第52話 同居人
夕食を食べ終わり部屋に戻ると、まだユリーナさんは帰ってきてなかった。
トイレに連行すると言っていたが……結構時間が経っていると思うが。
ティナとユリーナさんは夕飯を食べ終わってなかったが、俺が一人で食べてる途中に食堂のおばさんが二人の分を持っていってしまった。
まあ持ってかれても仕方ないと思ったから俺は止めなかった。
俺は部屋を替えるために荷物をまとめ始める。
まとめている途中、またユリーナさんの下着が目に入ってしまったが……理性を保ちなんとか我慢した、色々と。
赤色の布の誘惑を振り払いながら荷物をまとめ、部屋を出る。
ユリーナさんとは一夜しか共にしなかったが、昨日はとても濃厚な一日だった。
……なんか変な言い回しをしてしまったが、口に出してないから大丈夫か。
部屋を出てドアのところでなんとなく一礼する。
ユリーナさんとは部屋は違くなるが、これからも仲良くしていきたい。
イェレさんから渡された紙を見ながら廊下を歩く。
こっちの廊下を行って、ここを曲がって、ここか?
部屋のドアの前に立って案内の紙を確認する。
うん、ここだな。
夕飯の時間は終わっているから、多分一緒になる人はもうすでに部屋にいるだろう。
だからドアをノックして挨拶をする。
「すいません、今日から同室になるエリック・アウリンです」
夜なのであまり大きな声は出せないが、部屋の中には届くように気持ち大きめに。
すると声が届いたのか、すぐに中から足音が聞こえる。
『あ、エリック君? 今開けるね』
……ん? 中から声が聞こえたが、結構男の人にしては高い声だな。
そう思っていたらドアが内側に引かれて、同居人の顔が見えた。
「団長から話は聞いてるよ。今日からよろしくね」
「あ、はい、よろしくおねが……いします」
途中で言葉が詰まってしまったが、なんとか繋げる。
あれ……イェレさん、食堂で今度の同居人は男の人って言ってたよな?
どう見ても女の子にしか見えないのだが?
金色の短髪で耳がギリギリ隠れるくらいの長さだ。
身長も俺より頭一つ分低く、もしかしたらユリーナさんより小さいかもしれない。
鼻筋が通っていて、とても綺麗な顔立ちで女性のような印象を受ける。
部屋から出てきて俺を見上げながら、可愛らしい笑顔で迎えてくれた。
「固まってどうしたの? 荷物重いでしょ? ほら、入って」
「あ、はい、いや、その……すいません、一つ質問いいですか?」
「ん? 何かな?」
こてん、と音が聞こえるように首を傾けた。
あまりその様が似合う人もいないと思うが……とても可愛らしい。
「あの、女性……ですよね?」
「違うよ? 僕、男だよ」
「ですよね、女性……えっ? 違う?」
「うん、違う」
えっ、違うの? 女性じゃないってことは……男性ってことだよな?
「す、すいません! 失礼なこと聞いてしまって!」
「ううん、大丈夫だよー、慣れてるから」
手を顔の前で振って、笑いながら許してくれた。
まさかこの容姿で男性とは……男と女の違いがよくわからなくなってくるな。
「あ、名前言ってなかったね。エレナ・ミルウッド、エレナって呼んでね」
「エ、エレナさんですね。わかりました」
エレナって……ちょっと名前も女性っぽくね?
「あ、今僕の名前女っぽいって思ったでしょ?」
「えっ、あ……その、すいません」
「ふふふ、正直だね」
手を口に当てて朗らかに笑う。
その姿もとても男性には見えない。
「両親は僕が生まれてきたとき、女の子って間違えたらしいだよね……だから女の子の名前をつけたらしいんだ」
「そ、そうなんですか……」
「まあ今はこの名前も可愛いから気に入ってるんだけどね」
生まれた時にって……普通間違えないだろ?
だって赤ちゃんなら裸で産まれるんだから……。
「おちんちんしっかり付いてたのにね?」
「えっ!?」
「あはは、エリック君考えてることわかりやすいね」
俺の顔を見て、してやったりというように笑うエレナさん。
そんなにわかりやすかったか? なんか普通に恥ずかしいぞ……。
そうしてエレナさんの横を通って部屋に入る。
さっきまでいた部屋とほとんど構造は同じで、また奥のベッドが俺の寝るところになるようだ。
「エリック君って十六歳なんでしょ?」
荷ほどきをしながらエレナさんと喋る。
「はい、そうです」
「そんな若いのに騎士団に入団できるってすごいね。僕は去年に十九歳で入ったばっかだけど、これでも若く入った方だと思ったけどなー」
去年十九歳ってことは、今年二十歳!?
全然見えない……というか俺より若く、いや、幼く見えるぞ。
「むー、エリック君、僕に威厳がないと思ったでしょ?」
「いや、そんなこと思ってません!」
また俺の顔を見て何か感じたのか、頬を膨らませながら睨んでくる。
いや、そういう顔って普通男の人だったら気持ち悪いだけだが……なんでそんな可愛いの? 二十歳の男性ですよね?
「本当に?」
俺の顔を下から覗くようにして問いかけてきた。
その姿は下手な女の子よりとても女の子らしくて可愛い。
上目遣いで涙目になりながら問いかけてきたエレナさん……俺はドキッとしてしまい、目を逸らしながら。
「……本当です」
「あー、目逸らしたー。やっぱり思ってるんだー」
いや、これ以上あなたと目を合わせていたら何か変な気持ちになるので……。
『部屋で二人きりだからって言って……変な気起こしたら、ダメだよ?』
「は、はいっ! すいませんっ!」
「うわっ、ビックリした! エリック君、いきなり大きな声出してどうしたの?」
「えっ? あれ……?」
ティナの底冷えする声が聞こえた気がするのだが……気のせいか?
めっちゃ怖かった……が、そのおかげで冷静になることができた。
「あ、そろそろお風呂に入らないとね」
エレナさんが部屋の壁にかけられている時計を見ながらそう言った。
「エリック君先に入って」
「いえ、エレナさんから先にどうぞ」
「僕は大丈夫だから」
「先輩より先に入るなんてことは……」
今日から一緒の部屋になる先輩より先にお風呂に入るなんて失礼なことできるわけない。
「ふふふ、エリック君は礼儀正しいね。じゃあ一緒に入ろうか?」
「……へぇっ!?」
その提案に俺の口から変な声が漏れた。
「二人で入ってもそこまで窮屈な大きさじゃないしね」
確かに昨日入った風呂は結構大きくて、この部屋も同じ構造なら二人ぐらいなら問題ないだろう。
「それにほら、男同士、裸の付き合いって言うじゃない?」
そう言ってウインクしてくるエレナさんだが……俺の頭が男同士と全く認識しないのはなぜでしょうか?
「いや、その、いいんですか?」
「うん、エリック君は嫌かな?」
「嫌ではないんですが……」
「じゃあいいじゃん、一緒に入ろ?」
着替えを片手にもう一方の手を俺に眩しい笑顔で差し伸ばしてくる。
これを断るのは……ちょっと難しすぎる。
「……わ、わかりました」
俺は意を決して入ることにした。
「それにエリック君、なんか臭うしね」
「……それは言わないでください」
数十分後、風呂から何事もなく出た。
まあ……ナニを見たとは言わないが、エレナさんはしっかり男の子であった。
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