第27話 ずっと
――ティナside――
今日はエリックのお父さん、ディアンさん達が王都から帰ってくる日。
そしてさっき帰ってきて、村の皆んなが待ち望んでいた道具とかを買ってきてくれた。
私もディアンさんに頼んだ包丁を買ってきてもらった。
前の包丁はちょっと硬いものを切ろうとしたら刃が欠けちゃって使えなくなってしまった。
だけど今回買ってもらった包丁でやっと料理を作れるようになる。
これでエリックに料理を作れる……!
エリックに早く食べさせてあげたい!
早速夕飯をエリックの家で作りたいと思い、エリックに話しかけようとして周りを見渡す。
「あれ……いない?」
さっきまで後ろにいたはずなのに、エリックの姿が見えない。
「ディアンさん、エリックは?」
まだ村の皆んなに買ってきた物を配っているディアンさんに話しかける。
「ん? あー、エリックなら俺が連れてきた人と話をするらしくてな。家に戻ったぞ」
「連れてきた人?」
「ああ、王都の騎士団の人らしい。この前の魔物の襲撃について話があるんだと」
騎士団の人……?
私はよくわからないけど、ディアンさんも騎士団の人に事情聴取されたらしく、その時にエリックのことを話したらこの村までついてきたらしい。
「そうなんだ……」
今はエリックの家で話をしているらしいので、私も行くことにする。
邪魔になるかもしれないので、ちょっと窓から中の様子を見てから入るか決めようかな。
大事な話をしてる時に邪魔されたら困るもんね。
うん、決して私が気になるから聞くわけじゃない、あくまで邪魔しちゃいけないから。
そう思って、まだ村の皆んながディアンさん達から物を受けとり盛り上がってるところから抜けて、エリックの家に向かう。
エリックの家に着いて、中に入らず裏庭の方へ行く。
そこに行くとリビングの窓があるので、中の様子がわかる。
足音を立てないように忍び足で行くと、リビングの中から声が聞こえる。
時々エリックの声が聞こえるけど、エリックが話している人の声が聞いたことがない。
多分、その相手が騎士団の人なんだろう。
窓のそばまで近付き、中の様子をバレないように覗いてみる。
リビングのテーブルにエリックが座っていて、その対面に男の人が座って、その側に二人の男の人が立っている。
座っている男の人は……顔が無表情でなんか怖いイメージ。
そして――その人の声が聞こえてくる。
「我がベゴニア王国騎士団に――入団して頂きたいのです」
……えっ?
いきなりそんな言葉が聞こえて私は動揺してしまう。
入団して、欲しい……? エリックにってこと?
エリックもその言葉に驚いてる様子で、その人……イェレさんという人に聞いていた。
イェレさんは優秀な人材を求めている……と言っていた。
うん、騎士団というのはあまりわからないけど、王国を守る職業みたいなものなんだろう……。
それで優秀な人材を求めるのは、わかる。
エリックを誘うのも、エリックが強くて優秀ってことなのは、一番私がわかってる。
何年も前からずっと一緒にいる私が、一番エリックのすごさを知ってる。
だからエリックが認められるのは私も自分のことのように嬉しいけど……。
そう思ってると話は終わったようで、イェレさんとその後ろにいた二人の人がどこか行くらしい。
それを見送るためにエリックも外へ出る。
私も裏庭に隠れながら、バレないように玄関の方へと回る。
エリックは玄関でイェレさん達を見送り……しばらく外で考え込んでいる。
そして家の中に入ろうとして振り向いた時……エリックの顔がチラッと見えた。
その顔は――何かを決意した顔だった。
ずっと一緒にいた私にはわかる。
エリックがさっきの誘いに対して……なんて返事をしようと決めたのかが。
エリックは――騎士団に入るのだろう。
もう私が……ディアンさんやセレナさんが何を言っても、エリックは騎士団に入る。
そっか……エリックは騎士団に入るんだ……。
騎士団に入るということは、エリックは王都に行っちゃうんだろうな……。
そしたら……あまり会えなく……。
「……えっ?」
私はそこまで考えると、頬に何か伝っているのに気づいた。
手を頬に当てると……それは涙だった。
私は気づかないうちに涙を流していた。
そのことに気づいた瞬間――私の心には悲しみだけが溢れた。
「やだ……やだよ……! エリックと、離れたく、ないよ……!」
そう口にすると、一気に涙が溢れてくる。
エリック……!
ずっと一緒にいた。子供の頃からずっと。
意識して隣にいようとした時もあれば、意識しないでも隣にいてくれた時もあった。
ついこの前、エリックが死にそうで涙は枯れるほど流したと思ったのに……。
なんでこんなにもまた、涙が流れてくるのだろう。
……多分、もうエリックが絶対に王都に行くって私がわかってしまっているからだ。
私はその場でしばらく泣いていたが……ここにいたらエリックにバレてしまうかもしれないと思い、裏庭から出る。
そして泣いてるのを誰にも見られないように、森へと歩いて行った。
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