第102話 退団?


 俺は、イェレさんに呼ばれた。


 イェレさんの執務室に行くと、イェレさんとリベルトさんがいた。


「よう、一週間ぶりぐらいか」

「リベルトさん。お久しぶりです。無事に帰ってこれたのですね」

「ああ、まあな」


 俺とビビアナさんが急襲のために、魔道具を使って先に王都に戻った。


 あそこからリベルトさんとクリストが、二人ですぐに王都に戻ってきたのだろう。

 王都が襲われていると知ってしまったら、他の国を見て回っている場合ではないからな。


 俺たちが帰って二人だけになってしまったから、少し心配だったが無事に帰ってこれたようで良かった。


 だが……。


 俺はリベルトさんに頭を下げる。


「すいません。俺は戻ってすぐに、戦線から離脱してしまいました」


 クリスト、それにリベルトさんが俺が戻るのが判断してくれたのに。


 それを俺が、俺自身が裏切ってしまった。


「別に謝ることじゃねえだろ。お前でダメなら、俺が戻ってもダメだったと思うぜ」

「……いえ、違います」


 そうじゃない。

 そうじゃないんだ。


 俺は、私的な目的で戦線を離れてしまった。


 ティナを助けるために、俺の感情で動いてしまった。


 本来なら兵士の誰か一人が倒れたぐらいなら、俺は戦い続けた。


 だけど……ティナは、違うんだ。


 前世で失い、今世で救うことができたティナ。

 血は繋がっていないが、家族同然のティナが倒れたことによって、俺は動揺してしまった。


 俺が本来すべきことを全て放り投げて、ティナの救出に向かった。


 それだけなら、ティナを助けてすぐに戦線に戻ることはできた。

 だが、この後が問題だ。


 俺は、エレナさんにやられてしまった。


 やられた理由は、エレナさんが言っていた通りだ。


『だけど、君が戻ってきてくれて助かったよ。リベルト副団長だったら、難しかった』

『エリックは優しいから、僕と戦うときに動揺すると思ったんだ。だからこんな簡単に倒せたよ』


 俺が、弱いから。

 敵だとわかったエレナさんに対して、味方だったときのことを思って油断してしまったから。


 リベルトさんだったら、絶対にそんなことはなかっただろう。


 だから、戻ったのがリベルトさんだったら、最後まで戦い続けられただろう。


 俺が戻ったのは、間違いだった。


「俺は、油断しました。リベルトさんだったらしない失態をして、戦線離脱してしまいました」

「……そうか。ま、次頑張りな」


 いまだに頭を下げていた俺の肩をポンっと叩くリベルトさん。


「それより、話は聞いてるぜエリック。騎士団を退団したいみてえだな」

「……はい」


 俺は頭を上げて、目の前にいる二人を見る。


 リベルトさんは隣にいて、イェレさんは机の奥で姿勢正しく座っている。

 二人とも真意を探ろうとしているのか、真っ直ぐと俺の目を見ている。


「……結論から言いますと、退団を許可するわけにはいきません」


 イェレさんがそう話を切り出す。


「今、王都の騎士は人手不足です。他の街から騎士を呼んでおりますが、まだ時間がかかるでしょう」

「そんな中で、エリックみたいな優秀な人材を手放したくないってことだな」

「正直に言いますと、そうなりますね。しかし……」


 イェレさんは俺の目を見て、ため息をつく。


「決意は固いようで」

「……はい、すいません」


 許可されなかったとしても、勝手に出て行く。

 今までお世話になったということで、一言言わないといけないと思ったから伝えた。


「ユリーナ・カシュパルさんも、同様に退団したいと言っていましたが……貴方達は、どんな理由で退団するのですか?」

「それは……」


 言っていいのかと一瞬迷うが、事実を言うことにする。


 エレナさんが裏切り者で、情報を流したということ。

 そしてエレナさんを探すために、旅に出るということを。


「なるほど……それは、エレナ・ミルウッド本人が言っていたことなのですか?」

「はい、そうです」

「そうですか……情報を流した者がいると、こちらでも候補を挙げていましたが、彼でしたか」

「俺は誰だか知らんが、そいつが情報を流したのか」


 どうやらイェレさんも、情報を流した人物がいるってのを予測していたようだ。


「エレナ・ミルウッドを探すために、退団すると?」

「はい、そうです」

「じゃあお前、別に退団しなくてもよくねえか?」

「確かにそうですね」

「えっ……?」


 退団しなくてもいい?

 一体どういうことだ?


「陛下と今後のことを話していますが、私たちベゴニア王国はリンドウ帝国に宣戦布告するつもりです」

「っ! つまり……」

「はい、リンドウ帝国と、真っ向から戦争をします」


 やはり、そうなるか。


 あれだけのことをされて、こちらの国から何もしないということはないとは思っていたが。


「そして戦争は、情報が大事です。今回のように」

「……はい」


 ベゴニア王国とリンドウ帝国。

 真っ向から総力戦をすれば、勝つのはベゴニア王国だろう。


 だが今回のように、何も準備をしていないところに突っ込めば、リンドウ帝国が勝つ可能性がある。


 相手の情報を手にし、こちらの情報を渡さない、むしろ嘘の情報を流す。

 それが戦争では大事になってくる。


「そこで、私たちも情報を掴むために、リンドウ帝国にスパイを送らなければいきません」

「っ! つまり、魔族の国にスパイを?」

「はい、そしてそのスパイに――」


「君と、ユリーナさんを任命しようと思います」

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