第36話 胃痛


 王都の門まで到着し、馬車はそこで一度止まった。

 遠くから見てもわかったが、近くで見たほうが外壁の大きさの迫力が伝わってくる。


「おっきいねー……」


 ティナが空を仰ぐように壁を見てそう言った。

 俺もさっきまでそうしてたが、首が痛くなりそうだったのですぐにやめた。


 門番のような人とイェレさんの部下の二人が少し話して、すぐに馬車が動き出した。

 何か紙みたいなものを見せたら門番の人が焦ったように敬礼して通してくれたが……あれはなんだったんだ?


 中に入るととても大きい商店街が続いている。

 いろんな人がいて、俺たちの村、アウリンの住人の数など十メートル歩けば超えるほどだ。


「うわー、すごい人!」


 ティナは村から出てきた田舎者みたいな反応をしている。まあ、その通りなんだが。

 揺れて不安定な馬車の上で立ち上がって頭を忙しなく動かし、いろんな人や店などを見ている。


 その様子を俺とイェレさんは微笑ましく見ている。イェレさんは笑っていないが……雰囲気がなんとなく笑っている。


 ティナは楽しそうに笑って見渡していたが、俺達の視線に気づくと恥ずかしそうに顔を赤く染めて座る。


「うぅ……エリックのばかぁ」

「なんでだよ」


 顔を手で覆って恥ずかしがっている自分の姉が可愛くて、少し頭を撫でる。

 それにビックリしたように顔から手を外して俺の顔を見るが、すぐに笑って身を任せてくる。


 姉のように思っているが、俺の方が精神年齢は倍くらい上だからな。

 俺がティナを妹のように扱うことが多い気がする。


「お二人はとても仲がいいですね」

「子供の頃からずっと一緒にいましたからね」


 子供の頃から一緒にいても歳が重なっていくにつれて、遊ばなくなったり仲が悪くなったりする人もいるらしいが、俺とティナは前世の頃からずっと仲が良かったな。


 馬車は王都へ続いていた一本道よりかは揺れなくなった。

 王都の地面はしっかり整備されているということだが、やはり大きな都市は俺達の村とは全然違うな。


 しばらく馬車に揺られて街の景色を見ていたが、この馬車は商店街と離れ王都の中心に向かっていた。


「イェレさん、まず自分達はどこへ行くのですか?」


 馬車がどんどんとこの王都で一番大きい建物へと向かっているのに気づいて、問いかける。


「そうですね、まずは王宮です」


 ……ん? 今なんて?


「す、すいません……どこへ、行くんですか?」

「王宮です」


 聞き間違いではなかった。


 えっ? まじで?


「ああ、すいません間違いました」


 イェレさんが申し訳なさそうにそう言った。


 なんだ違うのか、良かった。いきなり王宮に行って何をされるのかと思ったぞ。


「ティナさんは魔法騎士団の寮へと案内しますね」

「えっ、あ、はい。ありがとうございます」


 ティナはどもりながらもそう返事をした。


 えっ、俺は?


「イェレさん、自分は……?」

「エリック君は王宮で陛下とお会いしていただきます」


 王宮に行って何をするかも教えてもらった。ありがたい。


 ……いや、ありがたくないわ!


「な、なんで自分が王様に会うという話になってるのですか!?」

「エリック君が危険人物であるフェリクス・グラジオを倒したということで、陛下にお伝えしました。それにより陛下がお話をされたいということです」

「いきなりですか!? というか、なぜ王様が俺と話したいとわかるんですか!?」


 ずっとここにいたんだから王様と接触はできなかったはずだ。


「陛下の性格を考えると、必ずお話をしたいとおっしゃると思うので」


 イェレさんはそう説明してくれるが、その陛下の性格がよくわからない。

 なんでフェリクスを倒したと言えば、俺に会いたいとなるのか。


「陛下はとても活発的に政治や軍事に参加されるお方なので、そういう話は直接聞きたいといつもおっしゃる方なのです」


 俺の疑問を察してくれたのか説明してくれる。


 こんな大きな国の王様なので、普通の王様とは少し違うのはわかるがそんなに関わってくる人なのか。


「陛下はお相手の服装などは気にしないので、そのまま王宮でお話をしていただきたいのです。よろしくお願いいたします」

「……わ、わかりました」


 王都に着いてこんなにすぐに重大なことが起こるとは思わなかった……。

 あ、腹痛くなってきた。


 さっきから馬車が近づいていた大きな建物は王宮だったらしく、その手前でティナは降りることになった。

 王宮の近くに騎士団と魔法騎士団の拠点のようなものがあるって、そこの近くに寮もあるからティナは荷物を持って行くのでここで俺とは別れる。


 俺もここで降りたい……。


「じゃあねエリック! 頑張ってね!」

「ああ……また後で」


 ティナが馬車を降りてすぐに出発した。

 離れゆく馬車に乗る俺にずっと手を振ってくれた。


「大丈夫です、陛下はとても気さくな方で素晴らしい人です。きっとエリック君も気に入られることでしょう」

「それならいいんですが……」


 俺は前世でもそんな偉い人と会って話したことなんて一度もないぞ……。


 いや、イレーネは王女様だったか?

 だが王女様だと思って接したことは一度もないからな……。


 そんな一国の王様と話して不敬な態度を取ってしまったらどうしようとか考えるともう、胃痛が痛い……なんか今、変な言葉を使ってしまった気がする。



 こうして俺は胃痛が痛い状態で、この国で一番偉い王様に会うことになってしまった。

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