第16話 勧誘
――ティナside――
「はぁ……はぁ……! よいしょ……っ!」
今私は血だらけで気絶しているディアンおじさんを引きずっている。
エリックのところで異変が起こったことを知って行くと、男の人とエリックが対峙しているところだった。
そしておじさんがエリックの背後で倒れていて、すぐに治そうと魔法を使おうとしたけど、エリックに止められた。
多分、あの場でやっていたら私はあの男の人に狙われるからだと思う。
だけど、チラッと見たけどエリックも足を怪我していて、とてももう戦える状態じゃなかったと思う……。
「よし……ここまで来たら、大丈夫……!」
十分、エリックとあの男の人が戦っているところから遠ざかった。
金属と金属がぶつかりあう音が連続して何回も何回も聞こえてくる。
早くおじさんを治してエリックのところに行かないと!
私が行って何が出来るかわからないけど……魔法だったらリュークを助けられるから!
まずはしっかりおじさんを治さないと……!
おじさんを仰向けに地面に寝かせる。
一番大きい怪我は肩から脇腹にかけての斬り傷。
そこから大量の血が流れている。
早く止血しないと、血が出すぎておじさんが死んじゃう……!
私は魔力を溜めて、魔法を行使し始める。
「『治癒キュア』」
おじさんの身体の周りに光の膜のようなものが出てきて、おじさんをその光で癒し始める。
前にエリックに教えてもらった回復魔法だけど、今までこんな大きな傷を治したことないから出来るかどうか心配だけど……!
私は全力で魔力を操り魔法の質を高めようと集中する。
今まで私は魔法は適当にやれば出来るものだと思ってた。
実際、そこまで集中しなくても簡単に出来るようになった。
そのことをエリックに伝えるとなぜかエリックは複雑そうな顔をしていたけど。
だけど、もっとしっかり本気で集中して出来るようにすればよかったと今になって後悔している。
もっと魔法の質を上げておけば、おじさんを絶対に助けられるかもしれないのに……!
今出来ることは、私の全力の魔法でディアンおじさんを助けること……!
そう思って魔力を操り回復魔法をし続けると、少しずつだけど傷が塞がっていくのが目に見えてわかる。
よし……! この調子なら一〇分程度で全身の傷を塞げそう!
エリック、待ってて!
絶対に助けに行くから!
――エリックside――
「はっは! 楽しくなってきたな!」
魔族の男が俺の周りを縦横無尽に走り回り、前後左右から攻撃してくる。
「はぁ……はぁ……なんも楽しくねえ、よ!」
俺はその攻撃を剣で流して避けたり、身体をひねって紙一重で躱している。
「なんだよ! お前一人で戦った方が強いじゃねえか!」
先程から姿が高速で移動しているので、影でしか見えない男だが、周りから聞こえてくるその声は喜びに満ちている。
「一人になったから弱くなると思ったが、なかなか面白いやつだお前は!」
「まったく嬉しくない賞賛だな!」
喋っていると位置を把握しやすくなるので、息が苦しいが話を続ける。
後ろから刀で斬りかかってきたので、ギリギリで躱して迫ってきた男を斬ろうと剣を振るうが、こいつもギリギリのところで躱してくる。
「こんなに俺の攻撃を凌ぐ相手は、俺の国でもいない!」
そう言って男は一度攻撃をやめるのか、俺の目の前に出てきた。
こっちから攻撃を仕掛けたいが、俺は今回避に専念して体力を回復を狙っている。
「こんなところでこんな逸材に会えるのとは夢にも思わなかったぞ――お前、俺と一緒に来い!」
「……はぁ?」
男が何を言ってるのか俺には理解不能だった。
「俺の国は実力主義だ。ただの平民だった俺は成り上がるために強くなり続けた。そして今俺は、次の王になるところまできている!」
「……」
男の話を俺は黙って聞く。
