第88話 正門の戦い


「魔法準備! 放て!」


 私――アンネ・ベンディクスは杖を構えている兵士達にそう叫んで命令する。


 その声と共に、いくつもの魔法が敵に向かって飛んでいく。

 味方に当たらないよう計算された魔法が、敵を斬り刻み、爆散させていく。


 しかし、魔法の数が足らない。


「『光槍サンスピアー』!」


 私も魔法を放つ。

 頭上に三本の光の槍が出てきて、それを敵に飛ばす。


 敵の身体を貫き、さらに光の槍を操ってその場にいる奴らの首を飛ばす。


 三本の槍を飛ばすのは魔法騎士団の者ならできるかもしれないが、飛ばした後に操るのは難しい。

 これはビビアナすらできない。

 いや、「難しいからやらなーい」と言っていたから、やればできるのかもしれない。


 だけどこれが、私の武器。

 魔法を制御し、支配する。

 とても繊細な魔力操作と膨大な集中力を使うが、これで私は魔法騎士団団長まできたのだ。


 魔法操作力なら、誰にも負けない自信がある。

 ビビアナにだって。

 あの、ティナ・アウリンにだって。


 だが、このままじゃ正門は突破されてしまう。


 目の前には敵の兵士が何千人といて、その中に魔物も何千体といる。

 こちらも数では負けていなかった。


 しかし、先程……正門前で大爆発があった。


 いきなりだった。

 何の前触れも無く、戦場のど真ん中で大きな爆発が起こった。


 それに不幸なことに、こちら側の兵士の方が被害を負ってしまい、一気に敵が有利になってしまった。


 私たち魔法騎士団は後方に構え、前方で戦っている騎士団の援護射撃をしている。

 先程よりも、その距離はだんだんと近くなっている。


 まだ正門は破られていないが、もう時間の問題だ。


 だが、ベゴニア王国、魔法騎士団団長として諦めるわけにはいかない。

 たとえ他の全員が諦め、倒れたとしても。

 私だけは立ち上がり、敵を殺し尽くさないといけない。


 それが、魔法騎士団団長の責務なのだから。



「お待たせしましたー」



 いきなり私の隣から声が聞こえた。

 上から降ってきた声に、私は思わず口角が緩んでしまう。


「本当よ、ビビアナ。遅刻だわ」

「これでも急いだんですよー」


 ビビアナは空から降りてきて、軽やかに着地した。

 これから散歩に行くのではないかと疑うほど、軽いノリでここまで来たみたいだ。


「あなたの力が必要だわ」

「はーい。じゃあいきますねー」


 右手の手のひらを、敵に向ける。

 そして空気が変わり、魔力が一気に膨れ上がる。


「騎士団! 退がりなさい!」


 私は魔法で声を大きくし、そう命令する。

 命懸けで戦っている中でも通った私の声に反応して、味方の兵士達は後ろに退がるか、左右に寄る。


 私たちはわかっているのだ。

 ビビアナの魔法の威力を。


 そして――。


「いっくよー、『光熱線ヘブンズレイ』」


 気の抜けた声で放たれた魔法。


 敵がいない真ん中めがけて放たれた、光線。

 とても大きく、先頭に立っていた敵を六人、三匹の魔物が光の中に消える。

 そしてその後ろにずっと続く光線。


「ギャァぁ――」


 光線の中に入った敵の声が一瞬聞こえるが、すぐに途切れる。

 その光の中に入ったら最期――。


 光が無くなり、通った道を見てみると、そこには何もなかった。

 敵の兵士や魔物が何百とその中に入ったはずなのに。


「ぐあぁぁぁ!! 腕がぁぁぁ!?」


 敵の一人が、そう叫んでいるのが聞こえる。

 見ると、そいつの左腕が無くなっていた。

 そいつがいる位置からして、光線に左腕だけが入ってしまったのだろう。


 ――消滅したのだ。


 あまりにも強力。

 あまりにも無残。


 その攻撃は、骨すら残らない。

 一瞬で、全てが消し飛ぶ。


「誰も巻き込まれてないよねー?」


 そんな攻撃をした張本人は、味方が入っていないか心配しているようだ。


「いやー、危なかったよー。もう少しで味方に当たっちゃうところだったー」

「だから途中で魔法を止めたのね」


 今の魔法は敵の一番後ろまで届いていない。

 ビビアナの魔力量なら余裕で届かせられるはずなのに。

 おそらく、途中で味方に当たりそうにあったから止めたのだろう。


「今ので二百人ぐらいは逝ったかなー?」

「そうね、そのくらいだと思うわ」


 そう言いながらビビアナは次の魔法を撃つために魔力を溜め始める。

 そのスピードや量は、今魔法を放ったばかりだとは思えない。


 やはり、強い。

 私よりも断然に。


 一つの魔法で私は十数人。

 だけどビビアナは、一つの魔法で数百人を殺せるのだ。


 これだけの力があれば、と何度思っただろう。

 だけど、無い物ねだりしても仕方ない。


 私にしかできないことを、極めていけばいい。


「なんだ今のは!?」

「まさか、『悪魔の魔女』がきたのか!?」

「あいつはいないって話だったろ!?」


 敵側からそんな声が聞こえる。


「もー、そんな可愛くない名前つけないでほしいなー」


 ビビアナは不満を口にして顔を顰めている。


 そんな異名がついているのは私も知っていたが、やはりダサい。

 魔女って元々、『悪魔のような女』という意味もあるから、『悪魔の魔女』だと意味が被ってるのもさらにダサい。


 ただ、今の敵の言葉……。


 やはり、私が考えている通りかもしれない。


 そんなことを思っていると――。


 ――またもや、大きな爆音が聞こえてきた。


 その爆音は私の後ろから聞こえてきて、地面が揺れる。


 やっぱりこの爆発も誰かが狙ってやってること……!


 今この王宮まで敵が進んでる理由は、中心街の防衛戦が破られたから。

 そしてその破られた最大の要因が、謎の大きな爆発。


 今の爆発は、方角や空気の揺れから考えると。


 私は後ろを振り向く。

 後ろには王宮があり、さっきの爆発が起こったであろう場所は見えない。


「裏門で、爆発が起こった……!」

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