第10話 ティナの弟


 ――ティナside――


 私が小さい頃に一番明確に覚えてるのは、ある男の子と初めて出会った時。



 ある日、お父さんに連れられて隣の家に行った。その日はお引っ越しをした当日で挨拶回りをしていたらしい。小さい頃だからあまり理由などは覚えてない。


 隣の家に行くと優しそうな女の人が迎えてくれて、そのあとに家の中に入ると顔が怖い男の人がいた。

 怖くてお父さんの後ろに隠れたことを覚えている。


 そしてお父さん達が話している間に、その部屋にいた赤ちゃんが目に入って近づいて行った。


 その赤ちゃんは後から聞いて男の子と気付いたが、初めて見たときは女の子だと勘違いしたのを私は覚えている。

 可愛い顔立ちで、ぱっちりとした目は私を真っ直ぐ見ていた。


 あまりに可愛いから抱き着いてしまったが、今思うとあんな小さな赤ちゃんを強く抱きしめてしまったから可哀そうだったかな?



 男の子に出会ってから、私はほぼ毎日男の子に会いに隣の家に遊びに行った。


 その時には自覚はしてなかったけど男の子からは、赤ちゃんや子供とは思えないほどの『何か』を私は感じ取っていた。


 私が庭で遊んでいて派手に転んでしまい、膝を擦すりむいて泣いてしまった時に、一番早く私のもとに来てくれたのは男の子だった。


 男の子はまだ二歳になったばかりだったのに、私の膝を水で洗い流してくれた。

 手から水が出ているのを私はその時見てしまって、泣き止んでからそのことを男の子に聞くと魔法だと教えてくれた。


 まほうってなに?

 なんでまほうができるの?


 男の子に質問をすると全部答えてくれた。

 私より三歳も年下なのに、なんでこんなにいっぱい物事を知っているのか不思議だった。


 その後も、男の子といっぱい遊んでいろんなことを聞いて学んだりした。


 ある時、お母さんたちが私たちを姉弟みたいだと言っているのを聞いて、その時は近くに男の子のお父さんしかいなかったのでどういうことか聞いてみたら……。


 『頼られる女になれ』ということだった。

 私はいつも男の子に逆に頼っているとその時に気付いて、今度は私はがお姉ちゃんとして男の子に頼られたいと思うようになった。


 男の子はいつも走っていたので一緒について行ったりして、剣もやろうとしたけどそれはお母さんたちに止められた。

 代わりに男の子から魔法を教わって一緒に訓練をした。


 最初は上手くできなかったけど、一日ですぐに魔法っていうのがわかってだんだん楽しくなってきた。

 一緒に魔法の訓練をやっていると男の子は、なんだか複雑な顔で私を見ていたけどなんでかわからなかった。



 男の子のお父さんは私達の村ので数少ない狩人という仕事をやっている。

 内容はあまり詳しく知らないけど、森の中にいる危ない魔物や動物とかを倒しているらしい。

 倒した魔物や動物のお肉は村の皆に均等に配ってくれているので、村の皆から男の子のお父さんは信頼されている。


 その仕事に、男の子がついていくようになって私一人が家で待っているということが多くなってきてしまっていた。


 私が一〇歳の頃、初めてその仕事についていくことが出来た。

 お父さんとお母さんに内緒で男の子と森に行くのが楽しくて、スキップするような気分で森を歩いていたけど、男の子とおじさんが真面目な雰囲気だったので私も静かに後をついていった。


 急におじさんと男の子が止まって、不思議に思い二人が見ていた方向を見ると大きな魔物がいた。

 レッドボアという魔物らしく、この森にいる中でも危ない魔物らしい。


 私が物音を立ててしまい気づかれそうになってしまったが、運よく気づかれなかった。


 相談した結果、私と男の子が魔法を放って先制攻撃をした後におじさんが仕留めるという作戦になった。


 私は初めて生き物を殺すという行為や、上手くいかなかったらどうしようという思いで不安になっていたけど、そんな私を見て男のが私の手を握ってくれた。


 今まで私から手を握ったことはあったけど、男の子から手を握ってくれたのは初めてだった。


 驚いたけどそれまでの不安が嘘のように消えて、気づかずに震えていたけどそれも止まってしっかりと魔物のほうを向いて魔法を発動できた。


 結果はしっかりと私の魔法は親のレッドボアを切り裂いて、男の子の魔法は致命傷を与えてからおじさんが仕留めていた。

 その後、私の魔法を見たおじさんから狩人にならないかと誘われたが……男の子も狩人にはならないと前に言っていたので私も断った。


 村に帰るとお父さんとお母さんに少し怒られた。心配をかけるなって。

 私も黙って森に行ってしまったので謝った。


 だけど、森に行って気づいたのはやっぱり男の子はすごい頼りになるってことだった。

 私が震えていたのを収めるために声をかけてくれたり手を握ってくれたりした。


 こんな頼りになる男の子に……やっぱり私は頼られたいと思った。

 だから私はお姉ちゃんになることを諦めない。



 ――森に初めて行った日から数年が経ち、私は十八歳となった。


 そして今日は男の子、私の弟――エリックの誕生日。


「エリック、おめでとう!」


 初めて会った小さな赤ちゃんは十六歳となってしまって、可愛い顔立ちも今では少し男っぽくなっている。

 私よりずっと身長が低かったけど、今では私より少し大きくなってしまった。おじさんの身長を考えるとエリックももっと大きくなると思う。


「ありがとう、ティナ姉」


 私より身長が高くなってしまっても、小さい頃と変わらない笑顔で私に礼を言ってくれるエリック。

 その笑顔を見て私もより一層笑みが深くなる。


 いつまでもこの幸せが続くと良いな……。

 私はそう思いながらエリックの誕生日を祝っていた。



 ……最近かっこよくなってきた弟を見てドキドキするのはなんでだろう?

 お母さんに相談してみよっかな?

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