第11話 襲撃
俺は朝早く起きて、庭で剣を振るっていた。
昨日はティナと一緒に寝たが……今日のことを考えてばかりだったから熟睡は出来なかったが、身体の調子は問題ない。
前世の頃は一日中戦い続けたことだってあったから、それに比べたら今の調子は絶好調に近い。
今まで訓練してきたおかげで、ほとんど前世の頃と強さは変わらないと言えるぐらいには持っていけた。
この日のために俺は生まれ変わってから訓練し続けたんだ――絶対に全てを助ける。
決意を胸にして俺は集中して剣を振るってこの後の魔物の襲撃に備えていた。
すると、朝早いからかいつもより静かな足音が聞こえてきて、親父が庭に顔を出した。
「おお! エリックよ!!」
「親父、朝」
「お、おお……すまんな」
親父は俺に注意されると声を少し落としてから喋り出す。
「朝早くから訓練とはいいことだ! 俺はこれから森に狩りに行くが一緒に行くか!」
「……うん、行くよ」
俺は昨日の森の状況について思い出していた。
昼頃になったらいきなり魔物が襲いに来るが昨日の状況を見る限りいつもの森とは全然違っていたので、今行ってみたら少し変わってるかと思い、親父と共に森に行くことにした。
「そうか! では……静かに行くぞ」
親父はもう一度大声で言いそうになったが、俺が口元に人差し指を立てたのを見て声を落として足音を殺し歩き始める。俺もその後についていく。
「妙だな……魔物の姿が見えない」
親父がそう呟くのを隣で聞きながら俺は森を油断なく探索していた。
「今までも朝は魔物がいないことがあったが……ここまで魔物の気配がないのは初めてだ」
親父が言うには魔物は夜行型のほうが多いらしい。
昨日の夜に森の中を行動してるなら何かしら痕跡こんせきを残しているはずだ。
「しかし……それが今日の森にはない。足跡一つとして見つからない」
親父は地面の枯葉や土の状況を見ながらそう言って周りを見渡す。
「うーむ……ここで考えても仕方ない。村に戻るぞエリック」
「わかった」
親父ならこの状況について何かわかると思っていたが……やはり今までにもこんなことはなかったらしいから、原因はわからない。
俺も原因はわからないが……この後に起こることを知っている。
「何か良くないことが起こるのかも……?」
「そう決めつけるのはまだ早いが……村の皆には森で異常が起きているとは伝えておこう」
俺は親父にそれとなく魔物の襲撃について備えるように伝えようとしたが……それほど重要視はしていないみたいだ。
仕方ない。俺しか襲撃について知らないのだ。それをここで言っても信じてもらえないだろう。
だから――俺一人で護るために強くなったのだ。
そして俺と親父は村に戻って家に戻る。
家に戻る間に会った村の人には親父は森の状況について伝えて、一応森に近づかないように言っていたが……そのくらいの注意では意味はないだろう。
「ただいま」
「エリックちゃん、おかえりなさい」
「今帰ったぞ!!」
「あなた……」
「セ、セレナ……? どうしたんだ?」
「エリックちゃんをこんな朝早くにまた森まで連れ出して……」
母さんが親父に怒りだすのを見て俺は気配を消してその場を後にする。そこにいたら俺も怒られるからな。親父、許してくれ。
俺は森では汗をかかなかったが、朝の訓練では少し汗をかいたのでタオルを求めて洗面所のほうへと向かう。
洗面所に行くと、寝起きなのか少し瞼まぶたを重そうにして歯を磨いているティナがいた。
「ティナ姉、おはよう」
「ん~、おはよ~。はい、タオル」
「ありがとう」
ティナは俺がいつもこうして朝の訓練が終わった俺に水で冷やしたタオルを準備しててくれる。
朝に弱いティナだが、いつもタオルを用意してくれて良い姉だなと思う。まあ血は繋がってないが。
そして俺は軽く顔と身体を拭いて、ティナは歯磨きと冷水を顔にかけてさっぱりしてからリビングに向かう。
リビングでは説教が終わった母さんと、ちょっと落ち込んでいる雰囲気な親父がすでに朝飯の用意をして座っていた。
「おはようティナちゃん。今日もうちで朝ごはん食べてね」
「うん、いつもありがとう」
「いいのよー。エリックちゃんもティナちゃんの家に遊びに行かせてもらってるしね」
母さんの言う通り、俺はティナの家によく遊びに行く。まあ、ティナに誘われるからというのがほとんどだが……。
ティナの家に遊びに行くと結構な確率でティナの部屋でそのまま一緒に寝て朝はあちらの家で食べることが多い。
