第57話 ギルド
ああ、もう恥ずい……。
イェレさんやレオ陛下がいる中で、みっともなく泣いてしまった。
もう涙腺が本当に緩い、もう俺も歳か。
「なあエリック、なんでさっきは泣いたんだ?」
「うるせえ、聞くな」
クリストが何も躊躇なく、というか楽しそうに笑って聞いてくる。
こいつ、こういうところは性格悪いんだよな。
前世だとニヤニヤしている顔がキモかったんだが、今だとただの爽やかな青年って感じでイラつく。
「じゃあエリック、バカ息子と行ってくれるか?」
「あ、はい。もちろんです」
「誰がバカ息子だ、バカ親父」
そういえば護衛の話で来ていたんだな、忘れてた。
「とりあえず冒険者ギルドに行ってから……」
「わかってるよ、何回行ってると思ってんだ」
レオ陛下の説明を遮って、クリストはこの部屋から出ようとしていた。
「むっ、そうか。じゃあ行ってこい」
「はいはい、いってくるよバカ親父」
「王子、お気をつけて。エリック君、大変だと思いますが頑張ってください」
「あ、はい」
俺はクリストの後ろについていく。
部屋から出たところにメイドの人がいた。
「どうかご無事で帰って来てください、クリストファー様」
「……ああ、わかってるよ」
ん? 今の、まさか……。
俺とクリストは王宮に裏の少し小さな扉から出て、馬車に乗って王宮から離れる。
どうやらこれで冒険者ギルドというところの近くに行くらしい。
そこまでこの馬車で行ったら、すぐに偉い人が来たとバレてしまう。だからクリストもバレないようにフードがあるマントを着ているのだ。
「久しぶりに外に出るな。三ヶ月ぶりぐらいか?」
前回はリベルト副団長と一緒に外へ出かけたらしいが、その時にクリストがボコボコにされたらしい。
というか、ちょっと少し気になったことが……。
「なあ、クリスト」
「ん、なんだ?」
「メイドさんのこと好きなのか?」
「は、はぁ!? いきなり何言ってんだ!?」
馬車の外を肘をついて眺めていたが、顔を真っ赤にして俺の方を向いた。
「わかったわかった、もうその反応で十分だ」
「ちょっと待て。なんでお前、その……わかったんだ?」
お、結構あっさり認めた。
「さっきのメイドさんがお前にクリストファーって言ったとき、反応が少しおかしかった気がしたからな。まさか本当にそうだとは思わなかったが」
「くそ、カマかけかよ! てかそれだけでわかるか!?」
まあ俺はお前と前世で親友だったからな、変な反応をすればすぐにわかる。
クリストファーってメイドの人が呼んだとき、少しこいつが顔をしかめた気がしたからな。
「もしかして、二人きりの時はクリストって呼ばせてたりする?」
「そこまでわかるのか!?」
「え、まじで? 本当に?」
「またカマかけかよ! 引っかかった!」
まじか……こいつ、恋愛なんてしてたのか。
前世の時はそんな素ぶり全くなかったから、あまりそういうのに興味ないのかと思っていたが。
俺もあまり人のこと言えないけどな、イレーネと会ってなかったら恋愛なんてしてなかったし。
「絶対に言うなよ! 誰にも! 絶対だぞ!」
「フリ?」
「ちげえよ! 言ったら許さねえからな!」
顔を真っ赤に染めてそう言ってくるクリスト。
こいつもこんな反応するんだな、前世では知らなかったことだ。
「わかってるよ」
「ったく……ていうかエリック、順応早くないか? 俺一応王族だぞ?」
「自分で言うのかよ、しかも一応って……」
「いや、友達になろうって言ったのは俺だが、まさかこんなに早く打ち解けられるとは思ってなかったからな」
前世の時のノリで喋ってしまっていたが、ちょっとまずかったか?
