第35話 ベゴニア到着
イェレさん達が森の中を先に歩くので、俺とティナはついて行く。
村のみんなに見送られるときに泣いてしまったが、今はもうすでに涙は引いて黙々と歩いている。
「……エリック、泣き止んだ?」
「泣いてない」
「嘘だー、泣いてたよ」
「見間違いだろ」
「そんなわけないよ! エリックの泣き顔かわい……可愛かったよ!」
「おい、言い切るなら途中で止めた意味ないだろ。あと泣いてない」
ティナが延々に追求してくるが躱し続ける。
……本当に躱せてるかはわからないが。
このままもう少し歩けば森を出て、王都までの一本道が現れる。
そこにイェレさん達は馬車を置いているらしいので、それに乗って王都まで行くのだ。
「しかし、ティナさんも体力がおありですね」
前を歩いているイェレさんが顔だけ振り向かせて雑談をしてくる。
「これだけ長く森の中を歩いていますが、少しも息を乱さないとは」
「エリックと一緒に、子供の頃から森の中を走っていましたから!」
そうだな、俺が特訓を始めたときからティナは一緒についてきたな。
だから一時間ぐらい森の中を歩くなんて余裕だろう。
「なるほど。魔法も使えてそれだけ体力があれば、本当に魔法騎士団にすぐに入れそうですね。推薦する材料が増えました」
「あ、ありがとうございます!」
ティナは嬉しそうに礼を言って、イェレさんに見えないように俺に笑顔でピースサインをしてきた。
俺もティナの魔法は本当に凄いと思うし、体力も結構あると思う。
「はぁ、はぁ……くそ、俺達も頑張るぞ!」
「はぁ、はぁ……当たり前だ、帰ったら訓練をもっとしないとな!」
甲冑を着ている二人が息を切らしながらそう言ってるのが聞こえた。
この二人は昨日、ティナに負けて結構ショックを受けたらしい。
それで今日、自分達が息を切らして歩いているのにティナが余裕そうなのを見て、もはやショックを通り越して気合いが入っている。
まあ……多分五キロ以上ある甲冑を着ているし、森を歩くのに慣れてないんだろうから仕方ないとは少し思うが。
あ、だけどティナも重い荷物を持っているな……。
イェレさんみたいに息を全く切らさずにこれくらいのことはやってほしいものだ……頑張れ。
その後もしばらく歩き、ようやく森を抜けて一本道が見えた。
そこに馬車が止まっている。どうやらあれがイェレさん達が乗ってきたものらしいな。
車は五人ぐらいは余裕で乗れそうな大きさで、二頭の馬が引くような構造になっていた。
「ではお乗りください。貴方達は御者を頼みますよ」
「は、はい!」
「ようやく座れる……」
イェレさんは部下の二人にそう指示をして、俺とティナを車の中に入れてくれた。
二人には疲れてるところ悪いと思ったが、甲冑を脱いで座って一息ついているので、まあ大丈夫か。
馬車の中に俺とティナ、それにイェレさんが入りしばらくすると、馬車が動き出した。
「二時間ほどで王都に着くと思われます。それまではゆっくりお過ごしください」
「あ、はい」
ゆっくりお過ごしって言われてもな……特にやることはないぞ、この馬車の中では。
あ、そうだ。さっきティナの推薦する材料が増えたとか言ってたが、その材料をもうちょっと増やそうか。
「イェレさん、俺がフェリクスを一人で倒したという話を前にしましたね」
「ええ、あの危険人物をお一人で倒すなど、本当に素晴らしいと思います」
「いえ、本当は違うんです。俺一人じゃ倒せなかったです、ティナの魔法がなければ負けていました」
「……そうなのですか?」
「はい、実は――」
魔法騎士団団長にティナを推薦してくれるというイェレさんに、フェリクスを倒した経緯を話した。
フェリクスの魔法から俺の身を守ってくれて、俺の身体に魔法付与をして共にフェリクスを倒したということ。
「魔法付与ですか……!? ティナさんは中級魔法まで出来るのですか?」
「は、はい! 出来ます!」
ティナはいきなり話を振られて言葉に詰まりながらも答える。
「エリックに中級魔法まで教わって……エリックも出来ますよ!」
「エリック君も魔法を使えるのですか!?」
「はい! 私の魔法は全部エリックに教わりましたから!」
「それはすごいですね……」
「はい! エリックはすごいんです!」
あれ? いつの間にか俺の話になってる。
「ティナに教えたのは俺ですが、魔法に関してはもうティナに勝てる要素は自分にはないですよ」
教えたと言えば聞こえはいいが、逆に成長を止めていると俺は考えている。
俺がもっと魔法を知っていてティナより上手ければ、もっと成長させることは出来たはずだ。
だけど今では魔法の威力も種類もティナの方が上回っている。
もう上回ってのはずいぶん昔だが、それからティナは成長が極端に遅くなった。
多分、俺に少し気を使っていたのもあるが、教える相手がいないということが一番の理由だろう。
だからティナは魔法騎士団に入れば、もっとその才能を開花させると思う。
「そうですね……ティナさんのお歳で中級魔法まで使えるのは素晴らしいです。魔法騎士団に入るためには最低でも中級魔法を使えるというのが必須でしたが、これでそれもクリアです」
「そうだったんですか! あれ、じゃあエリックも魔法騎士団に入れる?」
「その規定に則ればそうですね」
「エリック! 一緒に魔法騎士団入ろうよ!」
イェレさんの言葉を聞いて俺に力強く言ってくるティナ。
「俺は剣の方が得意だから、騎士団の方が向いてるよ」
「むぅ……まあそれはわかるけど」
ていうか俺も魔法騎士団に入れるかもしれないのか。
威力とかはティナには遠く及ばないが、子供の頃から一応鍛えてきたもんな。
俺はティナがいたから魔法の才能がないと思っていたが、もしかして比べる相手が悪かった……?
魔法なんて全く出来ない人もいるからな、そうなのかもしれない。
そうしてしばらく馬車の中で雑談を続けていると、御者をやっていた一人の声が聞こえてきた。
「団長! 王都ベゴニアにもうしばらくで到着します!」
「あ、もうですか。意外と早かったですね」
もう二時間経っていたのか。
ティナは車の中から身を乗り出して、馬車の前方を見ていた。
「うわー! 大きい壁!」
ティナに続いて俺も身を乗り出して見てみた。
王都は外壁に囲まれているらしく、前方に見えるのは白くてとても大きい壁だった。
高さは目測、五十メートルほどある。
俺が前世で見てきた街の中でも一番大きい外壁だ。
「お二人は王都が初めてなんですね」
俺たちの反応を見て、イェレさんがそう尋ねてくる。
「はい、そうですね」
「そうです! やっぱり大きいですね!」
俺は前世で多少は大きな街を見慣れているが、ティナは村から出るのは初めてなので興奮している。
「では少し早いですが――ようこそ、王都ベゴニアへ」
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