第101話 急襲のその後


 あの急襲から、一週間経った。


 王都ベゴニアは、街の復興に力を入れていた。


 破壊された街、家や店など立て直し、一日でも早く前の暮らしを取り戻せるように、街の人が全力で働いている。


 騎士団もそれに力を入れて、街をものすごい早さで直していく。

 俺のような魔法を使えない人も、力仕事として役に立つが、やはり魔法を使える者の方が役に立つところが多かった。


 特にビビアナさんは、もうどこに行っても活躍していた。


 瓦礫を持ち上げるのも、風魔法などで簡単に持ち上げる。

 普通なら大人が五人以上必要な大きなものでも、簡単に魔法で上げてしまう。


「ほいほーい、みんな頑張ろうー」


 そう行って街のあちこちに文字通り飛んで行って、笑顔で手伝う姿に人々は励まされた。


「ああ、天使だビビアナ様……」

「俺、魔法騎士団に入ろう、魔法できないけど」


 こんな呟きが、手伝っているときに何回も聞こえてきた。


 急襲があって一週間と、短い時間しか経っていないが、街の修復は八割ほど終わっていた。

 ビビアナさんや、あとは魔法騎士団のアンネ団長、ほかにも魔法騎士団の優秀な人たちが活躍したお陰だ。


 ティナも優秀で、容姿も結構可愛いので街で人気者になっていた。


 もちろん俺やユリーナさんもめちゃくちゃ手伝った。

 起きてすぐのときはちょっと調子が出なかったが、一週間も経てばもう身体はほとんど完全に治っている。



 街のほとんどは直したが……人の傷、心は、まだ治らない。


 今回の襲撃で、死者が一万人以上、行方不明者は三千人。


 あれだけの戦いがあって、五十万以上いるこの王都でそれだけしか被害が出なかったのは、凄まじいと思う。


 騎士団の人達が住民避難や、相手を食い止めたお陰だろう。

 あとは相手が街の正門からしか攻めてこなかったので、一部の地域しか被害を喰らわなかったというのもある。


 しかし……被害者が、一万人以上いるのは、覆せない事実だ。


 騎士団の中でも何百人と被害が出ている。


 街の瓦礫などを片付けている作業中、何回もその下から人が出てきたのを見た。

 死んでいる人がほとんどで、生きてた人は一割にも満たない。


 その動かない身体に……縋りついて泣いている人を見た。



 これは全て……あの戦いが、起こったからだ。



 つまり、エレナさんが情報を流したせいとも言える。



 エレナさんを擁護するわけではないが、おそらくこの戦いは避けられないものだっただろう。

 リンドウ帝国が王都ベゴニアに急襲を仕掛けるのは、決まっていたことだ。


 ベゴニア王国を落とせば、他の国を落とすよりも利益が高い。

 人族の国でも強いとされる国で、資源も豊富。

 強い国を倒せば、他国に強いと示すことにもなる。

 前世でのフェリクスも、だからここを狙ったのだろう。


 エレナさんの情報が流れてからすぐに行動ができたということは、もうリンドウ帝国がその準備をしてあったからだろう。


 だが、副団長のビビアナさんとリベルトさんがいたら、もっと被害を抑えられただろう。

 だから被害がここまで出たのは、確実にエレナさんのせいだ。


 ユリーナさんと復興の作業しているときに、多分同じことを考えていたのだろう。

 静かに顔を歪めて、死んだ人に泣きついている人を見ていた。


「これが、エレナさんの罪状なんだな」

「……そうですね」


 死者が一万人以上。

 ビビアナさんやリベルトさんがいないという情報を流さなかったら、もしかしたらこの五割ぐらいを救えたかもしれない。


「あのエレナさんが、やったとは考えたくない。だが、受け入れなければいけないな」


 自分の尊敬する人物がやったことを信じたくないユリーナさんだが、目の前の光景をただただ見つめる。


「私は信じている。エレナさんが、本当は望まずにこれらをやったことを」

「……」

「だが、私が信じているエレナさんが本当は嘘で、この罪状を何も感じないような人だったら――」


 決意し、覚悟を決めた目で、ユリーナさんは言い切った。


「――私が、エレナさんを殺す」


 真剣な眼差しでそう言ったエレナさんだったが、ふっと苦笑いを浮かべる。


「自分でも思うが、支離滅裂だな。信じると言ったり、殺すと言ったり」


 確かにそうかもしれない。

 だが、それでもユリーナさんの中では、その決意は固いのだろう。


 あの戦いを通して強くなったユリーナさん。


「エレナさんを信じるために、馬鹿になると決めた。だがそれが本当にただの馬鹿だったら……馬鹿なりの、責任は取らないといけない」


 ユリーナさんはそう言って、家族を失って泣いている人を見続けた。


 それが、自分の罪であるかのように、涙を堪えて。

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