「申し訳ありませんクリストファー様」
「今更やめろよ」
「どっちだよ」
「別に嫌って言ってねえだろ。逆に嬉しいんだよ、王族だから多少は壁を作られると思っていたからな」
そう言って本当に嬉しそうに笑うクリスト。
王族だからこその不自由なところだな、そこは。
だけど俺は前世では王族ってことを知らなかったからな。
だが……嬉しさで言ったら、多分俺の方が上だぞ。
前世でお前を失った時から、ずっとお前に会いたかったんだ。
こういう何気ない会話をしたくてしたくてたまらなかった。
「お前とは良い友達になれそうだ、エリック」
「……ああ、俺もなれると思うよ」
俺は友達じゃなくて、親友になろうと思ってるよ、クリスト。
そうして冒険者ギルドの近くまで着くと、馬車から降りて歩いて向かう。
数分歩くと、すぐにその建物が見えてくる。
やはり王都ということもあって、とても大きい建物だった。
冒険者ギルドとは、『冒険者』という職業の人が色々な仕事を受けられるところだ。
魔物の討伐から、街のお掃除まで、仕事は様々。
泥臭いイメージがあってあんまり好んでこの職業に就く人がいないが、やはりこの職業がないと困るものらしい。
街の外の魔物などは多くなってきた時は騎士団も魔物狩りをするらしいが、大体冒険者が狩っている。
冒険者は依頼やその魔物の素材でお金が貰えるし、騎士団側からすると自分達があんまり手を回さなくても魔物を狩ってくれるので、良い関係を築いているようだ。
ギルドに入るとまず目に入るのは色々な冒険者の人達。
男の人が多いが、時々女の人もいる。屈強な人ばかりだ。
大体の人が壁に貼ってある依頼の紙を眺めている。
その中で自分がやりたいものを見つけて、紙を剥がしてカウンターに行き依頼を受ける。
普通はそういう流れで受けていく。
俺達はカウンターのところに行き、受付嬢にクリストが話しかける。
「なあ、お嬢さん」
「はい、どういったご用件で?」
「『蛇の依頼を持ってきてくれ』」
「っ! はい、わかりました。少々お待ちください」
クリストがそう言うと受付嬢は少し固まるが、すぐに動いて奥の部屋に入っていく。
さっきの言葉がちょっとした秘密の合図みたいになっていて、あれを言うと王子が来たのでギルドマスターを呼べっていうことらしい。
しばらくすると奥から急ぎ気味に男の人が来た。おそらくこの人がここで一番偉い人なんだろう。
「お待たせしました」
「いや、大丈夫だ。早速依頼を見繕ってくれ」
「かしこまりました。本日はどのようなもので?」
「うーん、そうだな。エリックがいるから、今日は少し強い魔物でいいかな」
俺の方を見てニヤリと笑ってそう言った。
俺がリベルト副団長に勝ったのを聞いたので、その実力が見たいのだろう。
「ではこちらでどうでしょう?」
「んー、まあこのくらいか。じゃあこれで頼む」
「かしこまりました。すぐに準備いたします」
慌ただしくカウンター内を行ったり来たりして、すぐに準備をするギルドマスター。
なんか、偉い人だからもう少し威厳がある人かと思ったが、こう見ると普通に働いている人だな。
「お待たせしました。魔物の素材をこちらまでお持ち頂いて、依頼達成となります」
「わかった、ありがとな」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
クリストは依頼の紙を貰ってカウンターから離れて出口に向かう。俺も後をついていく。
「何を受けたんだ?」
ギルドから出て依頼の場所へと向かう途中、話しかける。
「普通の魔物の討伐依頼だ。まあ少し手のかかるような魔物だが」
「そうか、わかった」
「しっかりと頼むぜ、護衛さん」
後ろにいる俺に振り返ってニヤリと笑いかけてくる。
そうだな、今日の俺はお前の護衛だ。
前世では護れなかった。俺の力がなくて、判断を間違えたばかりに。
だからこそ、今度は――。
「ああ、しっかり護ってやるよ」
――絶対に失わないぞ、クリスト。何が何でも、お前を護ってやる。
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