第31話 鈍感?


「ティナから――離れろぉぉぉ!!」


 イェレさんがティナに剣を振り下ろそうとしている光景を見て、俺は地面を思いっきり蹴り接近する。


 持っていた剣を抜き、ティナのところから退かせるために接近した勢いを殺さずに力任せに横薙ぎに振るう。


 イェレさんはギリギリで剣を間に挟み込みガードしたが、俺の勢いに負けて吹っ飛んだ。


「くっ――やはり、強いですね……」


 イェレさんは数メートル吹っ飛び、着地する。


 もっと吹っ飛ばして木に身体をぶつけさせようとしたが、上手く衝撃を殺されて着地されてしまった。


 ベゴニア王国の騎士団団長の名はそんなに甘くないか。


「ティナ、大丈夫か!?」


 倒れて呆けていたティナに安否を確認する。


「う、うん……大丈夫だけど……」


 そう言って上体を起こして何も怪我がないことを伝えてくれる。


「そうか、良かった……! 待ってろ、今俺がイェレさんを倒して……」

「待って! 違うのエリック!」


 ティナが大丈夫だと聞いて俺はイェレさんとすぐに戦おうとしたが……ティナに必死になって止まられる。


「勝負してたの! イェレさんと!」

「えっ……? 勝負……?」


 いきなりそう言われて戸惑っていると、イェレさんが剣を収めてこちらにゆっくりと歩いてくる。


「彼女……ティナさんに頼まれたんですよ。『私を魔法騎士団に入れてください』……と」


 その言葉を聞いて俺はさらに混乱する。


 ティナが魔法騎士団……? なんで……?


 俺がそう思っているのがわかったのか、ティナが説明してくれる。


「その……エリック、騎士団に入っちゃんでしょ?」

「なっ……!?」


 なんでティナがそのことを……!?


「私、イェレさんとエリックが家で話してるの聞いたんだ」

「っ! そう、だったのか……」


 あの時にティナが聞いていたのか。

 裏庭とかにいたのか? 全く気づかなかった。


「エリックが外に出た時、もう騎士団に入るって決めてたから……私、寂しくなって森に一人で来たの」


 ……まさか、顔を見ただけで俺が騎士団に入るって決断したことがわかったのか。

 さすがにずっと一緒にいただけあって、そこらへんは伝わってしまうんだな。


「森に来て、さっきまでエリックと話してたイェレさん達の姿が見えて、隠れて話を聞いてたら……魔法騎士団って言葉が聞こえて。それで、エリックと離れないためにはそこに入るしかないって思ったの!」


 そう言って、涙目になりながら俺の方を向いて喋る。


「私、エリックと離れたくない! エリックとずっと一緒にいたい! 隣に立って、もっと頼られたい……!」


 俺に叫ぶように、ティナはそう言ってくれた。


「ティナ……」

「ねえ、エリック……私も、一緒に王都に行っていい?」


 そう問いかけてくるが、俺は何も答えられない。


 今俺が無責任に答えても、ティナにも両親がいる。


 俺の両親は王都に行くことを許してくれたが、ティナの両親が行くことを許可しなければティナは来られないだろう。


 だから俺がここで答えても……!


 そう思って何も言えずにいたが、それを見通したようにティナがもう一度問いかけてくる。


「エリックがどう思ってるか聞きたい! 私が一緒にいたら、迷惑……?」

「そんなわけないだろ!」


 ティナの問いかけに反射的に答えてしまう。


 俺だってティナと離れたくない。


 ずっと一緒にこの村で過ごしてきた。

 血は繋がってないが、本当の姉のように思っている。

 それは前世でも今世でも変わらない。


 前世では俺の力が無かったから、一生の別れをしてしまったが、今世では救うことが出来た。

 それなのに、今世でもすぐに離れ離れになるのは辛いと思っていた。


「俺も、ティナと離れたくない。一緒にいたい!」

「嬉しい……! ありがとう、エリック!」


 ティナは涙を零しながら、笑顔で俺に抱きついてくる。


 俺もその抱擁を受け止め、ティナの温もりを確かめるために強く抱きしめる。


 この温もりは……前世では失ったものだった。

 だから今世ではもう失いたくない。


 だからティナとは離れたくないし、一緒にいたい。



「良かったです、話がまとまって」


 俺とティナが抱き合っていると、横から無感情な声が響いてくる。


 そちらに顔を向けると、イェレさんが無表情でこちらを見ていた。


「……イェレさん、あなたは空気を読まないとよく言われませんか?」

「確かに副団長からはよく言われますが……なぜわかったのですか?」


 だろうな……俺たちがこんなに抱き合って感動を分かち合ってるのに、平然と淡々と割り込んできたし。


「私もカップル誕生の場に居合わせてとても嬉しく思います」

「そ、そんな……イェレさん、カップルだなんて……」

「いや、俺とティナは恋人なんかじゃありませんよ」


 隣でティナが顔を赤くしてクネクネしているのが見えたが、それをとりあえず無視してイェレさんの勘違いを訂正する。


「俺とティナは幼馴染で、家族みたいなものです。恋人ではありませんよ」

「そうなのですか? 間違えてしまい、申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です」


 頭を下げてもらったが、そんなに謝るものでもない。


 そう思っていたが、隣でティナが膨れっ面をしていた。


「ん? どうしたんだティナ、なんでそんな怒ってるんだ?」

「むぅ……!」

「そんなに勘違いされるのが嫌だったのか?」

「そうじゃない! エリックのバカ!」

「はぁ?」


 ティナはそう言ってそっぽを向いてしまった。


 なんで俺に怒ってるんだ?


「エリック殿、貴方は鈍感とよく言われませんか?」


 イェレさんがいきなりそう問いかけてくる。


 確かに……前世では親友のクリストや、恋人のイレーネに言われたかもしれない。


「何回か言われたことありますが……なんでわかりました?」


 今世では一度も言われたことないぞ?


「いえ、なんとなくですよ」


 イェレさんはなぜか俺と目を合わせずにそう言った。



「……団長、そろそろ拘束解いてもらっていいですか?」

「あ、忘れてました。すいません」

「変な体勢で拘束されたから腰が……!」


 あ、そういえば部下の人達が拘束されたまま地面に転がってたのをすっかり忘れてた。

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