「そして今回の戦争、俺が指揮を取ってベゴニア王国を潰したら王になれる。だからお前、俺の部下になれ! お前ほどの強さなら副王になれる。そんなにボロボロになりながら俺と戦える奴なんて俺の国にいない!」
「へー……俺は人族だがいいのか?」
「魔族の国は弱肉強食。お前ほど強ければ種族なんて関係ない」
男はなぜか熱烈に俺を勧誘してくる。
「俺の国は俺以外に見所がある奴が少なすぎる。だがお前がくれば十分これからもやっていける。どうだ、俺と来ないか?」
「……そうだな。俺がお前についてくと行けば、まずこれからどうするんだ?」
男は俺がその気になったと思ったのか、悪い笑顔をしながら説明してくる。
「まずこの村を滅ぼす! そして――」
「――わかった、そこまで聞けばもう十分だ」
俺は少しでも話を延ばすようにしようとしたが、そこを聞いてしまったら口を挟むしかなかった。
「すまないな、魅力的な話だったが交渉決裂だ」
男は俺の言葉を聞くと見るからに不服そうな顔をする。
「……何が不満だ? この村か? こんな村、お前ほどの男が固執する価値も無いところだ。それともあの女か? あんな何も取り柄が無いような女なんか捨てろ。俺の国に来たら望むだけの女をくれてやるぞ」
「――もう喋るな、お前」
俺が抑えきれない怒りと殺気を男にぶつけると、男が言葉を失いたじろぐのが見えた。
「俺が命を懸けて護ると誓ったこの村をお前が滅ぼすと言った瞬間、俺の答えは決まっているんだ」
「……そうか、残念。非常に残念だ。お前ほどの男を――こんなところで殺さないといけなくなるなんてな」
俺がもう話す気は無いと言外に告げると、男もまた戦闘準備に入る。
さっきまで俺はこいつの攻撃を躱してカウンターで殺そうとしていたが――今度は俺から動いた。
俺は体力を回復するために持久戦に持ち込んでいたが、こいつを倒すためには俺が一気に攻めて短期決戦にするしかない。
この魔族の男は強い。
俺は前世でも数えきれないほどの死闘を繰り返してきたが、一対一でここまで苦戦するのは初めてだ。
今まで戦ってきた中でこいつほど強いやつは片手で数えるほどしかいない。
それだけ強い相手なのに、今まで訓練してきたが俺は前世の時より身体が出来上がっていないからまだ少し、体力もつきかけている。
普通に考えれば俺は――こいつに勝てないだろう。
しかし――俺は前世より、何倍も力をつけてきた能力がある。
俺はこいつに向かって駆けだした時に――今まで溜めていた魔力を解放する。
「なっ! その魔力量は!?」
男は俺が向かってくるのを正面から待ち受けていたが、俺の魔力の解法を見て表情が変わった。
俺は約一時間、何かあった時のために魔力を溜め続けていた。
身体の中で溜まった魔力は余程の熟練者でないと感知できない。
俺は溜めていた魔力を剣に流す。
このまま斬ってもこの剣はこいつの刀をぶった斬って、そのままこいつの身体をも斬り裂くだろう。
しかし、こいつは俺の剣が危険なことがわかっているだろう。
だからこいつは俺の剣を受け止めずに、躱すことに専念するだろう。
男は少し焦った顔で後ろに下がろうとしてる。
やっぱり刀で受け止めることはせずに逃げようとしている。
だが――俺はそれを許すほど馬鹿ではない。
俺は剣に纏わせた魔力を、魔法に切り替える。
火属性の中級魔法――『纒炎ブレイブヒート』。
俺の剣に炎が纏まとわれた。
剣の切っ先から炎が伸びていて、刀身を二倍ほどにしている。
「くっ――!」
男がさらに焦った顔になり、逃げようとしているが――逃さない。
この炎の剣は、刀身が倍になっただけではない。
俺が男に向かって剣を振るう。
男は今まで俺の剣をギリギリで躱していた。
紙一重で躱していたその剣が、倍の長さになったらいくらこいつでも避けられない。
そして炎の部分がこいつの身体を捉えた瞬間――俺の目の前で大爆発が起こった。
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