第12話 村民の行動


 ――ティナside――


 今日はエリックの誕生日の次の日。

 昨日は家族で祝ってあげたが、今日は村の皆でエリックの誕生日を祝うために広場に皆集まっている。


 いつも私とエリックの誕生日の次の日はお祭り騒ぎで村の皆が祝ってくれる。

 この村には私たちしか子供がいないので、村の皆が私たちを息子や娘、孫のように見守っているらしい。


 いつも温かい目で見られるのは少し恥ずかしいけど……やっぱり皆が祝ってくれるのは嬉しい。


 エリックもいつも困ったような顔をしながらも満更でもないような態度をして……ってあれ?


 エリックがいない?


 私は周りを見渡してエリックを探すが、村の皆が酒やご馳走を食べる姿が見えるだけでエリックの姿がどこにも見えない。


「おばさん、エリックは?」

「あら……? そういえばいないわね。お手洗いにでも行ったのかしらね?」


 セレナおばさんに聞いてもわからないと言われた。

 どこにいったんだろう……?


 ……なんか少し嫌な予感がする。


 エリックは誕生日のお祝いの途中に抜け出すことなんて一度もなかった。いなくなるとしても私やおばさんに一言言ってからだった。

 それが今日は誰にも言わないでどこかに行ってしまった。


 そういえば昨日からエリックは何か様子がおかしかった。

 昨日もエリックはどこか上の空で、私たちが祝っている間も何か違うことを考えている様子だった。


 今日の朝もご飯をおかわりしていたり、朝の訓練で剣を振るっているときも何か変だった。

 いつもより鋭い眼差まなざしで……どこか鬼気迫るものがあった。


 ここに来るときもなんでかわからないけど……真剣を持っていた。

 訓練をしてたから間違って持ってきたのかと思ったけど……剣の扱いはいつも丁寧にしているエリックがそんな間違いをするのかな?



 私がエリックのことを探しに行こうか考えていたら――村の皆の様子がおかしいことに気付いた。


 何かあったのかと思って周りを見渡そうとすると……なにか地響きのようなものが聞こえてくる。


 最初は時々起こるような地震かと思ったけど……そこまで地面が揺れているわけじゃない。ただ遠くのほうから音が聞こえてくる。


 すると――誰かが斜め上を指さして声を上げる。


「おい……あれってなんだ?」


 その人が指さして方向を見ると……砂煙が舞っていた。


 この村から一〇〇メートルは離れている場所にその砂煙は舞っていて……今聞こえる地響きと関係していることは明らかだった。


「っ!? あの砂煙はまさか……!?」


 さっきまで酒を飲んで陽気になっていたディアンおじさんが目を見開いて大声を上げる。


「魔物の暴走スタンピートだ!! 荷物をまとめて逃げろ!!」


 その大声に村の皆は固まってしまってすぐに行動には移せない。私も訳がわからずに固まってしまっている。


「スタンピートって何ですかディアンさん!?」


 誰かがおじさんにそう言って説明を求めるとおじさんも切羽詰まったように怒鳴るように答える。


「魔物の群れがこの村を襲いに来ている!! 早く逃げろ!! 時間がないぞ!!」


 おじさんの答えに対してようやく皆が動き始めた。慌ただしくして村の皆は自分の家に荷物を取りに戻った。


 私もすぐに家に戻ろうとしたけど……あることに気付いてディアンおじさんの方へ走る。


「おじさん! エリックがいないの!」

「なに!? どこに行ったんだ!!」

「わからない! さっきからどこに行ったかわからないの!」


 おじさんは驚愕して固まってしまったが、すぐに気を取り直した。


「ティナちゃんは家に戻って家族と一緒に逃げなさい!! 俺はエリックを探しに行く!!」

「私もエリックを探す!」


 私は弟のエリックのことが心配になのでおじさんにそう言ったが、おじさんはかぶりを振って私に指示する。


「ダメだ! 危険すぎる! 大丈夫だ、あいつは俺の息子だ!! そう簡単には死なない!!」

「だけど……」

「ティナちゃんは家族、それとセレナと一緒に逃げてくれ! セレナには俺がエリックを連れて行くと伝えておいてくれ!」


 おじさんは私にそう言ってからどこかへ行ってしまった。


 どうしよう……エリックのことも心配だけど、お父さんとお母さんのことも気になる。

 とりあえず家に戻ってセレナおばさんにおじさんが言っていたことを伝えないと! その後エリックを探しに行こう!


