第110話 スパイ任務


 あの襲撃があってから、二週間ほど経った。


 王都は順調に復興し始め、襲撃を受けた場所を歩いていても瓦礫などは見当たらなくなった。


 壊された建物などはまだ建て直されてはいないが、それもあと一ヶ月もすれば全部直るだろう。


 ここまで早く復興していくなんて思わなかった。


 レオ陛下が街に出て、自ら手伝っているのもすごい。

 兵士の人や街の人は何回も止めているのだけど、それを振り切って力仕事を陛下がやっているのだ。


 そのような姿を見せることで、王都の人々に希望と元気を与えている。

 レオ陛下はいつも通りのことをやっているだけで、狙ってやっていないというのもみんなわかっている。


 だからこそ、人々はレオ陛下を慕うのだろう。


 レオ陛下が街に復興に出ているからか、クリストも何回も復興を手伝いにきていた。


「おお! 息子よ! 今日も来たのか!」

「うるせえよ親父。さっさとその馬鹿力でこの瓦礫どかせよ」

「任せろ!」


 周りの人達が止めようとしても、二人は勝手に手伝ってしまう。


 レオ陛下がそういったことをやるのはいつも通りだとして、クリストもやるとは思わなかった。


 前になぜ王子の仕事を途中でやめてまで、街に来て復興の手伝いをするのか聞いてみた。


「親父は表裏なくああいうのが出来るから、民衆に好かれてる。だからベゴニア王国は反乱もなく、安定している。何年後になるかわからんが、俺も王になるんだ。親父が変わったときに、民衆に『親父の方が良かった』って言われるのは嫌だからな。俺は下心を持って、ああいうのをするんだよ」


 ニヤリと笑いながらそう言ったクリスト。


「……お前はお前なりに、考えてるんだな」

「そりゃ親父みたいに何も考えずに行動しないからな、俺は。あの馬鹿は逆にすげえよ、何も考えずに行動してあれだけ王として慕われてるんだ」


 クリストは口こそ悪いが、親であるレオ陛下の凄さをわかっているようだ。


 多分レオ陛下は、生まれながらに人の上に立つ人物なのだろう。

 自覚はしてないだろうけど、あの人がやっていることは表裏なく、だから好感を持てる。


 自分の行動を周りに示し、人々を引っ張るタイプの支配者なのだろう。

 だから何も考えずに行動しても、それを見た人々がついていきたくなる。


 そういう、天性の才能を持った支配者だ。

 レオ陛下の行動を真似して狙ってやっても、普通の人なら効果を発揮しない。


 それをわかった上で、クリストはレオ陛下に負けない王になろうとしている。

 真似できないから、考えて考えて行動し、さらに上に行けるように。


 だけどクリスト、俺は知ってるよ。


 お前にも、レオ陛下と同じような行動ができることを。


 前世の頃、俺は命を救われたから。

 お前が別に人に好かれようとも考えずにやっていた行動で、俺はお前を尊敬したのだから。


「頑張れよ、次期国王様」

「おう、任せろよ」


 俺とクリストは、拳を合わせた。


 お前が王になったときは、俺が隣で絶対に支えてやるからな。



 そして今日。

 俺はスパイ任務で、王都を出る。


 一緒に行くのはティナと、ユリーナさんの三人で変わりはない。


 クリストの護衛をやったときのように、早朝から準備をしていた。

 寮の前に馬車があり、そこに荷物を運び終える。


「エリック、こっちは終わったよ」

「こちらもだ」

「よし、じゃあ最初は俺が御者やりますね」

「任せた」


 今回の旅では俺とユリーナさんが御者を交代でやっていく。


「ごめんね、私はできなくて」

「いや、大丈夫だ。その代わり魔法は頼りにするからな」

「うん! 任せて!」


 ティナはスパイに必要とする魔法を練習していたので、馬を扱う練習をしていない。

 アンネ団長につきっきりで魔法を教わっていたようだ。


「準備は終わりましたか?」


 俺たちの準備が終えると同時に、イェレさんやリベルトさんが来た。

 その後ろにはアンネ団長もいる。


「はい、終わりました」

「よろしい。最初にどこに行くかなど、わかっていますね?」

「もちろんです」


 どこの国に行って、どういった情報を得てくるかなど、いろいろとすでに教えてもらっている。

 なにせ俺もスパイ任務なんて初めてだ。

 わからないことだらけだとは思うが、しっかりとやらないといけない。


 リンドウ帝国との戦争を有利にするために、俺たちのスパイ任務で得る情報は大事だ。


 そして……スパイ任務をしながら、エレナさんを探さないといけない。

 任務をしっかりこなしながら、探していくのは大変だとは思うが、そのためにこの任務を受けたと行っても過言ではない。


 スパイ活動だから、そのような行為がバレたら殺される可能性もある。

 気を引き締めていかないと。


「しっかり任務を全うしてください」

「はい」

「かしこまりました」

「まあ、適当に頑張れよ」


 リベルトさんは軽く笑いながらそう言った。

 気を引き締めようとしたところで、なんだか気が抜けるな……。


「エリック、油断するなよ」

「っ! はい、わかってます」


 リベルトさんはそれだけ言って、背を向けて手を軽く振りながら戻っていった。


 こちらの話は終わり、ティナの方を見るとアンネ団長と話している。


「アンネさん、ビビアナさんは?」

「あの子ならまだ寝てるわ」

「……さすがですね」


 本当なら副団長のビビアナさんもここに来るはずだったようだが……。

 いつも通りで、逆になんだか安心する。


「頑張りなさい、ティナ・アウリン。油断は禁物よ」

「はい!」


 あちらの話も終わり、俺たちは馬車に乗り込む。


 俺は御者席に、ティナとユリーナさんは車の方へ。


「では、任務へ行ってきます」

「頑張ってきます!」

「最善を尽くします」


 俺たちはイェレさんとアンネ団長にそう言って、出発した。



 リンドウ帝国との戦争のためのスパイ活動が、今始まった。

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