をガッと掴んだ。


「ど、どうしたんだ?」


 ニーナは真剣な顔で下から見上げるように俺と視線を交わす。


「エリック! エレナを、一緒に探して!」

「……はっ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る