第113話 四人?


 酒場を出て、指定していた場所へと向かう。


 そこへ行くと、俺と同じようにマントを着てフードを被っている者がいた。


「エリック、お疲れ様」

「おう、とりあえず戻るか」


 俺と同じように怪しい格好をした者はティナだ。


 スパイ活動ということであまり顔を見られないようにしようと思い、目立つかもしれないがフードを被っていた。


 あのくらいの酒場だったらフードを被っていても大丈夫だが、もう少し中心街に近い店だと本当に怪しくなってしまう。

 だからそこら辺を調べるときはフードは被らずに、口だけを覆うマスクをしている。


 俺たちは周りを少し警戒しながら、泊まっている宿屋に戻る。


 高くもなく、極端に安くもない宿屋。

 旅人がよく泊まっていると、この国に着いたときに街で聞いたのでそこにした。


「あの二人はもう帰ってるかな?」

「どうだろうな、二人が行ったところの方が遠いから、俺らの方が早そうだが」


 そう話しながら、宿屋に帰って来て部屋に入る。

 旅人が多い宿屋のせいか一人部屋が多いが、俺たちは数少ない二人で泊まれる部屋を二つ取っている。


 俺とティナが一緒の部屋で、他の二人が隣の部屋だ。


 部屋に戻り、マントを脱ぐ。


「はぁ、マントの中って蒸れてやだなぁ」

「それは同感だが、任務だからな」

「わかってるけどさ」


 髪の毛を適当に手櫛で整えながら、ティナはため息をつく。

 今日は夜でも蒸し暑かったから、なおさらキツかった。


 他の二人が行ってるところは中心街の方なので、フードを被らないで済むのが少し羨ましい。


「今日は俺の方はそんなに収穫はなかった」


 ハルジオン王国に着いてから三日ほど経った。

 その間に俺たちはいろんなところに行って情報を得ているのだが、今日は新しい情報はなかった。


 強いて言うならこの王都で流行っている見世物などだ。


「私の方もなかったよ。だいたいの客の話を聞いたんだけどね」


 ティナはあの店にいた客の話を魔法で聞き分けて、全部聞いていたのだ。

 あんなに騒がしい酒場では隣の客の声も聞こえないぐらいなのに、魔法だとそれができるのだ。


 酒場にはいろんな人が集まる。

 そして人は、情報だ。


 酒場に集まる人の話で聞くことができる。

 表で働いている人もいれば……裏で動いている人も、酒場にいることがある。


 しかもあれだけうるさい酒場だったら、少し怪しい会話をしても誰も聞いていないと思い込むだろう。

 それを狙って、ティナが魔法で聞こうとしているのだ。


 だがまだあまり有力な情報は得られていない。


 もうこの国にハルジオン王国のレオナルド陛下が訪れるという情報は、すでに流れている。


 だからレオナルド陛下を狙う輩がいるとしたら、もう現れてもおかしくない。


「そうか、じゃああの二人を待つしかないか」

「先にシャワー浴びていい?」

「ああ、いいぞ」


 頭の蒸れ具合に我慢できなかったのか、ティナは部屋にある浴室に行く。


 しばらくするとシャワーの音が聞こえてくる。

 鼻歌も歌っているようだ。


 ユリーナさんともう一人、この国の領土に入ってから加わった協力者。


 四人で宿屋に泊まるとしても、一人が男で三人が女だと少し目立つので、ユリーナさんには男装をしてもらっている。


 ユリーナさんは身長も高く、髪を短く見せて男の服を着れば女性には見えなくなる。

 というか、めっちゃカッコいいのだ。


 男には見えるのだが……胸を押しつぶすのはちょっと大変そうだ。

 そこは我慢してもらうしかないが。


 しばらくすると、隣の部屋のドアが開かれた音が聞こえた。

 どうやら帰ってきたようだ。


 そしてちょうどティナもシャワーから上がってきた。


「はぁー、さっぱりした」

「あの二人も帰ってきたっぽいぞ」


 ティナは髪をタオルで拭きながら出てきて、ベッドに座り込む。


 そして待っていると、俺たちの部屋のドアがノックされた。


「エリック、ティナ、私だ」


 ティナと目線を合わせ、ティナが頷く。


 魔法で声を偽っていないか、ティナが確認したのだ。

 そして偽っていないとわかったので、中に入れるためにドアを開ける。


「お疲れ様です、ユリーナさん」

「ああ、お疲れ」


 ユリーナさんは髪を短くなっている。

 切ったわけじゃなく、俺にはよくわからないが短く見せるようにしているようだ。


 少し長めの髪をした男性、という風にしか見えない。


 そしてユリーナさんの後ろにいる、協力者……。


「お前もお疲れ、ニーナ」

「ん、おつかれ」



 フェリクスの妹、ニーナ・グラジオだ。

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