第18話 もう一度決意を

 ――ティナside――


 私はまだ魔法を行使してディアンおじさんの傷を治していた。


 やり始めた時と比べてもおじさんの傷はほとんど塞がってきている。

 だけど、流したちが戻るわけではないから、おじさんが危ない状態なのは変わらない。


「エリック……大丈夫かな?」


 先程、エリックと男の人が戦ってる方角から爆発音が響いてきた。


 だけど、多分あの爆発はエリックが起こしたものだと思う。


 私はエリックと魔法の練習をしてきて、前にエリックが火属性の魔法の練習をしてるのを見たことがある。

 それであの爆発のような音を聞いたので、それだと思う。

 しかも爆発の前に、エリックの魔力が一気に膨れ上がったのがこの距離があっても私には感じ取れた。


 あの爆発の音と私が感じたエリックの魔力の量だと、今まで見たこともないほどの爆発をエリックは起こした。


 だからこそ、エリックが危ない状況にある……!


 あんな多くの魔力を一気に使ったら、必ずその後の行動に支障が出る。

 魔力は使いすぎると、途端に体力が無くなって動けなくなる。

 私もエリックも経験してきた。


 私はエリックがあんな魔力の量を一気に使ってるところを見たことがない。

 あの爆発で相手の男は倒せたならいいけど……。


 倒せてなかったら……!


 私がそう思っていると、エリックがいる方向からまた耳に響いてくる金属音が鳴り始める。


 この音が聞こえたということは、またエリックとあの男の人との戦いが始まったってことだろう。


 だけど、エリックはさっきの魔法で絶対に体力が限界に近づいている……!

 ただでさえ一時間ぐらい、魔物とずっと戦い続けてるのに……!


 私は焦る気持ちを抑えながら、ディアンおじさんの治療を続ける。


 もう少しで全ての傷が塞がって、もう血が出ることはなくなる状態になるという時……。


「……う、あぁ……ここは……?」

「あ、おじさん!? 起きたの!?」


 おじさんが細く目を開いて、小さな声を上げた。


「大丈夫おじさん!?」

「ティナ、ちゃん……そうだ、あいつ……! いっ!」

「あっ、動いちゃダメだよ!」


 おじさんは起きてすぐに状況を思い出したのか、目を見開いて起き上がろうとしたけど、身体の痛みで起き上がる事が出来なかった。

 私は魔法を発動しながらおじさんを軽く抑えて寝かせたままにする。


「おじさん死にかけるほどの怪我したんだから、しばらく安静にしないと!」

「エリックは……ティナちゃん、エリックはどこだ……?」


 おじさんは寝たまま私の目を見てエリックの場所を聞いてくる。

 私は少し目を逸らして正直に応える。


「エリックは……男の人と戦ってるよ」

「っ! くそ……こうしちゃいられない! 俺も……ぐっ!」

「だから動かないでおじさん!」


 おじさんは立ち上がろうとするけどやっぱりふらついて立ち上がれない。


 私はもう魔法で治すところは全部治したので、おじさんの傷は塞がったのにまた戦いに行ったら今度は本当に死ぬかもしれない。


「おじさんはここにいて! 私が行ってくるから!」

「ティナちゃんが……!? そんなわけにはいかない!」


 おじさんは私が行くことに反対するけど、そんな重傷なおじさんが行くくらいなら私が行ったほうが役に立つに決まってる!


 そう思って説得しようとするけど、おじさんはなかなか頷いてくれない。


「おーい! 二人とも!」

「何があったんだ!?」


 私とディアンおじさんが話しいると、村の中の方から二人の男の人が来た。

 二人ともディアンおじさんの狩人仲間の人だ。


「さっき大きな爆発音が聞こえてきたから何かあったのかと思ったけど……」

「ディ、ディアンさん!? その血の量は!?」


 一人の男の人がディアンさんの服についている血を見て驚愕している。

 あんだけ傷だらけだったから、服にはそれは多くの血がついていて、パッと見だと大きな怪我をしているように見える。

 実際本当に大きな怪我をして、私が治したんだけど、それを二人は知らないから今もなおディアンおじさんはその大きな怪我をしていると思い込んでいる。


「大変だ! ディアンさんが死んでしまう!」

「おい、お前は村の皆んなの所に戻って手当ての道具を持ってきてもらえ! 俺は応急処置をしとくから!」

「わかった!」

「い、いや、お前ら! これは治って……」


 ディアンおじさんの言うことを聞かずに行動する二人に、おじさんも少したじろいでいる。


 私はそれを見てチャンスだと思い。


「私はエリックを助けに行ってくる! ディアンおじさんのこと頼んだね!」

「あっ、ティナちゃん、待て! おいお前ら、俺は大丈夫だから!」

「そんな血だらけで何言ってるんですか!」


 おじさんの引き止める声を無視して私はエリックが戦ってる方へと急いで走る。


 早く行かないとエリックが危ない……!



