第51話 部屋の移動


 イェレさんから話を聞くと、一人の騎士が家の事情で辞めたらしい。

 どうやら貴族の家でめんどくさいことがあったようだ。


 その人が抜けたことによって一人分空く部屋が出来たので、俺が移動することになった。


「荷物をほどき終わったところだと思いますが……申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。すぐに整理できると思います」


 そこまで荷物をほどき終わってないしな。


「夕食を食べ終わって荷物をまとめたら、ここの部屋まで行ってください。案内は大丈夫でしょうか?」


 紙を渡され、それに今度の部屋がどこにあるか書いてあった。

 今いる部屋から少し離れたところにあるようだ。


「はい、大丈夫です。昨日ユリーナさんに案内してもらいましたから」

「あの、その部屋でエリックと一緒になる人って……男の人ですよね?」


 横からティナがイェレさんにそう問いかけた。


「はい、もちろんです」

「そ、そうですか……よかった」


 ティナは安堵したようにため息を吐いた。

 俺も安心したが……なんでティナがそれを聞いて安心するんだ?


「では、よろしくお願いします」


 そう言ってイェレさんは去っていった。俺達……ビビアナさん以外は立ってその背中に礼をした。


「ということで、ユリーナさん。俺は違う部屋に行くことになりました」

「そ、そうか……」


 ユリーナさんは目を泳がせながらそう言った。


 やはりいきなりのことで驚いているのだろう。


「一日だけでしたが、色々迷惑をかけてすいませんでした」


 うん……本当に一日だけだったがいろいろあった。

 お風呂だったり、朝の着替えだったり……。


「あ、うっ、その……こちらこそ、すまなかった」


 ユリーナさんも思い出したのか、顔を真っ赤に染めて謝ってくる。

 その照れている仕草が少し可愛くてドキッとしてしまった。


「ねえ、エリック……昨日、何があったの?」

「あっ……」


 やばい……ティナにはこのことを伝えていなかったんだ。

 黒い笑顔で俺たちに詰め寄ってくる。


「い、いやその……な、何もなかったぞ?」

「本当に? じゃあさっきのユリーナの反応は何?」


 うっ……言い逃れできそうにないぞ……。


「ユリーナ、エリックと何かあったの?」


 ティナは矛先をユリーナさんに変えた。


「えっ? あの、その、何もなかったぞ? ただ、少し胸を見られただけで……」


 ユリーナさん、その言い方は少しダメな言い方です……。


「エリック……? ユリーナの胸を見たって本当?」

「見てない!」

「なっ! 見たではないか!」

「ふ、服の上から見ただけです! 直接は見てない!」

「今の言い分だと、見たって自白したよね?」

「……服の上から、なら」


 ティナの冷徹な目が身体に突き刺さる。

 誰か助けてくれ……!


「ごちそうさまでしたー。ティナちゃん達ー、お夕飯食べないの?」


 今まで黙ってご飯を食べていたビビアナさんがそう言ってきた。

 俺達がイェレさんと話している間もずっと食っていた。


「……食べますよ」


 ティナは俺に鋭い視線を送りながら、座って夕食を食べ始めた。

 俺とユリーナさんも座ったが、黙々と気まずそうに食べる。


「なんでティナちゃんそんな怒ってるのー?」

「聞いてくださいよビビアナさん! エリックがユリーナの胸をガン見したって!」


 ガン見したとは言ってないぞ……したけど。


「ティナ……そんな大声で言わないでくれ、恥ずかしい……」


 赤くなった顔を隠すように両手で覆って俯くユリーナさん。


「んー、しょうがないんじゃない? 男の子だし」


 そうなんです、男の子なら誰もが見てしまうものなんです。


「だって、エリックは私ので見慣れてるはずなのに!」

「ちょっとティナ? その言い方はとても語弊があるぞ」


 村で時々一緒に風呂に入ったとかそのくらいだ。

 しかもそれは数年前までで、ティナの裸なんてここ最近全く見ていない。

 いや、見たいわけではないぞ? そこは勘違いしないように。


「ユリーナと私、そこまで大きさも大差ないのに……」

「うっ……!」


 ティナの言葉にユリーナさんが小さく声を出した。


「ふっふっふ……ティナちゃん、あまあまだよ」

「何がですか?」


 ビビアナさんが不敵に笑うと……隣にいるユリーナさんの胸へと手を伸ばした。


「きゃっ!? な、何するのですか!?」


 ユリーナさんは飛び跳ねるように距離を取った。


「やっぱり……ユリちゃん、サラシ巻いてるね?」

「なっ!?」

「今の感触でわかったよー、おっぱいにしては固すぎるもん」


 ビビアナさんは手を胸に触った時と同じように不気味に動かして問い詰めている。


「サラシを巻いてそのくらいの大きさに見えるってことは……多分、本当は今の二倍以上の大きさだね!」

「そ、そんなに大きいの!?」


 ビビアナさんの言葉にティナがとても驚いた様子であった。


「そ、そんなことないです!」

「ふふふ……嘘は良くないよ、ユリちゃん。ティナ隊員! ユリちゃんをトイレまで連行するよ!」

「は、はい!」


 いきなりのノリと命令にティナは戸惑いながらも、ユリーナさんの隣に回って腕を掴んだ。反対側の腕にはビビアナさんが。


「ちょ、ちょっと! 離してください!」

「犯人、大人しくしなさい! 大人しくしないと……」


 抵抗するユリーナさんの耳元まで顔を近づけて、ビビアナさんが何か言う。


「エリックちゃんがいる前で脱がせるよ?」

「っ!? ほ、本気ですか……?」

「もちろん! さあ、どうするー?」

「くっ……いっそのこと殺せ!」

「ふふふ、大人しく連行されましょうねー」


 ユリーナさんは大人しく連れて行かれてしまった。

 俺には聞こえなかったが、ビビアナさんが脅しのようなものをしたのか……?


 ティナも行ってしまい、俺一人になってしまった。

 まあティナも結構楽しそうだったから、いいか。


 ……周りに人がいなくなると、ただただ臭い男が夕飯を食べているということになってしまう。


 早く夕飯食べて、部屋の移動をしないと……。

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