第89話 裏門の爆発
何が、起こったんだ。
さっきまでベゴニア王国の兵士の方が優勢で、敵はもう撤退の一歩手前ぐらいだったはずなのに。
今の爆発は、なんだ。
俺が前線で敵を倒していたら、後ろで大きな爆発が起こった。
いきなりの爆発と爆風に驚愕しながらも後ろを向いて、目に入った光景は――氷の壁が崩れ落ちるところだった。
ティナの魔法で作り上げた氷の壁。
あれのお陰で俺は安心して一人で立ち回れたし、こちら側が有利になった。
なぜ、あんな大きな爆発が起こって、氷の壁が崩れ落ちたんだ?
いや、待て。
さっきまであそこには氷の壁を背にして魔法を撃っている兵士達がいたはずだ。
その中には、ティナも――。
「い、今がチャンスだ!! 王宮に攻め込めぇ!!」
敵の兵士の誰かがそう叫んだのが聞こえた。
その声と共に、敵の奴らは雄叫びを上げて王宮の方へ攻め込んでいく。
俺を無視して王宮に行こうとする敵を斬りながら、氷の壁があったところまで向かう。
今さっきまで魔法を撃っていた人達が、ほとんどいない。
俺と同じ服を着た兵士が、氷の破片と共に地面に倒れ伏している。
その様を見て、俺は嫌な予感がした。
ティナ、ティナは……! ティナはどこだ……!?
倒れ伏している兵士たちの顔を見ていく。
ただ気絶している人もいれば、氷の壁の破片が首とかに刺さって即死している者もいる。
どこだ、ティナ……!
「ティナ! ティナぁ!!」
そう叫びながら目の前にいる敵を斬る。
さっきまでは的確に相手の首などを斬って確実に殺していたが、今はそれができないほど焦っている。
「邪魔だぁ!」
技術などなく、ただただ剣を振り回して相手を斬りつける。
そうしながら周りを見渡す。
っ! 見つけた。
俺の方から顔は見えないが、後ろ姿でわかる。
ティナは他の兵士と同じように倒れ伏している。
「ティナぁ! そこを退けぇ!」
俺は目の前にいる敵を斬りながらそこへ向かう。
そして辿り着き、ティナを抱き上げる。
「ティナ! 大丈夫か!?」
顔を見ると、目を瞑っている。
頭から血を少し流しているが、そこまで多くは流していない。
ティナの口に手を当ててみると、息はしている。
どうやら気絶しているだけのようだ。
よかった、生きている……!
俺はティナが生きていることに安心して、ようやく冷静になる。
後ろから斬りかかってきた敵を、振り向かずに剣で受け流す。
「なっ!?」
後ろを向いた状態で対処されるとは思わなかったのか、敵は驚きの声を上げていた。
俺は振り向きざまに敵の喉を斬る。
敵は声も出せずにそのまま倒れた。
今はここで敵を倒している場合じゃない。
ティナを安全な場所に運ばないと。
ティナの腕を首に回して、持ち上げる。
そして気配を殺す。
さすがにティナを背負っているわけだから、全くバレないとまではいかないが、やらないよりはマシだろう。
味方や敵が戦っている中、道の端の方までいく。
何人か俺に気づいて斬りかかってきたが、剣で受け流して相手の足を斬る。
殺すには体勢が悪いので、足を斬っておけばもう襲いかかってはこれない。
そして道の端まで着き、まだ無事な家の中に入ってティナを寝転がさせる。
ここにいれば、この家が崩れない限り大丈夫だ。
だが、安心はできない。
さっきのような爆発が起こったら、どうなるかわからない。
しかし、あの爆発はなんだったんだ?
さっきの敵の声や行動を見た感じ、今の爆発はあちら側が意図してやったものではないみたいだ。
しかし、確実に敵が有利になるような爆発だった。
あんな爆発が偶然起こるわけがない。
そんなことを考えていると、背中に寒気が走る。
――っ! 誰か、いる!?
「誰だ!? 出てこい!」
この家の前に誰かがいる。
気配を殺すのが上手くて、いつからいたのかわからない。
しかし、確かにそこにいる。
「……出てこないなら、こっちから行くぞ」
剣を構えながら慎重に家の出口に近づいていく。
「――よく気づいたね。そんな簡単に見破られたら、暗殺屋の名が折れちゃうよ」
出口の方から声が聞こえた。
やはり誰かがいたようだ。
しかし――その声に、俺は目を見開いた。
なんで、なんでだ……!?
――疑わなかったと言えば嘘になる。
なぜなら、この襲撃は副団長のリベルトさんとビビアナさんがいないときに狙ってされたからだ。
この情報を相手が知っているということは――誰かがバラしたということだ。
そしてさっきの爆発。
あれはおそらく、王宮側から氷の壁が爆発された。
氷の破片が王宮側には少なく、戦っていた方には飛び散っていたのがその証拠だ。
だから、ベゴニア王国の兵士の誰かが爆発を起こした可能性が高かった。
先ほど声を出した人物が、俺から見えるように姿を現した。
声でわかってしまった。
姿を見て、自分の心が違うと否定したかったのに、肯定されてしまった。
だが、理由がわからない。
「なんで、あなたが裏切ったんだ――エレナさん!!」
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