だからティナがこちらに泊まった時は朝飯は母さんがティナの分まで作っている。
俺とティナがテーブルに座って朝飯を食べ始める。
「あ、母さん。おかわりしていい?」
「あら、珍しいわねエリックちゃん。そんなに森で動いてきたの?」
母さんはそう言って親父のほうに目を向ける。親父は居心地が悪そうに大きな身体を揺らす。
「いや、そういうわけじゃないけど……朝の訓練を長くしたからおなか空いちゃって」
「そうなの? わかったわ、いっぱい食べてね」
母さんは俺の皿にご飯を大盛りにして渡してくる。……ここまでとは思ってなかったが、ニコニコしてご飯を用意してくれた母さんに悪いのでしっかり全部食べよう。
この後、昼頃に魔物の襲撃があると俺は覚えているので、その頃にご飯を食べている余裕はないだろうと思い、朝のうちにしっかり昼の分まで食べることにしたのだ。
「エリック、どうしたの?」
「ん? いや、ただお腹が空いてるだけだ」
いつもと違う様子の俺が気になったのか、ティナが俺に問いかけてきた。
俺は悟られないようにいつも通りに振る舞いながらおかわりした朝飯を食べる。
いつもの倍ほどの量を食べてから俺は庭に出てまた訓練を始める。
訓練というよりかは、最後の身体の調子の確認のようなものだ。
剣を振るって集中力を高めていく――隣にはティナがいるが俺の様子がいつもと違うとやはり気付いているのか、黙って俺のことを見ている。
一時間ほどしてから俺は訓練をやめて一息つく。
ティナが俺に近づいてきて魔法で濡らして冷たくしたタオルを渡してくれる。
「ありがとう、ティナ姉」
「ううん……エリック、何かあったの?」
「何もないぞ」
――今は、という言葉を俺は飲み込んで受け取ったタオルで顔を拭く。
俺はいつも通りにしているつもりだが、ティナにはやはり不審がられている。
「エリックちゃん、ティナちゃん。村の皆にあいさつしに行くわよ~」
母さんが庭にいる俺たちに玄関のほうから大きな声で呼びかけた。
「はーい!」」
俺はその呼びかけに答えながら緊張感を高めていた。
――とうとう、きた……!!
村では俺とティナしか子供がいないので、村の皆は俺たち二人の成長をまるで親のごとく見守っているのだ。
そのため、いつも誕生日の次の日は村の皆で集まって俺とティナの誕生日を祝ってくれる。
今から親父と母さんとティナ、四人で村の中心にある広場に行って村人全員が集まって祭り騒ぎのようになるのだ。
そして――その祭りの最中に魔物の襲撃があるのだ。
俺は腰に剣を携えることを忘れずに母さんのところに向かった。
そして――。
「はっはっは!! とうとう俺の息子は十六歳になったぞ!! 大変めでたいことだ!! これも皆のおかげだ!! 礼を言うぞ!!」
親父が広場の真ん中で演説のようなことをしている。
俺は主役ということもあって最初は真ん中で挨拶みたいなものをして皆にご飯やら飲み物やらを食べさせられたが、皆が酒を飲み始めると俺のことは構わずにみんな騒ぎ出した。
まあいつものことだ。そのおかげで俺は隅っこで皆のバカ騒ぎを見てられるのだ。
親父、母さん、そしてティナ、誰もが笑顔で俺の誕生日を祝ってくれている。
皆はこの平和な日常が崩れることなど微塵みじんも思っていないだろう。
俺だって思っていなかった……ずっとこの幸せが続くと信じていた。
しかし――俺だけがこの幸せが崩れることを知っている。
ならば俺が――護るしかないのだ。
ゆっくりと、誰にも気づかれないように広場を離れる。
俺は森のほうへと一人歩いていく。
森の入り口に着いて俺はその時に備えて剣を抜いて構える。
俺が剣を構えて目を瞑って気配を探り始めて数分後――その時は来た。
気配を探らなくてもわかるほどの地響きとともに、何百体という魔物の大群がこの村に迫ってきているのがわかる。
目を開けると森の奥から様々な魔物が興奮状態でこちらへと駆けてくる。
「やはり……なにかあるな」
普通は魔物同士でも種が違えば縄張り争いなどで戦うことが多い。
しかし、今目の前にいる魔物の大群はいろんな種が一斉にこの村を襲おうとしているのだ。
「まあいい……やることは同じだ」
「どこからでもかかってこい――この村は俺が護る!」
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