外見に駄目出しされたヒロイン②

 汚い罵りをうけた少女、航海難杏受(こうかいなん・あんじゅ)は、晴天の海を連想させるように鮮烈な深い青を湛えたサマードレスに、灰色のジャケッドを着こなした姿だった。革のブーツでコツコツと床のセラミック床の感触を確かめつつ、うんざり気味に頬の端を吊り上げた。それは、嘲弄だった。声無く笑い、ふと流し台の傍にあった鏡へと首を曲げる。さっと笑みが消える。この三十分ばかりで十人以上を殺した〝掃除屋〟と目があったからだ。

 銃声も怒声も遠く、濃密な血の臭いもその瞬間だけは忘れてしまった。

(相変わらず、仕事中は〝ぶっさいく〟な顔してるわねー、私)

 歳は今年で十六歳。身長は百六十センチ程度で細みの体躯だ。同年代よりも、やや幼い顔付きで、綺麗よりも可愛いという言葉の方が似合うだろう。もっとも、その瞳に宿るのは暗く、冷たい殺気だ。張りのある肌、尻から太股の曲線美、薄桃色の唇、さらりと揺れるセミロングの髪。その全てが、静かな戦意という薄い膜に覆われている。だからこそ、その可憐な容姿よりも先に、右手に握られた〝銃器〟へ視線がいってしまうのだ。

 情熱の国・スペインが誇る銃器メーカーであるアストラ社のアストラ・モデルNCⅥ。

 三八スペシャル弾を扱う回転式拳銃(リボルバー)である。これが、杏受の相棒だ。汗を瞬時に吸収してくれる木製グリップの感触を確かめ、自分がおかれている状況を再確認する。



 寝ぼけ眼を擦りつつ、下着とタオル、制服を片手に風呂場へと歩を進める。ちなみに、今はパジャマ無しの下着姿だ。肉付きの良い太股や腰周りが危なっかしい状態だが、誰も見る輩はいないので〝問題無し〟だ。ふと、己の胸元に視線を落とし、自嘲気味に微苦笑する。杏受は己の容姿にそれなりの自信を持っているのだが、どうにもこうにも乳房だけは一向に成長してくれないのだ。恐らくは、中学時代に栄養の少ない生活を送っていたからかもしれない。身体を資本とする仕事を想えば必要ない、むしろ、邪魔なのだが、やはり多少はあった方が〝良いと思う〟。無い物ねだりと分かってはいるが、イマイチ割り切れない杏受だった。

 脱衣場に着き、下着も脱いで籠に放り込む。生まれ立ての姿になった杏受は風呂場のドアを開けた。




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