第109話 最強の戦い


 街の復興の手伝いを終え、私は訓練場に来た。


 午前の時間に訓練をしていた人たちと交代の時間なので来たが、少し早かったのかまだ前半組が訓練していた。


 私が担当していた街の区域の復興は他より早く終わったから来たが、早めに訓練しても問題ないだろう。


 そうだ、エリックは前半組だったな。

 久しぶりにエリックと戦いたいな。


 あいつは私よりも強い。

 一人でやるよりも良い練習になるだろう。


 そう思って大きな訓練場でいっぱい人がいる中、一人の人物を探す。

 難しいと思っていたが、簡単に見つかった。


 なぜなら、エリックは人だかりの中心にいたからだ。


 訓練中のはずなのに、誰もがその手を止め、何かを見ている。

 気になってそこに行くと、私の探していたエリックがいた。


 この人だかりは、エリックの戦いを見ようとしているのだ。

 エリックが対峙するのは、リベルト副団長だった。


「すみません、これはいったい?」


 私は周りにいた知り合い、時々エリックに絡んでいる人に話しかける。

 エリックはいつも「おっさん」と呼んでいる。


「ん? ああ、ユリーナさんか。見てわかる通り、エリックと副団長が戦うんだよ」

「この周りの人たちは?」

「気になって観戦するやつらだろ、まあ俺もだが。団長がいたら注意していたんだろうが」


 確かにイェレ団長がいたら注意して、他の人たちは訓練に戻るだろう。

 しかし今は注意する人がいない。


 誰もが気になるのだろう。


 ベゴニア騎士団最強の男、リベルト副団長。

 そして急に現れた新人、急襲で大活躍したエリック・アウリン。


 そんな二人、どちらが強いのか。


 あんまり考えてこなかったが、私も少し気になる。


 訓練をしたいところだが、他の人の戦いを見るのも勉強になるものがあるだろう。

 しっかりと見て、学ばないといけないな。


 そう自分に言い訳をしてから、二人の戦いを観察することにした。


 二人は構え、近くにいる人がコインを弾いた。

 おそらくそのコインが地面に着いた瞬間、戦いが始まるのだろう。


 そして――コインが地面へ落ちた。


 最初に攻撃を仕掛けたのは、副団長だ。

 二人の間にあった距離を一気に詰めて、木刀を振るう。


 騎士団にいる兵士でも反応できないような速度で、その攻撃だけで大半の人はやられるだろう。

 私でもギリギリ避けられるかどうかだ。


 しかしエリックは、特に慌てた様子もなく木剣で受け止めた。

 そして受け止めた木刀を流し、すぐに攻撃に移る。


 首に迫った木剣を、副団長は身体を逸らして避けた。


 身体を逸らして体勢が悪くなる……と思いきや、そのままエリックの横腹に蹴りを放った。

 ギリギリ腕で防いだエリックだが、一度距離を取った。


 その攻防を見て、周りにいる人が一瞬ざわめく。


「すげえな、おい……」


 隣で見ているおっさんが、そう呟いたのが聞こえた。


 今の攻防だけでも、周りの人とはかけ離れた技術と力があった。


 副団長の最初の攻撃を防ぎながら、攻撃に移ったエリック。

 あんな技、どうやったら身につくのかわからない。


 そしてそれを避けて攻撃をした副団長も、身体の使い方がとても上手い。

 剣と刀の戦いだからそこだけに注目しそうだが、なんでもありの戦いなのだ。

 蹴りを入れる副団長も、それを防ぐエリックもそれがわかっている。


 私はそういう柔軟な戦い方ができない。

 そのような戦い方を、あの二人の戦いから学ばないといけない。


「やるな、エリック」

「リベルトさんこそ、まさかあの体勢から攻撃できるなんて思いませんでしたよ」

「思ってなかった攻撃なのに、防げたってか?」

「思ったより、遅かったので」

「言ってくれるな」


 そんな会話を互いに少し笑みを浮かべながらしている。

 しかし全く気は抜いておらず、相手が攻撃してきてもすぐに対応できるようにしているのがわかる。


 おそらく力は互角。

 技術は少しエリックの方が上。なぜ年下のエリックの方が技術が優れているのかはわからないが、そこは才能なのだろう。

 だが身体の扱い方は、副団長の方が上手い。


 もともと酔剣なんていう、意味のわからない戦い方ができる人だ。

 避け方や攻撃の仕方の引き出しが多すぎて、それに対応できる人は少ない。


 エリックの技術を持ってしてなお、攻撃は当たらず、どう動くのかを予測できないのだろう。


 どっちが勝つのか、全く予想がつかない。


「そろそろ午前組の奴らは交代しないといけないからな、早く決着つけようぜ」

「了解です」


 そしてまた、副団長の方から攻め始めた。



 この訓練場の戦いはその後、騎士団の中で長く語り継がれた。

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