グロ過ぎる、とは指摘されなかったシーン。※二次落ち。


「あ、ガガガッががッががっガガガッがっががgだをおwhうぃhふぃおあくぉjqじぇおpqじぇおじょqじぇおqじぇおjqじぇおpqじょえじょ2くぇお2qへじょっぺqぺpqじぇおjq2えじょpqじぇおpq2えおpqp@3お!!??」


 おおよそ、人間の口から発せられた声とは信じられない、信じたくない絶叫を工房内で響かせたのはリターナだった。勝負を明日へと控えた晩、彼女は、己が主人によって肉体を改造されていた。第四工房の作業台に四肢を固定され、寝かされていた。ところで、キドニーパイの正しい食べ方とは、パイ生地を破って中の煮込まれた臓物を食べるのが正しい。少女の腹部は十字に割かれ、機械で固定され、乳房から下、股間から上の内臓が全て、露出していた。腎臓、小腸、大腸、肝臓――一つにつき、一本の針が刺さっていた。まるで、これから標本でも作るかのように。

「ええっと、次はどうしようかしら」

 まるで、部屋の模様替えでもするかのような軽い口調は、白衣を纏ったクロッカセールだ。明日の戦いに勝利するためと、大々的な改造を命じられたのだ。当然、断れるわけもなく、リターナは彼女のなすがままにされていた。

「そういえばリターナ。カリシュメールと遊んで楽しかった?」

「ひ、は、はひ? たのし、ひゃ、楽しかった?」

 どうしてそんなことを聞くのだろうか。リターナが困惑した時だ。露出した内臓へと、クロッカセールが何かの液体を注いだ。腐った血のように赤黒く粘っこい何かが蒸気を零す肝臓に触れた瞬間、脳の一部が削り取られたかのような激痛――物理的な衝撃が魂を直接叩く。

「あが!? うぎぃいいい!? おうおうおうおう!?!?!?」

「昨日ね、ミューリが交戦したのよ。誰と戦ったと思う? まあ、知っているけどね。後で、〝面白く〟してやるわ」

 何かを語るクロッカセールだが、リターナは全身を内側から襲う激痛で思考を纏めるどころではなかった。そんな少女を見下ろし、赤き魔女は不思議そうに首を傾げた。

「バジリスクの体液はまだ、刺激が強かったかしら?」

 毒蛇の王・バジリスクの体液は猛毒以外の何物でも無い。



後方に跳びつつ距離を取ったリターナが腰のホルスターから抜いたのは純銀の短剣だった。柄がクラシカルな木製で、剣身は細く肉厚な両の直刃である。単体でも高い切れ味を誇るも、真なる意味は魔女の詠唱と共に完成する。柄を握る右腕に更なる力が込められた。

「――出で生じよ、枯渇池の茨よ。我が血を啜って力と成せ!」

 右手に鋭い痛みが無数に走った。柄から飛び出した棘が少女の柔肌を抉り、肉へと食い付いたのだ。握らずとも、これで短剣は強制的に腕へ固定される。血が吸われる熱くも冷たい感覚が背筋に駆け抜け、意識が飛びかける。それでも、左足だけで踏ん張り、リターナは敵を見据える。この程度の痛みで戦意を失うほど、軟な〝改造〟は施されていない。

 ヒューベルステンが、信じられない物を見るような瞳を向けた。左腕をだらりと下げたまま、右腕だけを軽く構える。



 影刀が真横へと振られ、ミイラ女の胴体を右肩から左腰にかけて、薄紙一枚の抵抗も無く両断したのだった。ずるりと上半身が前のめりに倒れ、釣られて下半身も同様の末路を告げる。続けて、反撃が無いように鎖の群れが残りの腕や足、頭部を拘束していく。その途中、リターナの視線が己で作った〝断面〟を見て、険しい顔付きへと変化した。血は流れず、人間としての肉も骨も血管もなかった。その替わりに包帯内へ詰まっていたのは汚泥だったのだ。デムズ河の底を漁ればいくらでも見付かるだろう腐敗臭の塊である嫌悪物。

 芋虫が蛹へと変態している時、内部では幼虫の身体がドロドロに融け、新たなる形である蝶に変化しようとしている。これは、それに似た原理で発動した魔術だ。包帯を一種の器へと変え、内部を〝人間であって人間ではない物〟で満たして無数の腕を操る術式。

 しかし、生贄となった、犠牲となった女は〝元の姿〟に戻れるのだろうか? リターナが未だに腕を動かそうとしている、しぶとい敵に止めを刺そうとした時だ。ミイラ女が悲哀の声を漏らしたのだ。

「嫌よ、死にたくない! 絶対に元の身体を取り戻すんだから。ここの魔女を殺せばマスターは右目を返してくれると言ったわ! きらきらした綺麗な私の右目! 白黒の世界じゃなくて色のついた景色をまた見たい! 次は左目を返してもらって、耳を返してもらって、口を、喉を、顔を返して貰うの! そうして元通りになってやっと夫の元へ帰れるんだわ。遅くなってごめんなさいって謝ってキスをして貰うの。私は夫の為に鰊のパイを焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いてテテテッテテテッテテテッテテテテテテテ――」

 頭部を鎖が締め付け、そのまま砕く。鎖の隙間から汚泥が溢れ、他の肢体から力が抜けていく。こうして、不幸な女は結局、ミイラ女(バケモノ)のまま生涯を終えたのだ。

「……ああ、それは素敵な願いだね。けれど、きっと叶わなかっただろうね」



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