第32話 入団決定


 イェレさんが部下の人達の拘束を剣の一振りで解く。

 普通の人ならそれだけであの魔法は解けないんだがな……特にティナの魔法は強いのにな。


「エリック殿、先程フェリクス・グラジオの死体を確認いたしました。疑ってはいませんでしたが、フェリクス本人で間違いありません」

「あ、そうですか」


 そういえばこの人達が森にいた理由は、俺が殺したフェリクスを確認するためだったな。忘れてた。


「改めてお礼を申し上げます。フェリクスをここで倒していなかったら、ベゴニア王国は滅亡の危機に陥っていたかもしれません」


 そう言って頭を下げてくる。後ろの部下の人達も一緒に、甲冑をガシャガシャ鳴らしながら頭を下げる。


「俺はこの村を守っただけです。貴方達からお礼を言われる覚えはありませんよ」


 まあ実際、俺がここで負けてこの村を滅ぼされていたら、ベゴニア王国も堕とされていただろう。

 それは俺が前世の頃に経験している。


「それでも、エリック殿に救われたのは確かです。ありがとうございます」


 俺がいいって言ってるのに、まだお礼を言ってくる。

 俺が受け取らない限りずっと言ってきそうだ。


「そう、ですか。わかりました、ありがたく受け取っておきます」

「はい、今度しっかりお礼の品を贈らさせていただきます」


 本当に真面目な人だな、イェレさんは。

 ここまでしっかりしてる人は初めて見た。


 イレーネも王族だったから真面目でしっかり者だったが、ここまでではなかったな。

 クリストなんて本当に適当なやつだった。


 あっ、そうだ……!


「あの、お礼の品は別にいいので、頼みを一つ聞いていただけますか?」

「なんでしょうか?」


 これだけお礼をしてくれるというなら、俺がして欲しいことをやってもらおう。


「ベゴニア王国で探している人が、多分いるんです」

「多分、ですか?」

「本当にベゴニア王国に住んでるかわかりませんので……十中八九、住んでいると思いますが」


 前世の時にクリストの出身地をしっかり聞いておけばよかった。


 俺の村が滅んだ後、すぐに滅んだ国なんてベゴニア王国しかないと思おうからほぼ確実に住んでいるとは思うが……。


「王都に行った際に探すのを手伝ったもらいたいです。いいでしょうか?」

「もちろんです。全力でお手伝いさせてもらいますよ」


 イェレさんは快く承諾してくれた。


 これで少しは探しやすくなるかな。

 ベゴニア王国はとても大きいから一人で探すのなんて、本当に気が遠くなる。


「エリック、探している人って誰?」


 隣で話を聞いていたティナは俺にそう問いかけてくる。


 村でずっと一緒に住んでいたから、俺が探すような人物にティナは心当たりはないのだろう。

 クリストは今世では一度も会ったことないから、心当たりがないのは当然だろう。


「そう、だな……子供の頃に一度だけ会ったやつなんだ。多分ティナはわからないのは、会ってないからだと思う」

「そうなんだ」


 適当に言い訳というか、説明をしたが……これ親父や母さんに確認されたら一発で嘘がバレるな。

 ……確認されないことを祈る。


「その人は――女の人?」


 ティナの声が少し下がったような気がする。

 背筋に冷たいものが走る。

 なぜかその質問に間違った答えをしたら――何か尋常じゃない被害に襲われる気がする……!


「い、いや、男だぞ」


 俺はどもりながらも答えた。


「あ、そうなんだー」


 謎の寒気が消えて、ティナも笑顔になったおかげか俺もため息を吐く。


 なんであんなに怖い思いをしたんだ……?


 そう考えているうちに、隣のイェレさんから話しかけられる。


「エリック殿、まだはっきりと答えを聞いていませんでした――我がベゴニア王国騎士団に入団していただけますか?」


 俺の目を真っ直ぐ見て言ってきた。


 俺の答えは決まっている。


「はい――入りたいと思います。よろしくお願いします」


 そう答えて頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして、俺の騎士団入団は決まった――。



「あの、私も魔法騎士団に入りたいんですけど……」


 ティナが横から恐る恐るそう言って話に入ってくる。


「先ほどティナさんの魔法を見ましたが、魔法騎士団に入れるほどの実力は身についていると思います。私から魔法騎士団団長に話しておきましょう」

「あ、ありがとうございます!」


 そうか、俺が来るまで試験をしていたんだっけ。

 それで部下の人達にティナが勝って、その後イェレさんと勝負して――。


「あっ……すいません、イェレさん。先ほどはいきなり斬りかかってしまって」


 俺はイェレさんがティナに剣を振り下ろそうとしている姿を見て、訳も聞かずにイェレさんを吹っ飛ばしてしまったんだ。


「いえ、気にしてませんよ。側はたから見ればそう見えてしまうのも無理はないでしょう」


 無表情でそう言うので、怒っているのを隠して言っているようだが、この人はこういう顔しか出来ないということがわかってきた。


「エリック殿……いえ、騎士団に入団すると決まったので、エリック君とお呼びしますね」

「あ、はい」


 この人は今度から部下になる俺にも君付けなのか。


「それにティナさんも。もう一度家族と話した方がいいと思います。特にティナさんはまだ説明していないでしょう?」

「……はい、そうです」

「ならお早めに。私達もここに長く留まっているのも、他に任務などがあるので出来ません。明日には出発します」

「わかりました!」


 ティナは強く返事をして、俺の方を向く。


「エリック! 私もお母さん達を説得して絶対についていくからね!」


 そう笑顔で言って、家の方に走って行った。


 そうか、ティナも来るのか……。


 家を出てティナを探しているときは、もう離れないといけないと思っていたので気持ちが落ち込んでいた。


 しかし、今は俺についてきてくれると言ってくれたので、家族のように大事だと思っているティナと一緒にいることができるとわかったので、とても嬉しく晴れ晴れしい気持ちだ。


 俺はイェレさん達に軽く会釈をしてから帰路に着く。

 明日には出発すると言っていたので、その準備をしないといけない。

 別れる前に、持ち物や準備しとくべきものも聞いておいた。


 家を出たときとは違い、軽々しい足取りで帰ることができた。

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