第6話 三歳の俺
俺は三歳となった。
身長も一歳の時とは比べると結構高くなり、筋肉もついてきている。
一歳の時より長い時間走れるようになり、筋トレなども回数をこなせれるようになってきた。
そして今俺は村の周りを走っている。
一定のペースで走っているが、時々全力で走ったりして身体に負荷をかけて鍛えている。
この村は名前がないぐらいの小さな村であり、村の周りを大きく回って走っても二キロほどである。
人口は一〇〇人程度で、村の周りは森に囲まれている。
時々森から野生動物や魔物が下りてきて荒らされたりするが、何度も何度も田んぼや畑を直して皆暮らしている。
何人かの狩人……親父みたいな人がいるので、最近は被害がないらしい。
そして俺は今走っているが……俺の後ろについてくる人がいる。
「待って……エリック……はぁ、はぁ……」
俺の二個上、五歳になったティナである。
俺が家の庭ではなく、この村の周りで走られるようになってからティナも俺についてくるようになった。
元からティナは俺の庭で一緒に遊んでいる……ということは、一緒に訓練しているということだ。
だから俺についてくることは結構出来ているが、さすがに俺は意識して訓練しているからな。俺には及ばないがついてくることは出来ている。
まあ身体は三歳と五歳。訓練の量は俺の方が多いが、身体能力はティナの方が上だからな。ついてこれて当たり前だろう。
「よし……今日の走る分は終わり」
「はぁ……はぁ……疲れた……」
俺達の家の前に着いたところでティナは倒れるように地面に寝っ転がる。
……俺たちの家って言うとなんか一緒に住んでるみたいだな。ただお隣さんって意味なんだがな。
ティナが寝っ転がっている横で俺は整理体操をしながらティナを見守る。
ティナも慣れてきたのか、いつも通りしばらく休むと立ち上がって俺と一緒に整理体操をする。
「エリックはなんでそんな平気なの……? 私よりちっちゃいのに」
「訓練してるからね」
俺は少し子供っぽく答える。普通の三歳児はもう少し子供っぽいと思うが、前世で二〇を超えた大人にはそこまで演技するのは恥ずかしいし難しいのだ。
「むぅ……納得いかない」
頬を膨らませて不機嫌ですと身体で正直に表しているのを見るとやはりティナは可愛いと思えてくる。
この村は先程も言った通り、人口は一〇〇人ぐらいしかいないので、子供は俺とティナしかいない。
だから俺の両親もティナの両親も同じくらいの子供を持っているし、お隣さんということもあって凄く仲がいい。
まあ今の俺達も仲は良いとは思う。さっき一緒に住んでいないと言ったが、最近はティナが俺の方の家に泊まって、一緒に寝ることが結構あるからほとんど一緒に住んでいるよなものだ。
ティナは抱き癖があるのか、寝てる時も俺のことを抱きしめてくるので結構つらいが……可愛い寝顔が見えるから俺は頑張って我慢している。
とりあえず汗をかいたから家に入って水浴びでもしようか。
「ティナ、水浴びしよう」
「こらエリック! お姉ちゃんって呼びなさい!」
「……お姉ちゃん」
「うん! しょうがないなぁ~、一緒に浴びてあげる!」
……最近、ティナは俺にお姉ちゃんと呼んで欲しいらしく、何回も俺に言い直させるようにしてくる。
きっかけは、俺の母さんとティナの母親が話しているのをティナが聞いてからだった。
『ティナちゃんとエリックちゃんはいつも一緒にいて仲良しよね~』
『そうですね、同世代のお友達が他にいないからお隣のエリックちゃんと仲良くなれて良かったです』
『こちらこそよ~。いつも一緒にいるから二人は姉弟みたいよね~』
『だけどエリックちゃんは落ち着ているからうちのティナが妹に見えますけどね』
『そうね~、エリックちゃんはどことなく落ち着いてるわよね。ティナちゃんとは身長差があるから弟に見えるけどね~』
『ティナにも見習ってほしいぐらいですよ』
二人に母親がリビングでそう話しているのをティナが聞いて、俺にお姉ちゃんとは何かを聞いてきた。
俺は適当に答えてやり過ごしていたら、親父がその場に来てティアが親父にも同じ質問をすると。
『お姉ちゃんとは! エリックに頼られるような女であることだ!! かっこいい女になればおのずとエリックに慕われることだろう!!』
とうるさく叫んで笑いながら去っていき、それがティアにとっては何かピンと来たものがあったのか、お姉ちゃんになろうと俺の訓練についてきたり、さっきのように強制的にお姉ちゃんと呼ばせたりするようになった。
微妙に親父の言ってることをわかってはないと思うが……ティナはこれでいいと思ってるのだろう。
今の俺にとってティナをお姉ちゃんと呼ぶのは恥ずかしいし呼びたくなかったので、何度か嫌だと断っていたらぐずって泣かれそうになったので、最近はすぐに呼ぶようにしている。
まだ少し恥ずかしい気持ちは消えないが、泣かれるよりはましだろう。
俺とティナは仲良く家の庭で水浴びをする。俺は上だけ脱いで水に浸したタオルで身体を拭くだけでよかったのだが、ティナは裸になって水を頭から被るようにして浴びる。今の時期少し暑いから冷たい水が気持ちいいのだろう。