 ――エリックside――


「はああああッ!」

「オラアアアッ!」


 俺は雄叫びを上げながら男へ、フェリクスへと突っ込み剣を振るう。

 フェリクスも叫びながら突っ込んできて俺の剣に合わせて刀を振るう。


 俺は剣と刀が衝突する瞬間、剣を僅かに傾ける。

 すると刀は俺の身体から外へ逃げるように流れる。

 刀を逸らすことに成功し、そのまま奴の身体目掛けて剣を振るうが、驚異的な身体能力で躱される。


 そして逸らされた刀にまた力を込めて奴は俺に首へと振るってくる。

 俺はそれを読んでいて、首を傾けることによりギリギリで躱す。


 先程からこいつと一対一で戦っているが、ずっとこのギリギリの状態で決着がつかない。


 俺は技術力ではこいつに勝っている。

 身体の動かし方、剣を交えたときに相手の力の逃し方。

 その全てが俺に軍配が上がる。


 そして経験。

 これも技術と同じように俺の方が上だ。

 俺はまだ十六だが、前世の時に何度も死闘を繰り返してきた。

 その経験が俺の身体に染み付き、力となる。


 しかし、戦いにおいて最も重要と言っても過言ではない、身体能力。

 これは圧倒的にあっちが上だ。

 俺の剣を見てから躱すほどの動体視力とスピード。

 正面から剣を交えると俺が吹き飛ばされるほどのパワー。


 これは種族の差なのかもしれないが、そこが違いすぎる。

 俺が相手の行動を読んで攻撃しても、それを見てから躱されるのでは意味がない。

 俺もさっきからこいつの攻撃は何度も躱してはいるが、全て経験や技術によって予測して躱しているだけで、奴とはそこが違うのだ。


 そして俺の躱し方や攻撃の仕方は、とてつもなく集中力が必要になる。

 相手の全ての行動を読み、予測して戦っているのだ。

 頭の中で考えながら攻撃し、避けるわけだからはっきり言うと、とても疲れる。

 少しでも間違えれば刀は俺の身体に当たり、致命傷になる。


 フェリクスが刀を振るってきたのを見て、俺は今度は剣に身体を預けるように振るう。

 するとフェリクスの刀と当たってパワーに負けて吹っ飛ぶが、それを狙っていたので俺は難なく体勢を立て直して着地する。


「はっ……なかなかしぶといなお前。ゴキブリみてえだ」

「俺にとっては褒め言葉だな……」

「嫌味だよ、この野郎」


 男も息切れをして疲れてるのは目に見えているが……。

 俺はもう立っているのがやっとの状態だ。


 このままじゃまずい……。

 何か手を打たないと、こいつにはまだ……!


「さて……俺もそろそろ疲れたし、終わらせるか」


 男は、また手の平を離れている俺に向けてきた。


 そう、男にはまだ魔法という攻撃手段が残っている。

 俺にはもうそれは出来ない。

 出来たとしても、こいつと俺の魔法には純粋な力の差がある。


「さっきは躱されたが今回はそういかねえ。広範囲の魔法をやってやる」


 先程打った魔法より強い魔力量を感じる。


「しかし、俺は魔族の中では魔法は苦手なほうなんだ。だからこれだけの魔法も溜めないと出来ない。俺の唯一の弱点と言えるが、それを補って余りある力がある」


 俺の魔法より規模が大きいこいつでも、魔族の中では魔法が不得意なほうらしい。


 そうか、イレーネは得意だから何回も見ていたが、こいつとは比べ物にならないくらいデカかったな……。


 イレーネ……そうだよ、俺には負けちゃいけない理由があるんだ……。


 ここで負けたらイレーネが国を逃げなくちゃいけなくなる……。

 そして俺と会って……?


 あれ……そう、か。イレーネと会うことが出来たのはこいつが王になったからか……。

 そう思うと、こいつが王になるのも案外悪くないのかな……。


 俺がもしここから逃げれて、こいつがベゴニア王国を滅ぼして王になったら、イレーネは国を逃げて俺と会えるんだ……。

 それの何がいけないんだ……?


 じゃあ、俺は逃げることを、考えないと……。



 ――じゃねえだろ!



 俺は頭の中の考えがゴミみたいな内容になっていることに気づいて、自分自身を咎とがめる。


 なんて事考えてるんだ……!

 俺は前世であんな想いをしたのを忘れたのか!?

 この村を滅ぼされ、親父を、母さんを、ティナを失った喪失感を忘れたのか!?


 それにイレーネが国を逃げてから、どれだけ苦しみながら生きてきたのかも俺は知っているはずだ!

 イレーネを逃がすために、彼女が信頼していた執事やメイド、家族がフェリクスに殺されたんだ!

 それを俺に話した時に彼女が流した涙を、俺は忘れていたのか!?

 その涙を見て、必ず護ると誓ったはずだろ!


 こいつが王にならないとイレーネに会えないだと……?

 そんなの知らない。

 こいつが王になってイレーネが悲しむくらいなら、今はまだ会えない方がいいに決まっている!


 俺は彼女が、イレーネが――幸せなら、それでいいんだ。


 そう決意を固くした俺は目の前の男を睨む。


 しかし、こいつの魔法はもう止まらない。


「さあ――これで終わりだ、死ね。『炎波フレイムウェイブ』」


 俺の目の前が、炎で埋まった。

 どう足掻いても逃げようがなく、確実に当たる広範囲の火属性の魔法だ。


 だが……火属性なら、耐えられる。

 これが風属性とかで、俺の身体がバラバラになるみたいのだったら無理だったが、火だったら……。


 淡い希望だが、俺は死ぬわけにはいかないんだ……!


 そう思って覚悟を決め、炎の焼け付く空気を吸い込んで肺が焼けないように息を止め、激痛が走る覚悟を決めていた、その時――。


「『氷壁アイスウォール』!」


 俺の耳にそんな魔法名が届き、目の前に氷の壁が現れた。


 驚き固まっていると、炎と氷がぶつかり合い、俺の周りを炎が埋め尽くし、通り過ぎていく。

 しかし、俺には炎が全く届いていない。


 目の前の氷の壁が俺を守ってくれている。


 俺の周りから炎が消え、周りの草などが焼け焦げているにも関わらず、氷の壁はまだ健在でビクともしていない。


 この魔法は……!


 見覚えがある魔法を見て、聞き覚えがあった魔法名を唱えてる声がした方向を見る。


 するとそこには、息切れをして汗を流しながらも、俺の方に手を向けて魔法を使って守ってくれた、ティナが立っていた。

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