第28話 チャンス

 ――ティナside――


 どれくらい歩いたか……。


 私は一人になるために森まで歩いた。


 小さい頃、エリックと一緒にここに来たときは怖い思いをしたけど、今では何回も来てるのでそういう感情は無くなった。


 私はあの頃より……強くなれたかな?


 多分その質問をエリックにすれば、絶対に肯定してくれる。


 だけど、私が強くなれたのは……エリックのおかげだよ。

 エリックのために魔法を練習しようと思った。


 エリックは子供の頃から……何か目的があるんじゃないかと思うほど、剣の練習や魔法の練習をしていた。


 私は遊ぶ相手がエリックしかいなかったのもあって、一緒に魔法の練習を遊び感覚でやっていた。


 魔法の練習は実際楽しかったし、エリックに教わって、そして教えて……それが楽しくて苦にならずにずっとやってこれた。


 だけどエリックは……苦しい表情でずっと剣を振るって、魔法も気絶するまでずっとやってた。


 いつか覚えてないけど、


「なんでそんなに頑張るの?」


 と聞いた覚えがある。


 するとエリックは少し困ったようにして、答えずらそうに。


「そうだな……俺がやらないと、後悔するからかな?」

「後悔って……?」

「うーん……まだ言えないけど――もう、失いたくないからな」


 エリックはそう言って、私の頭を撫でた。

 その時はエリックに姉扱いしてもらいたかったから、すぐに頭を撫で返した。


 だけど今では――姉扱いでは、私はもう不満だ。


 この前、あの男の人と戦うときにエリックに頼られた。

 久しぶりに、「ティナ」って呼び捨てで呼ばれた。


 形だけ「ティナ姉」と呼ばれるより、呼び捨ての方が心がこもってた。


 私は――エリックを護る存在でありたい。

 エリックに頼られて……そして頼る。


 私が前でもなく、後ろでもない。



 ――エリックの隣に立ちたいんだ、私は。



 だから、今度からは本気で魔法を学ぼうと思った。

 エリックの隣に立つためには、私はもっと魔法が上手くならないといけない。


 そう思って、エリックに今度からしっかり魔法を教わろうと……したけど。


 もう、それは叶わない。


 エリックは……王都に行ってしまうんだ……。


 私はそう考えるとまた涙が出始めてしまい、手で拭う。



 そして拭ってるときに……何か森の奥で物音がした。


 魔物かと思ってすぐに戦闘体勢に入ろうとするが、目に涙が溢れているので周りが霞んで見える。

 すぐに涙を拭って周りを油断なく観察するが……右斜め方向から音が聞こえてくる。


 魔物の唸り声などではなく、多分人の声だ。


 ここに人がいるとは思わなかったけど、誰が何をしているのか気になり、足音を立てずに声がする方へ近づいていく。


 少し歩くと木の隙間から人が見えてくる。

 二人……いや、三人の人が森にいて、そこで地面を掘っている。


 三人の姿を確認したら、さっきエリックの家で勧誘していた人達だった。

 多分、王都の騎士団の人達だろう。


 しばらく見ていると地面が掘り終わったらしく、出てきたものは……あれは、人?


 地面から出てきた人をよーく見ると、一週間前にエリックが殺した人だった。


 いつのまにか誰かが……多分エリックだと思うけど、あの人を地面に埋めていたらしい。


 なんでその人を掘り起こしたんだろう?


 そう思って話を聞いてみると……あの男、フェリクスという人はとても危険な人だと王都の上層部でも話題になっていたらしい。

 しかも、エリックがここで殺してなかったらベゴニア王国が堕とされていたと、さっきエリックと話していたイェレさんが言っている。


 あの男の人がそんなに危険な人物だと思っていなかった。

 そんな男の人と……エリックは一人で戦っていたんだ。


 私がいなかったら、多分エリックは死んでいただろう。


 そう思うと少し怖くなるけど、私がいたからと考えると役に立てたことが嬉しく思う。



 だけど……イェレさんが喋っていた話で私が一番気になったのはそこではなかった。



『私や陛下、魔法騎士団団長などの上層部の方々は知っていましたが……この男は、ハルジオン王国の次期国王でした』



 この言葉を聞いたとき……まだ、私にはチャンスがあると思った。


 エリックと一緒にいる、ずっとの隣に立てるチャンスが。



 私はしばらくして決意を決め、足音を立てながらその人達の前に姿を現した。


 私の足音がした瞬間に、イェレさん以外の二人が腰に携えていた剣に手を添えて私を見る。


 その二人が敵意を私に向ける姿を見ても私は何も怖くない。

 エリックとずっと一緒にいた私には、あの二人は自分より強くないと感じていた。


 逆に、何も敵意を見せない……私が音を立てて出てきても何も動揺を見せないイェレさんの方が私には脅威に感じる。


 動揺を見せない……つまり、姿を隠していた私に気づいていたということだ。


 表情は変わらないけど……私に何か用かと目で問いかけてくるようだった。


 私はそこまで人に慣れていない、子供の頃からずっと人見知りだ。


 いつもの私ならこんな怖い人に睨まれたら何も言えなくなるけど――エリックと一緒にいるためなら、何でもできる。



「――私が、魔法騎士団に入るためにはどうすればいいですか?」

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