「う~~ん!! 気持ちいいー!!」
そうはしゃぐティナの首ぐらいまである茶色の髪が肌に張り付いていて邪魔にならないのかと思うが、まあそこは女の子だから大丈夫らしい。
まだティナは五歳だから特に意識することはないが、ずっと見ていると変態のような気がするからすぐに目を離して俺は自分の身体を拭く。
そして俺はタオルを利用してまた魔法の訓練を始める。
水に浸したタオル……これは魔法で出した水で濡らしたタオルである。
俺が魔法の訓練をするようになって三年が経った。
もう既に前世での魔素の操る量は超えている。
前世でも魔素の量を増やす訓練は三年ほど続けていたが、効率が今の方が良いのでこの段階で超えることが出来た。
そして今では魔素を操るだけではなく、しっかりとした魔法の訓練もするようになった。
これによって質が上がるので更に魔法の訓練の質が上がって成長が早くなるだろう。
今のところ魔法に関しては順調だ。
後は早く剣……いや、木剣が欲しいな。
少しでも前世の頃に近づくために剣技の訓練は早いうちに始めたい。
剣技に関しては魔法のように効率などを考える練習方法はない。
ただただ毎日の反復練習だ。それが剣技の訓練の仕方である。
――剣の道に近道などない。遠回りもない。ただ一本の道を一番遠くまで進めるかである。
これは前世で親父に言われた一言で、一番俺の心に残っている言葉だった。
親父が死んでからこの言葉を信じて俺は剣の訓練を始めてから、一度も訓練をサボったことはなかった。
そのおかげで剣の腕前は中々のものだと自負している。
しかし……俺は今三年もの間、剣を握ってすらいない。
これは大きな痛手である。三年もサボっていると考えると恐ろしくて身震いまでする。
前世では一〇年以上の月日を剣技の腕に磨くためにかけたのだ。
魔法とは違い、この身体だから良いということはなく、逆に身体能力が前世より劣っているために時間をかけるかもしれない。
だが……あまり時間はない。
剣技の道は一本。近道はなく、遠回りもない。
それならばその道を――全速力で駆け抜けよう。
まだ木剣すらもらっていないので、そろそろ親父に特訓を受けたいとかいえば今すぐにでももらえる気がする。
あの性格の親父のことだ。
『はっはっは!! お前は真の漢になりたいと言うのか!! いいだろう!! すぐに特訓をつけてやる!!』
とでも言って、すぐにくれるだろう。
最初の内は一緒に訓練するのも悪くない。一回も親父と訓練は前世でしたことがなかったので、良い特訓になるだろう。
「ねぇエリックー」
「ん? なに?」
俺が早く剣の練習を始めたいなど思考していると、ティナは水浴びが終わったみたいで裸ではなくて既に服を着ていた。
「エリックってまほう? の練習してるんでしょー」
「うん、そうだよ」
「私にも教えてー!」
「ティナに?」
「お姉ちゃんに!」
「……お姉ちゃんに?」
「うん!」
どうしようか……。
俺は前世から魔法を使ってきたが、前世ではあまり上手く使えなかったので戦いではほとんど剣一本で戦ってきた。せいぜい使うとしたらマッチを使うより魔法で火を起こす方が早いなどから使っている生活魔法レベルだった。
そして今は魔素の量は前世よりかは多くなったが、魔法はまだ前世の方が上手く使えている。
だから俺はまだ魔法なんて教えるほど上手くなってないのだ。せいぜい教えることが出来るとしたら最初に魔素を感じる方法など、魔素を操るときのコツなどだ。
だが……そうだな。
「いいよ、やろっか」
「ほんと!? やったー!」
ティナは嬉しそうにその場でぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
これから数年後……あの日までに少しでもティナに強くなってもらえれば、安心できるかもな。
いや、ティナが強くても弱くても俺が護るんだが……備えあれば憂いなし、って言うしな。
そう思って俺はティナに身体の中の魔素の感じ方などのコツなどを教える。
「……っていう感じだよ、わかった?」
「うーん、むずかしいよー」
ティナは目を強く瞑って、身体の中の魔素を感じようと試みる。
まあ最初から上手くいくとは思ってない。
前世の俺でも身体の中の魔素を感じるようになったのは始めてから一週間後だった。
十五歳の頃の俺が一週間もかかったのだ。今五歳のティナが魔素を感じるようになるのは早くて半月、普通に考えれば一ヶ月だろう。
しかも五歳の子供だからそんなに長期間同じことを頑張れはしないだろうから……まあ長く見積もって三ヶ月ぐらいで魔素を感じればいいと思ってる。
それだけ長くかかっても出来ない人は出来ないしな。全く才能がない人は一生魔法は使えないと言われている。
ティナが少しでも才能があればいいんだが……。
しかし、この時俺は思ってもいなかった――。
――ティナに魔法を教えることを後悔する日が来るなんて。
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