 私はとにかく村の広場を抜けて家に戻るために走る。


 広場を抜けて少しすると私とエリックの家が見える。その前で逃げる準備をほとんど終えたお父さんとお母さん、それにセレナおばさんがいた。


「ティナ! 早く逃げるわよ!」

「ティナちゃん、エリックちゃんとあの人は?」


 セレナおばさんは私と一緒にエリックとディアンおじさんがいると思っていたのか、私にそう問いかけてきた。


「エリックがいないから、ディアンおじさんが探しに行ったの! おばさんは私たちと一緒に逃げろっておじさんが!」

「そうなの……わかったわ。じゃあ私達も皆と一緒に逃げましょう!」

「私はエリックを探しに行く!」

「ダメに決まっているだろ! ディアンおじさんに任せるんだ!」


 いつも落ち着いていて怒ったこともないお父さんが怒気を含んだ言葉で私にそう言ったので、私は少し臆おくしてしまった。


「でも……!」

「大丈夫よティナちゃん。あの人に任せておけば。それにエリックちゃんもすぐに帰ってくるわ」


 おばさんが私に優しく語り掛けるように言ってくる。


「……わかった」

「よし、じゃあ荷物を持って魔物の襲撃とは逆方向に行こう! そっちに行けば村の皆とも合流できるはずだ!」


 私は後ろ髪を引かれる思いだったけど、お父さん達と一緒に逃げることになった。


 しかし、私達が逃げようと思って村から出るところまで行くとそこでは村の皆が荷物を持って逃げずに留まっていた。


 何があったのか最初はわからなかったけど、近くに行くとなぜ逃げないか……いや、なぜ逃げられないのかがわかった。


「どうなってるんだこの壁は!? これじゃ逃げられないじゃないか!」


 そこには高さが約三メートルほどの大きな壁が出来ていた。それは魔物の侵入を防ぐために置いてあった柵の外側に設置されていた。


 ボロボロの柵より強固だということは見た瞬間にわかるものだが……これは村の全方位を囲っているようで、このままでは逃げられなかった。


「誰がこんなことを!」


 そう言いながら男の人が壁を何とかしようと、畑を耕すために使っている鍬くわでその壁を壊そうとしているがビクともしない。


「ダメだ……壊せそうにない」

「まさか……私達このまま逃げられずに魔物の襲撃を……」


 誰かが不安げにそう呟くと、不安や戸惑いが伝染するように村の皆は狼狽ろうばいし始めた。

 私も怖くなって足が震えている。


「は~い、みんな慌てなーい!」


 私の後ろからセレナおばさんが手を大きく叩いて自分に意識を注目させてから話し始める。


「さっきあんな近くに魔物がいたのにまだ一匹も村の中にいないってことは、何かに足止めされていると思うの。ってことはこの壁はここだけじゃなくて村を完全に囲っていて、魔物の侵入を防いでいる可能性があるわ」

「確かに……」

「あんなに近くにいてまだここに来てないのはおかしい……」


 セレナおばさんはさらに皆を安心させるために笑顔で続ける。


「今私の旦那がエリックちゃんを探しに行っているから、戻ってきたら旦那がこんな壁壊してくれるわ。あの人なら余裕よ」

「そ、そうか……あの人が来るなら大丈夫か!」


 それを聞くと村の皆はまだ不安は残っているが笑顔を見せている。さっきよりは皆が希望を持ってこの場で待つことが出来ると思う。

 私も少し足の震えが止まった。


 これも全部セレナおばさんのおかげだ。さすがエリックとディアンおじさんのお母さんだと思った。


 私もこんな大人になれたら、エリックに頼りにされるのかな……。


 そんなことを思いながら私はいきなり現れた壁に背を預けて座ろうとした。


 しかし――私はその壁からあるものを感じた。


 もっと詳しく感じるために背中を放して壁の前に立ち、そのまま壁に手を当てた。


 すると……いつも感じてるものを私は捉えることが出来た。


 これは……エリックの魔力だ!

 この壁からエリックの魔力を感じる!


 いつも私と一緒に魔法の練習をしていたのでわかる……この壁は絶対にエリックが作ったものだ。


 だけどどうしてこんなものを作ったんだろう……いや、それはさっきおばさんが言っていた。魔物の侵入を防ぐためだって。


 じゃあなんでこの壁を作ることが出来たんだろう?

 魔物の襲撃が来たのがわかってからやった? ううん、そんなの絶対に無理。

 この壁は地魔法で地面の土を使って作ったのはわかるけど、高さが三メートルで横幅も結構あると思う。

 そんなでかい壁を村を囲むほど作るのは、エリックより魔法ができる私でも無理。

 壁を作ることは出来るけどそれを短時間でこんなに縦にも横にも大きいものを村を囲むほど作るのは、一週間ぐらいかけてやらないと出来ない。


 じゃあエリックは……一週間以上前からこの魔物の襲撃を予測していた?


 私にはわからない……なんでエリックがこの壁を魔物の襲撃と同時に作ることが出来たのかを。


 エリック……あなたは何を知っているの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る