chapter 26/26
096. 醜悪なる起源
コツン。
収容の直前に、被検者はこの音を耳にするらしい事から、私達は「死神の
戦争による負傷兵、
まあ別に、もう珍しい事じゃない。中国やアメリカ、ロシアなどの大陸が、小島に粉砕され大混乱な事情を思えば、こちらなんて随分可愛い被害で済んでいると思う。
馬鹿げていたのだ。最初から。
魔法側に、喧嘩を売るなど。
きっかけは鉄側の、魔法側への嫉妬。
らしい。
まあ魔法側がそもそも未知の塊のような存在なので、本当の原因は分からないが。
人類が始まってから間も無く、世界を綺麗に二等分する壁を作り、干渉し合わないよう暮らして来た者同士が、何故妬むのか。
壁を越えようとした者がいたのだ。
魔法側からも、鉄側からも。未知とは誰にとっても魅力的で、興味関心とは時に、世の規律を狂わせる。
今に始まった事では無いらしい。
実際、魔法側へ渡ろうとした鉄側の人間は数知れず、それが起きる度に国は、秘密裏にその者達を抹殺して来た。科学者、宗教家、ただの馬鹿。それは様々な人間が壁の向こうへ夢を見て来たそうだが意外にも、それは魔法側でも、起きていた日常らしい。魔法側でもそういった者達には、それは厳しい罰を与えて来たとか。お互いに公には出来ない方法で、互いの不干渉を保ってきた。その不干渉が、とうとう破られた訳である。それにより噴き出したのは、不満と嫉妬。
魔法側の人間達とは、鉄側の私達より出生率が低く、世界に散らばる魔法側の人口を搔き集めてもその数は、鉄側の総人口のたった五分の一。世界を綺麗に二等分して暮らすには、鉄側からすれば魔法側は、余りに広大な土地を有し続けて来たという訳である。こっちは人口爆発による水不足や食糧不足が嘆かれる中、それは大きな不満となった。然し魔法側の言い分は、加減も弁えずぶくぶく数を増やすからだろうという、至極高圧的なもの。魔法側の出生率の低さは、生まれ持つ魔力が関係しているのではないという調査がされているが、はっきりとした答えは未だ出ていない。然し確かに我々鉄側は、何も考えずに木々を切り倒し、海を汚し、
ただ、そんな議論をしている余裕も無い程、鉄側とは目が眩んでいたらしい。
魔法側が持つ、広大かつ何ら汚染されていない美しい土地と、魔法という、厄介なガスも物質も排出しない、クリーンかつ絶大な力に。人的資源――いや、単なる資源そのものだと、魔法側の人間達を見て、鉄側の多くの権力者達は解釈した。圧倒的な文化水準の差の下に、魔法側の人間達を、未開の部族のようにでも捉えたらしい。言葉も全く通じないので。
そしてじわじわと、病のように始まっていった、壁を乗り越え魔法側の文化や人間達に接触するという、先進国らにより秘密裏に行われていた禁忌は、鉄側の、魔法側の人間を誘拐するという事件で、明るみに出る。
目的は単純なものだった。魔法を知る為に、魔法使いを調べたい。要は、実験なり何なりだ。意味不明な言葉しか発しない、我々からすれば何世紀も前の文化レベルで生活しているような遅れた人種、恐るるに足らずと勇んで誘拐に走った訳である。壁に近い地域で暮らしていた、取り分け無知だろう子供を狙って。
結果は、狙われた子供が鉄側の土地に入ってから暴れ出し、先進国の優秀な特殊部隊から選出された誘拐犯五名を、バラバラに惨殺するという形に
そう。始まりである。
世界をきっちり二分した、
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